朔月の蜜月(トレカレ)
朔月・蜜月(満月)要素なくなっちゃった「ごめん、ごめんね、お兄ちゃん……悪い子でごめん」
カレンチャンが泣いている。その姿にいつもの超人然とした雰囲気はなく、とても幼くて弱々しくて、触れれば壊れてしまいそうな危うさがあった。
いや、『しまいそう』などではないのだろう。彼女がここまで感情を露にするなんて。彼女がこれほどまでに泣いてしまうなんて。彼女が——自分を押し倒すなんて。
「君は悪くないさ」
彼女を優しく抱きしめて、落ち着かせるために背中を撫でながら言う。
「悪いのは俺の方さ」
そうだ、悪いのは俺だ。彼女が大人なのをいい事に、聡明であるのをいい事に、彼女の想いに応えない俺が。立場とか時期とか、そんなものを言い訳に彼女の想いに応えない俺が……
自分達がどう思っていようと、世間からすれば関係ない。彼女のためにならない。だから、耐える。彼女の想いを見て見ぬふりする。
その事はカレンチャンも分かっているから、いつか彼女の想いに応えるつもりだって伝わっているから。今は自分の想いに蓋をする。………そんな姿勢がいけなかったのだ。
理性と感情は違う。彼女のための行動だとしても、そう彼女が理解していたとしても、彼女は傷ついていた。その傷が積もりに積もって、彼女は今泣いている。
抱きしめている彼女が酷く小さく思えた。否、これが彼女の等身大なのだ。いくら大人びていようと、いくら常人離れしていようと……
……そんな彼女に俺は甘えていた。きっと大丈夫だと勝手に思っていた。弁明の言葉すらない。
「本当に、ロクでもない人間だ」
胸の中のカレンチャンが『そんな事ない』と言ってくれるが、それは買い被りすぎだ。だってさ、カレン——
———俺は君の想いに応えるって、言葉に出したことあるかい?
彼女の想いにはいつか応える。これは本気だ、本当の俺の気持ちだ。だが、俺はそれを君に伝えたことがあっただろうか?
………君が不安に駆られるのも無理はない。言葉にせずとも心は通じるなんて、勝手に思っていたんだから。
誰だって、想いを口に出してくれなきゃ不安になる。相手は本当にそう考えてくれてるのか、思ってくれているのか、確かめようがないのだから。
なら、今の俺がするべき事は、してあげられることは一つだけだ。
「今までごめん。君を不安がらせてしまって」
言葉にしなければ想いは伝わらない。
「大好きだ、カレン。君さえよければ、こんな悪い人間でもいいって言ってくれるなら」
想っているだけじゃ、意味がない。
「今すぐというわけにはいかない。今の関係のまましばらく待たせてしまう。けれど、それでもいいって言ってくれるなら——」
「———君の気持ちに応えさせてくれ。カレンチャン」