月の夜に言伝を
・ゾロロビ、擬人化要素あり
・擬人化は基本SBS無視
・事後描写あり
・妄想いっぱい
以上が大丈夫な方はこのままどうぞ
「!」
何やら気配を感じ取り、目を覚ます
窓から見えるのは大きな月、背中越しに聞こえるのは静かな寝息
部屋の中にいるのはおれとロビンのただ二人…の筈だった
おれのすぐ横、刀を立てかけてあるソファに一人の男が座っていた
歳の頃はおれと同じか少し上、紫の着物を着た男は窓の外を向き、黙って月を眺めている
髪は毛先が紫の黒で、月に照らされながら微かに揺れていた
コイツから敵意は感じない、むしろどこか覚えのある気配さえ感じる
おれは思い切って男に「誰だ?」と問いかけた
すると男は振り返り、驚いたようにこちらを見つめた
《主、か》
男はそう言い、安心したようにため息をつく
その“呼吸”に、おれはコイツが何者なのかを悟った
「閻魔か?」
おれが問いかけると男、もとい閻魔は頷いた
《まさか起きていたとはな。考古学者の娘がいる故、眠りは深かろうと思っていたが》
そう言って閻魔はロビンの方へ視線を向けて微笑む
すぐ隣で眠るのは、同じ船の仲間であり将来を誓った存在でもある女
寝返りをうった時にズレたのか、肩のあたりが布団から出ている
「お前の気配で起きちまったよ。というかお前、その姿はなんだ?」
ズレた布団をかけ直しながら言うと、《それはすまなかった》と声が返ってきた
《今宵は月が近い故、我も今し方目が覚めてしまったところでな。それから、主がみているものは言わば我の精神の形だ。和道と鬼徹も同じように人の形を持っている》
そう言うと閻魔は再び視線を窓に移した
「そうか。じゃァ、おれがまた眠くなるまでつきあえ。そのままでいいから少し話そうぜ」
普段刀の意思そのものと話すことなんてないし、もっとコイツを知れるいい機会だと思った
すると、閻魔も《そうか、ちょうどよかった》と頷いた
《実は我も主に話したい事があってな。いや、伝えたい事か?》
閻魔はそう言うと小さく笑い、おれの方に向き直った
《眠りの中で、我はよく人に会う。大抵はただすれ違うだけだが、時折こちらに話しかける者もある。その多くは我の知らない事柄に関するものや、勝手な恨み言ばかり。我を誰かと勘違いしているのだろう》
閻魔はクスクスと笑いながらそう話す
その切っ先のように鋭い金色の目は、どこか遠くを見ているようで掴みずらい
《だが最近は、我のことをしっかりと認識している者が増え始めた。我を“閻魔”と…主、即ちロロノア・ゾロの刀と認識している者達が。一昨日の夜もその娘によく似た女に出会ってな、主への言伝を頼まれた》
閻魔の視線が再びロビンの方へ向く
「ロビンに?なんて言ってたんだ?」
閻魔は一拍おき、真っ直ぐおれを見つめて口を開いた
《「どうか、あの子の手を離さないで」だそうだ》
おれは息をのんだ
たった今閻魔が伝えた言葉が、頭の中で何度も繰り返す
「あの子の手を離さないで」
たったそれだけの言葉で、閻魔の会った相手が誰なのかを理解できてしまう
ただ一言なのに、ただ一言だから、それはおれの中で何度も響いた
どれくらい時間が経ったのか、おれは目の前の男を見つめる
「閻魔」
《なんだ?》
「こんど、その人に会ったら伝えてくれるか?「あんたの繋いだ命は、未来は、希望は、今おれの傍で咲いてる。おれの手は剣しか振れねェけど、ロビンを必ず守る。いつか必ず大剣豪になってそっちにもおれの、おれ達の名を届けるから、その日をおれの親友といっしょに待っててほしい」って」
うまく纏められたかわからねェが、精一杯のおれの気持ちを乗せた
閻魔は口元に笑みを浮かべ、《会えるかどうかはわからぬが、承知した》と頷いた
最初は誘ってきたから寝ただけだった
自分を警戒しているおれへの試し行動だったのかもしれない
だが、ただ身体を重ねるだけの関係はいつしか心までも重ねるようになっていった
そして、いまはアイツといっしょに未来を歩いていきたいと、心の底から思っている
その気持ちが、少しでも届いていたらいいな
「あー、なんか言いたい事言ったらまた眠くなってきたな」
《そうか、それは良い事だ。休む事も修行のうちだからな》
閻魔はヒラヒラと手を振りながら笑う
手の動きが微妙にウザったいが、言ってることはもっともなのでとりあえず布団に入り直す
《そうだ》
「ん?」
《実は、もう一つ言伝を頼まれていたのを思い出した》
「なんだ?」
《「惚れた女は泣かすな。離すな」だそうだ》
「………「お袋泣かせた奴が何言ってやがる。言われなくてもわかってる」って伝えろ」
まったく、わざわざ伝言頼んで言う事がそれか
クツクツという笑い声と共に《承知した》と応える閻魔を確認し、おれは布団をかぶって目を閉じた
*****
《確かに伝えたぞ》
ゾロが眠りに落ちた後、閻魔はソファに寝転がりながら天井に話しかける
窓から差し込む月明かりは未だ明るい
《まだ未熟な部分はあるが、姫が我を託したのも納得の男だ。しかしそれにしても…》
そう言うと閻魔は寝返りをうち、視線を部屋の中へ移す
目の前で眠るのは新たな主人となった若い男
掛け布団から覗く広く逞しい背中には、いくつもの赤い痕が咲いている
《やはり良いものだな。“愛”を刻んだ男の背というものは。逃げ傷なんてものとは訳が違う》
慈しむように独り言ち、眠りの中にある愛し合う二人に微笑む
脳裏に蘇るのは、いつかの月夜
《案ずるな。二人は我が、我らが護る故》
閻魔は天井に向き直り、穏やかな、だが真っ直ぐな声で語りかける
そして《見届けて、くれ》と呟くと、彼もまた眠りに入った