朗らかな道のり

朗らかな道のり

ある日。



出演

狐花椿

狐花紫














「お母さん、早く!」

「椿ちょっと待って...あ、あった!」

何かを探して鞄をひっくり返す白髪の女性。そしてその様子を見ながら玄関で待っている幼子。薄化粧をした母親の色違いの眼には焦りの感情が見えて、必要としていたものを見つけたのか、あるものを見つけてホッとした表情を見せた。

「良かったぁ...あったよ、椿。」

そう言って手に掲げたのは一枚の紙。カラフルな文字で装飾されたチラシには《———高校 福寿祭》と書かれていて、そこには見知った顔ぶれがある。丸で囲われた4つの顔と文字には弓道や軽音等の部活動が記されていた。

「無くしたかと思って焦った〜...いや、良かった良かった。」

「何してるのさ...。他の人と合流して向かうんでしょ?えっと...凛々華さんや廻さん?だっけ?」

「そうそう、駅で待ち合わせ...今何時?」

「待ち合わせ25分前。」

ふと、女性の頭には地図が展開され、自宅から駅までの道順と所要時間が計算される。此処からバス移動して5分。そこから歩いて15分。20分は掛かるから一見間に合いそうだが今日は休日。そして休日は確実に道路が混む。

「...急ぐかぁ!」

荷物を一気に鞄に突っ込み、愛娘の手を取ってドアノブに手を掛ける。呆れた表情の幼子はため息をつきながら一言。


「行ってきまーす...。」


勢いのまま飛び出して、がちゃんと扉が閉まった。

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