月まで届け、マヤトレの匙 後編

月まで届け、マヤトレの匙 後編

ゴルトレ◇HELC05Mn9o






チッチッチッ、という時計の音だけが聞こえる部屋の中

いつもはタキオンが好きな献立が並ぶ食卓を挟み、向かい合う2人

数時間にも感じるが 、玄関でのやり取りからまだ数分しか経っていない

が、タキトレはタキオンの言う「大事な話」の内容がつかめず、彼女の出方を見ることしかできず

結果未だに黙っているタキオンが話し出すまでただじっとその時を待つことしかできなかった


その沈黙を破ったのは、ふぅ、というタキオンのため息だった


💊「まず実験の結果から言おう

   実験は成功だったよ」


いつもならにっこり、と音が聞こえてきそうな笑顔で言う台詞を、しかし今日はしかめっ面をしながらどこからか取り出した資料を広げ、タキトレへと見せる


💊「これが指輪を付ける前に走った時の記録、そしてこちらが指輪を付けて走った時の記録さ 間違いなくタイムは上がってはいる」


それは知ってる、と思いながらも黙って資料を読み込む

一応ではあるが彼女とて三冠を達成させたトレーナーである

指輪を付けた時の方がフォームや足の動きが途中から、特にいわゆる末脚の時に格段に良くなっていたことは遠目からでもよく分かった


しかし、となるとやはり疑問が浮かぶ

何故この結果でこんな顔をしているのだろう? この結果は彼女自身が望んだことでは?

と首をかしげていると、タキオンが深刻そうな顔でコロン、と今までつけていた指輪を食卓に置いた


💊「そう、指輪 特にお揃いの、いわゆる婚約指輪

   実際走っている時にコース脇でタイムを計っているキミを遠目で見た時、指にはめられているコレと同じ指輪が光っているのを見て心臓が跳ね、鼓動が早くなり体が熱くなった

  これは紛れもない事実である…」


 ん?と違和感を感じるタキトレだが、何やら熱くなっている様子の担当の勢いにとりあえずそのまましゃべらせてみよう、と様子見に徹した


💊「そう、最初はアレが指輪を付けたことによる何かロジカルチックな力なのではないか、と思ったのさ

  実際練習が終わった後も指輪を見ていると心拍数が上がったし、眺めているだけで何故かすごく、その、なんというか、温かい気持ちになったのは確かだ」


💊「そうして研究室で指輪を眺めてるうちにいつの間にか時間がたってしまってね

  うっかり研究用に設置していたカメラが回しっぱなしだったことに気が付いたのさ」


💊「ああ、カメラ自体は元はカフェの「お友達」を何とか撮影できないかと(カフェに無許可で)設置していたものだったのだがねぇ…

  そこ写っていたのは「お友達」じゃなくって


  酷く浮かれた様子で自分の指輪を眺めて頬を赤らめている私だったのだよ」


🐰「はぁ?」


いや、そりゃそうだろう、と思うのは致し方ないことだと思う

実際タキトレも練習後に浮かれた様子で指輪のついた左手を眺めているタキオンを見て「かわいいなー」と思っていたし、そのままずっと眺めていそうだったのでシャワールームに引きずって連れて行ったことも覚えている

 しかしタキオンはカメラをみてようやく気が付きました、と言わんばかりに言葉を続けた


💊「正直言ってアレを私だと理解するのに時間を要したさ

   はっきり言ってスカーレットくんが愛読しているらしい少女漫画に出てくるヒロイン?かと言いたくなるほどの浮かれっぷりだった!!!

  少し顔を逸らしたかと思えばふと指に視線をやり、そのまま指輪を光に反射させて眺めて!!!ああそうだ、初めてビー玉を見た親戚の子供があんな目をしていたねぇ、ああもう!!!」


ダァン、とタキオンが食卓を叩く音が部屋に響く

ウマ娘のパワーでも壊れないって評判のテーブルにしといてよかった、とどこか他人事のように思っていたタキトレは、テーブルを叩くタキオンに「それでも落としたり叩いてしまったりしないように指輪をちょっとよけるタキオンかわいいな」、と頭のどこかで思いながらも「結局タキオンは何が言いたいのか」という問題の答えを考えていたのだった



💊「そう、この体に起こった不可思議な熱の正体…

  私はそれを探るべく、とりあえず指輪を眺めていた私を目撃していたウマ娘達に片っ端から証言を聞きに行ったのだよ

  その結果がコレさ!」(ボイスレコーダーぽちっ)


『はぁ、なんですかタキオンさん…?

 指輪を見ていた時のあなたを見てどう思ったのか知りたい…?

 はぁ、気持ちはわからなくはないですが、大分浮かれているなぁ、とは思いましたが…?』

『ア゛ァ゛?めんどくせぇ…

 あーあれだ「末永く爆発しろ」ってやつだろんなもん

 ったく、プロポーズされた直後の乙女かよてめーh』


『?はい!タキオンさんとっても幸せそうでかわいかったですよ!』

💊『スカーレットくんは今日も可愛いねぇ、飴をあげようねぇ…』なでなで

『ひゃ!?もう、タキオンさんってばー』ニコニコ


『』

💊『デジタルくーん?おーい?』

『トウトイ…』

💊『ダメだねぇこれは』






ぷつ、と音を立ててボイスレコーダーが止まる

いや色んな子に目撃され過ぎでしょ!?と声を荒げたいのを我慢し、それでもなんとか一声かけねば気が済まない、とタキオンの方を見れば、彼女もまたプルプルと震えていた


💊「そう、私は、その、「浮かれていた」ということが分かってもらえただろう?

  これらのことを踏まえ、実はついでに色々と芋づる式に色々と思い出して気が付いたことがあってねぇ…」


はぁ、と気の抜けた返事をするも、彼女にしては珍しく言いよどんでいる姿を見て何かが引っ掛かった

あれ、こんなタキオン前に見たことがあるような…






💊「……もしかして、私はかなり恥ずかしいことをしていたのでは?と!」






🐰「はい?」





💊「だってそうだろう!?見たまえよこの緩み切った顔を!!!

   人前でこんな顔をするだなんていったい何を考えているんだい、指輪のことだねぇ知ってるよ!!!!(ダァン!!!)」


……要するに、あまりにも緩み切った顔をした自分を見て今更羞恥心が沸いて来たらしい

この子はどうも以前(※育成シナリオの3年目のクリスマス参照)からこういうところがあるなー、後になって実践してから恥ずかしくなるんだよなー、そこもかわいいけど

とおのろけ全開なことを考えるタキトレをよそに、ヒートアップしているタキオンはそのまま言葉をつづけていた


💊「そう、実はこの写真を見てからふと過去のスレッド…ああ、ウマ娘専用スレの方を見返してみたんだがねぇ、当時はどうだいすごいだろう、と思いながら書き込んでいたことが今になって思うと恥ずかしくなってきたんだよ

  なんだいうまぴょいはいいぞってなに当たり前のようにトレーナーくんとそういう行為をしたことを自慢しているんだいそもそも冷静になって考えたらそういう行為を強要してトレーナーくんを射止めた気でいるんだいバカなのかいもっと他に方法があっただろう!!!」(ダァン!!!)


🐰「お、おおう…」


いやまぁ、薬に飲まれて襲ってしまった自分が言うのもなんだが、責任は取るつもりでいたし人生を捧げる覚悟はとうにできていたのだ

ただまぁそういうことはタキオンの性格的に興味を持たないだろうと思っていたし、まさか盛られて学生中に手を出す羽目になるとは思っていなかったが




💊「そう、あえてはっきりと言うならば…



  私は!!!今!!!過去の自分に対して!!!『羞恥心』を抱いている!!!!」(カーン!)




前にシチトレや変身したゴルトレがしていたような特徴的なポーズ(世間一般的にはJOJO立ちと言われるポーズ)を取り、タキオンはこちらをガン見している

おそらく羞恥心に耐え切れずテンションがおかしな方向に振り切ってしまっているのだろう


💊「と、いうわけだトレーナーくん

  こんなものを作ってみたのだが、読んでくれたまえ」



カサ、と音を立ててタキトレの目の前に置かれた一枚の紙

おそらく急いで用意したのであろう、手書きで書かれた内容は走り書きでタキトレ以外に解読できるのは同じ研究室で過ごしているマンハッタンカフェぐらいのものだろう、と思考を明後日の方にやりながらも、内容を解読してみると…



1.自分たちが恋人関係である、また婚約関係であるとむやみやたらと言いふらさない

2.以前から行っていた(消した性の文字らしき跡がある)肉体関係については当分保留、少なくとも私の卒業までは禁止とする(ただし状況によってはその限りではない)

3.浮気は許さない

4.私が実験と称して何か恥ずかしいことをしようとしたら止めること・またその際にはこの契約書を提示させると効果的である(たぶん)

5.ただし2人きりで過ごしている時は4の内容を無効とすることも視野に入れる(要相談)

6.休日はできるかぎり2人で過ごす

7.↑なるべく健全な関係を心掛けること!←キ(消した跡)接吻は健全か否かは要相談



🐰「なんぞこれ」

💊「見てわからないのかい?契約書だよモルモっ…鈴仙くん?」

🐰「ぴゃぇっ」



契約書(という名の落書きもどき)に気を取られている間に、いつの間にやら耳元(ウサミミではなく本来の、人としての耳の方)で、久方ぶりに呼ばれる通称ではない本来の名

実の所、本来の人としての耳が極端に弱い彼女にとってこれは劇薬(いつも本物を投与されているが!)にも等しく、思わず後ろに椅子を倒して後ろに飛びのいてしまったのは悪くないと思う、とは彼女の弁である



💊「思うに、今までの私達は、その、いわゆる不健全なのでは、と今更ながらに気が付いてねぇ

  私なりに色々と考えてみた結果なのだが、その、どうかな?」


しゅん、とガラにもなくミミを絞り、上目使いでこちらの様子を窺ってくるタキオン

無論、彼女にとっては計算の内なのであろうこの表情、タキトレに取ってはもはや喰らい慣れているパターンではあるが…




🐰「タキオン…!(´;ω;`)」




が、ダメ…!

ちょろい兎…!ちょろウサに…嫁の上目使いは、確定急所…!


💊「トレーナーくん…!」

🐰「タキオン…!」



抱擁…抱き合う2人、久方ぶりのド健全な、力強い密着…!





💊🐰「「いやこの体制も冷静になったら普通に恥ずかしいのでは???」」


アホ2匹!

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