朝チュン土下座事変

朝チュン土下座事変



朝起きたら部下が土下座していた。


これだけで混乱するには余りある事だが、重たい頭が昨夜の記憶を思い返していけば、もう朝から大混乱だった。

昨日は一通りの業務を終えそのまま自室に帰ろうとしたが、部屋に入ってきた隊員に飲みに誘われた。なんとなく、今日は飲む気分じゃなかったから断ろうとしていたが。


「じゃあ、ぜひ参加させてもらおうかな」




「……」


そうだ。そうだった。その後は驚いて固まっている自分も何故か参加することになって。なんかペース早いなこいつ、と何故か合わせるように馬鹿みたいに酒を呷って。気づいたら、誰かに支えられながら道を歩いてて。気づいたら、藍染の肩越しに自室の天井を見上げていた。


「……あー、惣右介?とりあえず顔あげへんか?」


若干かすれ気味の声で告げると、藍染はゆっくりと体を起こす。なんだか覚悟を決めたような顔に気圧されつつも、ここは一つ告げねばならない。


「昨日のことは犬に噛まれたもんと思って忘れるから、お前も忘れろ。ええな」

「……は」

「いや、こんなん事故みたいなもんやろ。ていうか事故や。お前がそれでええなら俺も忘れる」

「…………いや、それでいいというか……隊長は、よろしいので……?」

「やからええって何遍も言ってるやろ」


本心だった。愛染が自分に手を出すつもりなど一切ないことはわかっていた。だから今回のことは本当に事故で予定には全く無いことだろうとも。でなければこの男がこんな土下座みたいな真似するわけがない。


「とにかくそういうことやから、この話はこれでしまいや。分かったらとりあえず部屋戻り。誰かにここから出るの見られて噂されるのはかなんやろ」

「……そうですね。では、失礼します」


軽く服を整えて部屋を出る藍染を見送る。足音が徐々に遠ざかっていき、やがて完全に聞こえなくなると平子は盛大に溜息をもらした。二日酔いで痛む頭を抑えるように手で支えながら盛大に項垂れる。


(やらかした。完全に油断したわ。酒で潰れて抱かれるとかホンマにあるんかい)


今は朝日が差し込むこの部屋の、この場所で、自分は藍染に抱かれてしまったのだ。

暗い部屋では見知った自室すら満足に分からず、窓から入ってくる月明かりに照らされた、自分を覆う男しか見えなかった。

酒のせいか赤く照った顔。その顔で自分の名前を何度も何度も呼んで。その口で噛みついてきて。痕を残してきて。

覚えている。全て覚えてしまっている。

暴かれた場所に何度も感じた熱さえも、鮮明に覚えていた。


何気なしに自分の体を見下ろす。記憶にある通り胸元に咲いていた赤い痕が目に入った。それと一緒に他の場所にある噛み跡や、両手首にある、抑えられた為にできた赤い線。

幸いにして体にできた噛み跡などは服で隠れるだろうが、手首の痕はふとした時に見えそうだ。

それこそ、普段一番近くで仕事をする相手とかには。


「……これ、暫く残るんちゃうやろか」


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まぁ、一番近くで仕事をする相手がハゲにならないとは言いませんが。

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