望まぬ祝賀

望まぬ祝賀


旅行概念でワノ国で宴開かれる概念で脳を焼かれたのでちょっとした話、いや大分長いな。今まで書いた事の無いキャラが何人かいるのでエミュ上手く出来てないかもしれないですがご了承ください

ちょっとだけ出てくる旅行中の変装やら何やらは個人の趣味で書いてます、あとキャラの台詞等は勝手にパク……お借りしてます

定期的にサイレント修正いれるかもしれないです

手を出されてる世界線なので直接的な描写は殆ど無いのでやる事やってる描写があるので閲覧注意





 横たわる部屋の外からどんちゃん騒ぎが聞こえてくる

 戸の隙間から差し込んでくる光と楽し気な光景に、今の完全に沈んでいる自分の感情が不釣り相なのは十分承知している

 だが、一体どうして楽しめるだろうか


 今いる部屋は俺も知っている、ワノ国じゃ一般的な内装のいわゆる和室と呼ばれる部屋だ。ドフラミンゴの城にもあるし、定期的にそっちに入れられる事もある

 ただ少し違うのは、ドフラミンゴの城の方は赤い格子だが、この部屋は襖と呼ばれる戸で区切られている。ほんの一枚の薄い戸だとしても、格子と比べたら格段にこちらの方が良い

 そう、俺は今ワノ国に来ている。本来だったら一年以上前に、自分の海賊団のクルーや麦わら屋の一味と共に来ていた筈の国に、ドフラミンゴに連れられて


 体力も筋力も落ち、逃げ出す事はおろか反抗する事すら出来なくなった俺を、一体何の気まぐれかドフラミンゴは外へ連れ出した

 元々城の外へ連れ出して、望んでもいない空中散歩に付き合わされたりもしたが、それとは完全に違う、いろんな国を巡るいわば旅行だった

 そのままの恰好じゃ出歩けないからと服装は趣味じゃないどころか男物ですらない服を記せられて、タトゥーを隠すための手袋を着けられて、隻腕だと偏見なり同情なりでろくな目で見られないからとあいつの能力で作られた右腕を付けられ、勝手に喋らないようにと糸で声帯を弄られて、首輪の変わりに海楼石の付いたチョーカーを巻かれて、顔は腕と同じくあいつの能力で作られたベールで隠された


 あいつは自分の見た目を作り変えていた。と言っても髪の色も変わらなければ背丈も変わらずだったが、特徴的なサングラスは外して、昔みたいに少し伸ばした髪で目元だけ隠していた。それがどうしても、コラさんと似ているから苦しくなった

 あのコートは目立つから小さく細く、ストールに変えて首からかけていた


 そうして連れ回された国や街で出会う人達にどんな関係か、この国には何で来たのかと聞かれた際、ドフラミンゴは決まってこう言った


「夫婦だ。妻が病弱でな、ここへは療養を兼ねて旅行で来たんだ」


 と

 あぁ本当にふざけてる、馬鹿げている

 誰が病弱な妻だ、俺は男だぞ。そもそもここまでボロボロにしたのはお前だろうが

 そんな思いは湧き上がっても声は出せない。そもそも今の俺にこいつに反抗出来るだけの力が残っていない

 それに何より悔しいのが、行く先々でその言葉を聞いた人達が誰一人疑わず、俺が男である事すら気付かれなかった事だった

 細くて脆い腕に、ドフラミンゴに支えてもらわなければ自力で立っていられない脚、筋肉が落ちたせいで常に寒くて震える身体は端から見ればまさしく『病弱な妻』なんだろう


 そうしていろいろな国や島を訪れて、『病弱な妻』と『献身的な夫』の出来上がりだ


 だがドフラミンゴの変装は本来の姿と近しいのもあって気付く奴は気付いた

 だからだろう、そこからどんどん情報が拡散されていった。そうなると誰か一人は必ず金になると考える奴が出てくる


『熱愛発覚!?ドンキホーテ・ドフラミンゴに妻が!?』


 大きな見出しでそう書かれた新聞を見せられた時は眩暈がした

 何で、どうして新聞なんかに?こんなの誰の目にも触れる物だろう

 一言も妻が俺であるとは書かれていなかった、けれどこの新聞を見た者が、そこから更に噺が伝わった者は皆『ドフラミンゴが抱き上げる写真の人物が妻』だと認識した筈だ

 誰も知らない、だけど俺は知っている

 それが『トラファルガー・ロー』であると知っている


「フッフッフ、皆が祝福してくれてるぜ?なァ、嬉しいだろう?ロー。俺とお前が世間で『夫婦』と認められたんだからなァ」


 そう言われた時は流石に吐いた。毛穴という毛穴から汗が噴き出して嫌悪感に蝕まれて吐いた


 新聞にそんな記事が載って暫く、ドフラミンゴに出掛けるぞと外へ連れ出された

 またいつもの『療養旅行』かと思ったが目的地に着いて俺は驚愕した

 到着したのはワノ国。ドフラミンゴの取引相手であり百獣海賊団船長、四皇の1人、百獣のカイドウが統治する国だった

 その上今回の目的は祝賀会の主役『ドンキホーテ夫妻』として出席する事だった


 あぁ駄目だ、眩暈がする

 全身の血の気が引いて体温が下がっていく感覚がする


 角の生えた髑髏のような建物に入って早々に中途半端に動物に変身しているカイドウの所の下っ端連中が目に入った。こいつ等SMILEを食った奴等か

 案内されてドフラミンゴ共々衣装部屋のような部屋に通された

部屋の中には大量の着物。どれも良い生地に細かな刺繍で描かれる絵柄の入った物ばかりで高価な品であると容易に想像出来る

 それと同時に『ドンキホーテ夫妻』の為に用意されたのだと理解して吐きそうになった

 手伝いの為に部屋に残っていた奴等を追い出し、二人きりで着物を選んだ、あいつの着物を選ばされた

 着付けも、どうせベールで隠れる化粧も全て済ませて部屋を出れば、先程外へ出された奴等が待機していて宴会場へと案内された


 吹き抜けの上層階、下の階を見渡せる舞台の様な場所に連れて行かれるとあまりの人の多さにたじろいだ。その先にドフラミンゴがいて寄り掛かる形になった


「ウォロロロ、噂に聞いた通り体が弱ェみてェだな」


 俺達の到着でも待っていたのだろうカイドウが部下を二人連れて姿を現してきた。

 二人共以前カイドウに関する情報を調べた時に見た。百獣海賊団の最高幹部「旱害のジャック」と「火災のキング」だった。それとさっき下を覗いた時に一際盛り上がりを見せるダンスを踊っていたのは「疫災のクイーン」だろうか

 見られた事が嫌ですぐに離れようとしたが、肩を強く抱かれて離れられず、そのまま身を預け続ける事になった


「今日は俺の無茶を叶えてくれて助かったよ」

「なァに、この程度何てこたァねェよ。これからも互いに良い付き合いがしてェからな」


 1人話について行けない俺を置いてドフラミンゴとカイドウの会話が続いていった

 聞けば病弱な妻に結婚祝いの宴会を開きたいがあまりの喧噪だと体調を崩しかねない、だから力を貸してほしいと

 何で望んでもいないのにそんな物に参加されられないといけないんだよ

 グルグルと文句ばかり浮かんでは声に出せずに消えていった

 舞台の真ん中、端の方までカイドウが歩いて行くと下の階の騒ぎが少しずつ静まっていった


「お前等、今日は祝いの席、俺の良き取引相手のジョーカーの結婚祝いだ。存分に騒いで祝え!」


 ドッと湧き上がる歓声が建物を揺らして地震が起きてるように感じる

 下層階からいろんな声が聞こえる。どれも祝福する言葉ばかりだった


(きえたい)


 今すぐにここから消えたい

 会場の雰囲気と自分の気持ちも何もかもが不釣り相だ

 全員が全員心からの祝福って訳じゃないだろうが、それでもその言葉を受け取れない、受け取りたくない事が何も知らない奴には申し訳なくなってくる

 何か起きたら呼んでくれと大看板二人が部屋を出て行くと、そこから間もなくして料理が運ばれてきた。ワノ国特有の物らしい料理は正直どう食べれば良いのか分からない物ばかりだったが、今の、この格好をしている時の俺にはやる事がある。やりたくないけど、でもいつの間にか身体に染み込んだ習慣だった

 ドフラミンゴが盃を持ってすぐに酒瓶を持って酌をした。半分以上無意識でだった


「おいおい、早々に見せ付けてきやがって」

「そんなつもりはねェんだがな。普段からやってるから習慣づいてんだろ」

「惚気やがって。俺にもしちゃあくれねェか?」


 ずいと、カイドウが盃を差し出してきた。カイドウの体格に合わせているせいで俺の背丈くらいあるんじゃないかというくらいの巨大な盃だった

 チラとドフラミンゴを見れば注いでやれと視線で伝えてきた

 言われた通りに注げば、予想はしていたが酒瓶1本をその1杯で空にした


「頼んでおいて何だが、主役がやる事じゃねェな。悪いなおひいさん」

「本人がやりたくてやってる事だ、気にすんな」


 あぁ


「それにしても、お前いつの間に結婚なんてしてやがった?」

「それに関しちゃ少し前だ。だが付き合いは長ェよ。前にシーザーを麦わら達に攫われた事があっただろ?あの時もこいつの支えがあったお陰で無事にシーザーを取り戻せたんだからななァ」

「そいつァ初耳だな」


 今ならこの空きビンで


「そういう事ならこれからも旦那を頼んだぜ?おひいさん。ジョーカーも嫁は大事にしてやれよ?」

「フッフッフ、あァ勿論」


 ドフラミンゴの頭を殴れるかな


 酒も入って、カイドウとの会話に集中している今ならあるいは……


「そうだ、妻はワノ国の楽器も幾つか弾けるんだが、折角だ、聞いちゃくれねェか?」


 話を振られてハッとして、そして妻と呼ばれて自分の事だと瞬時に理解してしまった事に嫌悪した

 ドフラミンゴの提案にカイドウは乗り気で了承した

 部屋に持ってこられたのは城で、爪を剝がされた状態ですら練習させられた琴だった

 俺の前に置かれた料理は一旦端へ移動され、そうして置かれた琴と一緒に演奏の為の爪を渡された

 曲数は対して知らない、知っているのはワノ国で聞いて気に入ったとドフラミンゴが弾かせてきた曲ほんの数曲くらいだった

 爪で弦を弾いて、弦を押さえて音の高さを変えて、いつもは城で弾く曲を初めて外で奏でた


「ほぉ、良いじゃねェか。俺ンとこの芸者の手本に置いても良いくらいの腕前だ」


 そうなんだ、いつもドフラミンゴに対してしか演奏した事無かったから自分がどれだけ弾けているのか知らなかったな。でも逆に言えばそれだけ弾かされたんだな俺は

 一曲弾き終え二曲目に入った時、ふいにカイドウから話を振られた


「おひいさんは歌はどうなんだ?出来りゃ弾き語りなんかも聞きてェな」


 その言葉に演奏する手が止まった

 歌?そんなの無理だ。今の俺の声帯はドフラミンゴが糸で振動しないようしているから一切声が出せない。それに下手に声なんて出して俺が誰か知られたりなんてしてみろ、それこそ本当に死にたくなる

 何も言えず、何も出来ず、ただ俯いて琴の弦ばかりを見ていた


「それなんだが、少し前に喉を患ってな。それから上手く声が出せねェんだ」

「おっと、そいつァ悪ィ事言っちまったな、今言った事は忘れて構わねェ」


 ドッと安堵から汗が噴き出す感覚がした

 助かった、と思ってしまった。ドフラミンゴのせいでこうなったがドフラミンゴのお陰で今この場は切り抜けた

 一応一礼だけしてまた琴を弾き始めた


 演奏が一段落して食事を再開するが、やっぱり慣れない料理にどう手を付けたら良いのか分からず悪戦苦闘するかと思ったが、糸で出来た義手が勝手に動き、料理を俺の口まで運んでくる。そうか、ドフラミンゴは何度かここで食事しているのか。どうりで何も困った様子もなく食事が出来る訳だ

 でもどれもこれも全く知らない品じゃない。焼き魚なんかはよく食べた


(ペンギンが作った焼き魚が食べたい……)


 あいつの作った秋刀魚の塩焼きは旨かったなぁ。焼き加減も塩加減も丁度良くて

 一緒に皿に乗せられていた大根おろしはシャチが擦った時は調子に乗って勢いよくやったせいで妙に辛かった


(駄目だ)


 何を感傷に浸ってるんだ、俺にそんな事を言う資格なんかないだろう

 歯を食いしばって零れそうになった涙を必死に堪える。泣くな、変に勘繰られる。そうなったら今度こそ俺だって気付かれる

 取り合えずさっさと食い終わろうと食事を進めた


「失礼する」


 声が聞こえて間もなく背後の襖が開いて誰かが入ってきた。何となく聞き覚えのある声だったが、振り返って確認したりはせずに食事を続けていた


「一部の者達から祝儀を預かり渡しに来た」

「お?何だお前1人か?」

「他の連中では騒がしすぎるだろうという結論で俺になったんだ」


 足音からしてドフラミンゴへ近付いて行ったのが分かった


「礼を言う。他の奴等にも伝えておいてくれ」

「承知した」

「それにしても…フッフッフ、俺とお前は因縁浅からぬ仲だと思ってたんだがなァ」

「昔の話だ、恨んじゃいない」


 昔の話?ドフラミンゴと昔からの知り合いなのか?

 聞き耳を立てる程離れている訳じゃないが、傍立てて話を聞いた


「ミニオン島でお前の父親を殺した事は悪かったよ」

「恨んでいないと言っただろう」


 ミニオン島?

 知っている限りでドフラミンゴがミニオン島へ行ったのはあの時、コラさんが死んだあの日だけだった筈だ

 あの日、ミニオン島に他に誰がいた?

 オペオペの実の取引の為に先に島にいたあの海賊団、確か名前はバレルズ海賊団だった

 船長の名前はX・バレルズ


(ディエス……?)


 そこまで分かれば嫌でもピースが嵌まっていく

 俺の知っている奴の中に同じ姓の奴がいる


 俺と同じ最悪の世代の海賊

 ドレーク海賊団船長


(ドレーク屋……!!)


 気付いた瞬間に持っていた皿を落としてしまった

 慌てて拾い上げようとしたが体が震えて上手くいかない

 肩に手を置かれて顔を上げると、そこには心配そうにベール越しに俺の顔を覗き込むドレーク屋がいた


(や、めて…みないで……)


 向こうは俺が誰かは気付いていないらしく、何ならドフラミンゴの話を信じて奥方と声を掛けて来る

 返事をする余裕なんか無い


 見られたくない、お願いだから早く離れて


 呼吸が上手く出来なくて酸欠で視界が歪む

 一瞬意識が遠のくとドレーク屋の方へ倒れそうになった。が、突然後ろへ引っ張られると同時に浮遊感がした

 ドフラミンゴに抱きかかえられたと気が付くのに時間は掛からなかった


「悪ィな、こうやって倒れるのはしょっちゅうなんだ。部屋と布団は借りれるか?」

「あ、あァ、用意しよう」


 ドフラミンゴ立ち上がった際に揺らめいたベールの向こうにあいつの笑顔が見えた


-ほら、やっぱりお前は俺がいないと駄目な病弱な妻だっただろう-


 そう言われた気がした


 変わらず中々整わない呼吸に苦しくて胸元を押さえた

 移動中らしい振動の感覚が、自分の呼吸のリズムとも鼓動の間隔とも合わずに余計に苦しくなった

 用意された部屋に到着したらしく、先に敷かれていた布団に寝かされた

 一旦カイドウの所へ行くからとドフラミンゴは部屋を出て行った

 俺の横にドレーク屋が片膝をついて腰を下ろした


「慣れない場所で疲れてしまったんだろうか。水は要るか?」


 気遣いに俺は首を横に振った


「そうか。他に何か…いや、下手に長居する方が体に毒か。すまない気が利かなくて。失礼する」


 一礼して部屋を出て行こうとするドレーク屋に、気付いたら俺は手を伸ばしていた

 それに気付いたらしいドレーク屋はすぐに俺の横に戻って、先程同様に片膝をついて俺の左手を握ってくれた


「大丈夫か?どうかしたのか?」


 大きくて逞しくて、だけどあいつと違う優しい温かい手だ

 何故手を伸ばしたのか俺自身よく分からない。ただ気付いたらそうしていた

 こいつはこいつでやる事があるだろう、大丈夫だから、手を伸ばしたのはあいつと間違えただけだからと適当な事でも何とかして伝えようとした


(たすけて)


 ……待て、何て言った?

 違う、そんな事を言うつもりじゃなかった

 でも大丈夫だ

 音にならない声にならない言葉は伝わらない、俺が今何かを言った事すらドレーク屋は分からない。その証拠にドレーク屋が何か言ってくる事はなかった

 未だ整わない呼吸のせいで酸欠が酷い。そのせいでだんだん意識が朦朧としてきた

 フワフワと身体が浮き上がるような感覚がして、そうしてそのまま意識を手放した




 目を覚まして知らない天井で暫く呆然としていたが、すぐに自分が今あの城にいない事を思い出した

 起き上がって辺りを見回せば少しだけ開いている襖の間からは外の騒ぎが転がり込んで、楽し気な景色が心を抉る


(かえりたい)


 ここから、一刻も早く帰りたい

 でもどこへ?

 どこってそんなの決まってる


(ポーラータ「何だ起きてたのか」


 聞こえた声に心臓が跳ね上がった

 振り返れば案の定ドフラミンゴがいた。タイミングが悪いな本当に

 眠っている間に真横にピタリとくっ付けられるように敷かれた布団の上に腰を下ろすと、ドフラミンゴは俺の顔を隠すベールを上げて顔を覗き込んできた


「顔色は良さそうだな。突然倒れたから心配したじゃねェか」


 何も答えずにいると突然俺の口の中に指を突っ込んできた


「ッ!!んぶっ、う、ぉご…おえっ!」


 ズルリと引き抜かれた指には糸が巻きついていた

 暫く咳き込んだ後、息を整えて俺は口を開く


「ご、めん、なさい……」


 声帯を戒めていた糸が引き抜かれて声が出せるようになってすぐ、俺は謝罪の言葉を紡いだ

 謝罪が聞けて満足なのか、ドフラミンゴは俺の頭を撫でてきた


「カイドウや他の連中が心配してたぜ?嫁は大丈夫か?ってよ」

「もう、だいじょうぶ…」

「そうか、なら安心だな、後で伝えておこう。そうだ忘れていた、今日はこのまま泊まる事になった」

「……え?」


 どうやら俺が倒れて心配したカイドウの所の連中が一晩くらい泊まっていけとそう進言してきたらしい

 倒れた身としては本来有り難い提案の筈だが、俺としてはすぐに帰りたかった

 ここには俺を知っている奴がいる、昔の俺を知っている奴が

 些細な事で気付かれるくらいなら無理をしてでも早々に出発したかった。だがこいつはもう宿泊する事を了承したんだろう、俺が何を言ったところでそれは覆らない


 個室の風呂を用意されて、もはや慣れたドフラミンゴの介助で入浴して身を清めて、先程までいた部屋に戻ってくると、俺はすぐに布団に座った

 疲れた、変に緊張したのもあるがまさかあんな至近距離に知っている奴が来るとは思わなかった

 もう今日はこのまま寝よう。さっきまで寝ていたが疲労のせいでまた問題なく眠れそうだ。そう思って寝転がった瞬間ドフラミンゴに左手を掴まれて布団に縫い付けられるように押し倒された


「……え」


 現状が理解出来ずに困惑していると、ドフラミンゴが楽し気に笑っている事に気が付いた

 ヤバイ、間違いなくろくでもない事を考えている、早く逃げろと脳が全力で警鐘を鳴らしてくる。必死に逃げようとしたが押さえつけられた左手に痛い程力を込められて動けない


「ま…って…ドフィ、なにして……」

「あァ?ロー今お前はどんな恰好しているか忘れたか?」


 恰好、と言われて思い出した。そうだ俺は今和服を着ていたんだ、だからさっき酌だってしたんだろう


「ぁ、だん、な…さま……」

「フッフッフ、あァそうだそれで良い。それで何をするか、だったな」


 俺を押さえつける右手はそのままに、空いている左手で俺の着物の帯を緩めてきた


「ッ!!」


 おい待てこいつここでヤるつもりか!?

 先程よりも必死に押さえられている左手を引き抜こうとしたり、足をバタつかせたり、ドフラミンゴの腹を蹴ったりしたが全く意に介されず、気付けば服の殆どを脱がされていた。もうここまで脱がされればまな板の上の鯉も同然だ。だが、それでも何とか声を振り絞って拒否と抵抗をする


「ま…やめ…おねが……」


 情けない事に掠れ気味の消え入りそうなか細い声しか出せず、その上涙まで出てきてしまった

 目尻から零れ落ちた涙は枕に落ちるかドフラミンゴが指で掬った


「おいおい何泣いてンだ?いつも城でシてるじゃねェか」

「でも、だ、だれかきたら……」

「俺とお前は夫婦だろう?なら夫婦の寝室に入ってくる輩が可笑しいんだ。あァそうか、お前の事を知っている奴もいるもんな?フッフッフ、声出したらすぐにバレちまうかもなァ?」

「ッ!!」


 そうださっきまでは嫌でも声が出ない状態だったが、今は逆に嫌でも声が出る状態だ。下手に声を出したら誰に聞かれるかも分からないし、誰が入ってくるかも分からない


「ンッ!」


 そうこうしている間に奴の手が俺の身体をまさぐり始めた


「ひぅっ、や、やめッ…!」

「声を出したら誰か来るかもと言ったばっかりじゃねェか」

「!!」


 慌てて自由になった左手で口を押えた

 そんな俺を見て次に触れてきたのは双丘、それも散々弄られてぷっくりと膨れた突起だった


「ッぅ!ふっ、ふぅ…――ッ!!」


 声が出そうになって慌てて自分の手の甲に噛み付いた。だが傷が付くからとすぐに口から離された

 奥歯を噛み締めて、唇を噛んで、兎に角必死に耐えた

 見上げるあいつは余裕綽々と言った笑みを浮かべて人の身体をまさぐり弄んで、一方俺は兎に角声を出さないようと、一欠片の余裕すらなく兎に角耐えて。だけどそんな俺の状態とは対照的にあいつが能力で作った右腕は、右手は、まるで相手を誘うように劣情を煽るように動く


(きもちわるい)


 自分の意思とは全く関係なく動くこの右腕が気持ち悪い

 逃げ出したいのに快楽に負けて声を抑えて身じろぎする事しか出来ない自分が気持ち悪い

 他人を蹂躙して好き勝手弄ぶ事を楽しんでいるこいつが気持ち悪い


(きもちわるい…)


 早く

 どうか早く終わってくれ

 そう願いながらされるがまま一晩を過ごした




 楽し気な声で意識が浮上した

 いつの間にか出発前らしいドフラミンゴに抱き抱えられて、宴会が開かれたあの髑髏のような建物の前にいた


「おひいさんが最後まで参加出来なかったのが残念だったが、また祝いの席を用意してやるよ。次は屋形船なんかどうだ?」

「良いな、船は妻も好きなんだ」


 まだはっきりしない意識の中で顔を上げて辺りを見れば少し離れた場所にドレーク屋を見付けた


 気付かないで

 連れ出して

 こっちに来ないで

 もう嫌なんだ

 早く行って

 お願い


 助けて


 無意識に伸ばした手をドフラミンゴに掴まれて、その手の先に誰がいるのか気付いたらしく俺の腕を掴む手に力が込められた


「   !」


 声が出ない。また糸で声帯が縛られたんだろうな

 俺の様子に気づいたドレーク屋が首を傾げていた


「あァ、昨日は心配かけて悪かったとお前に伝えてくれと言ってるんだ」

「……そうか」


 訝しむような表情をしていたがドレーク屋はそれ以上は何も言わなかった

 そうして百獣海賊団の面々に見送られてワノ国を発った

 帰りの道中ドフラミンゴが話す内容はあの宴会の事、俺の琴の演奏の事、そして昨晩俺を抱いた時の事ばかりだった

 耳を塞ぎたくても俺の意思で動かせる左腕をドフラミンゴがずっと握っているせいで片耳すら塞げなかった


 またあの城という名の監獄に戻されるんだ、今の内だけはお前に何の反応も示さずに外の景色を眺めていても良いだろ。お前が旅行を楽しむのなら、俺は俺で楽しんでやる。どうせ城に戻ったら嫌でも何でも付き合わされるんだから


 風が吹く音を聞きながらまだ眠い俺は目を閉じた

 次に目を覚ましたらあの城にいるであろう現実に涙を流しながら














 与えられた仕事は早々に終わらせ、無駄に広い城内を歩き回る

 今俺は人探し中だ。そんなに頻繁に移動をするような奴じゃないが、残念ながら今日はその限りではないらしい


「ドレーク!」

「む」


 背後から声を掛けられれば一応俺の同僚に当たるのだろう、緑と白のツートンの帽子を被り、ウェーブのかかった紫色の前髪で顔の右半分が隠れ、口元は白と黒のマスクをしている百獣海賊団『飛び六胞』の1人ページワンが、どこか焦った様子で走って来ていた


「姉貴見なかったか?」

「いや、見ていないが。探しているなら会ったら伝えておくが…」

「馬鹿逆だ!!逃げてんだよ姉貴から!!」


 そうか、大変だなと労っておいた。だが確かにあれだけ一癖も二癖もある愛情表現を一身に受ければ逃げたくもなるか

 俺が見ていないという事は俺が来た方にはいないだろうと判断したらしく、入れ違う形で走って行こうとしたページワンを俺は一度呼び止めた


「急いでいるところ悪いが、ホーキンスを見なかったか?」

「あ?あー何かどっかで見たな……そうだ左脳塔だ」

「遠いな」

「何の用か知らねェけど頑張「ぺーたん見付けたぞゴラァ!!今日はマリアとお茶するって言っただろうがァ!!!」

「うわ姉貴!!俺は参加しねェって言っただろうが!!」


 スタートダッシュを決めて走り去って行ったページワンの直後に、彼の姉のうるティが走り去って行った。嵐の様な姉弟だな……

 兎も角目的の人物がどこにいるか分かった事は素直に感謝する。それから頑張れとも言っておこう


 時間はかかったがページワンから聞いた左脳塔に向かい、その後他の飛び六胞や傘下のしたっぱ達から話を聞いてようやく目的の人物がいる部屋に到着した


「ふむ、思っていたより遅かったな」


 待っていたと言わんばかりの言葉に面食らった

 どうやらいつもの占いで人が訪ねてくる事が分かっていたらしかった、それが誰であるのかも。それならお前の方から来ても良かったんじゃないかと少しだけ不満を零せば下手に動いて入れ違いになるよりは良いだろうと。まったくもってその通りだったからそれ以上は追及しないでおいた

 それよりも探していた人物がいたんだ、俺はすぐに本題に入った


「お前の占いで調べてもらいたい人物がいる」

「俺に?情報に関してはアプーの方が適任だろう?あいつは百獣海賊団の情報屋だ、なぜわざわざ俺を選んだ?」

「あいつは誰彼構わず、所構わず情報を売りかねないからだ」


 そう、今回の事は極力誰の目にも触れないように進めたい。それをそのままホーキンスに伝えれば詳しい話を聞いてから判断すると言われ、俺は事のあらましを話した


 事の次第は先日の祝賀会

 ドフラミンゴが『妻』と紹介したあの人物だ

 体調を崩したらしく肩で息をしていた為声を掛けた。その際に俺は激しく上下するその肩に手を置いたのだが、その身体があまりにも細かったのだ。ドフラミンゴが言うには病弱との事で、その身体が病のせいと言われてしまえばそれまでなのだが、なぜかそれだけではないと直観が言った

 他に上げるとするならばベールで顔が隠れているのもあって確信は出来ないが幸せなぞ感じていない様に俯いて震えているように見えた

 それにあの時、帰る間際こちらに手を伸ばしてきたあの時俺は聞こえた気がした


-たすけて-


 消え入りそうな本当に弱々しい声だった気がする


「気がする?随分と曖昧だな。見聞色は使わなかったのか?それにそもそもの話をするのならば、なぜそのご婦人がそこまで気になる」

「どういう訳か見聞色の覇気が遮られて探れなかった」

「遮られた?それは少し気になるな。良いだろう、少し調べてやる。何か分かり次第連絡を入れる」

「助かる」


 早速占いを始めたホーキンスだったが、気が散るからと部屋を追い出された

 一先ずこの件は任せるとして、俺は俺でコビー辺りと連絡を取ってドフラミンゴの周辺の情報を洗う事にしよう

 ホーキンスから投げかけられた問いで1つだけ答えなかった物を1人で思い返した


「なぜそのご婦人がそこまで気になる」


 この問いに俺はわざと答えなかった


 気のせいかもしれない

 勘違いならばそれはそれで良いだろう


 だがあの時

 俺の方に倒れて来たあの一瞬、顔を隠しているベールがはためき見えた素顔が


 俺には死んだと言われているトラファルガーの顔に見えたからだ












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