最高のもてなしを

最高のもてなしを


正史ロー身代わり√で珀鉛キャンディ食べさせられちゃった概念でちょっとした話

相変わらずIFミンゴが気持ち悪い

珀鉛キャンディの効果をガッツリねつ造してます。というかこうなってる正史ローが見たい一心だけで書いちゃった話




 無駄に豪華な装飾の施された部屋は悪趣味以外の何物でもない

 まるで何かの会場か、ここでなら俺の海賊団くらいの人数なら問題なくパーティの1つでも開催出来そうなくらい広い部屋

 そんな部屋のど真ん中に設置されている長いテーブルに掛けられているクロスは汚れも皺も見当たらず、まるで新品かのように真っ白だ。そんなクロスの白さを引き立てるような、もしくはこの料理を引き立てる為に真っ白なクロスなのかと思うような色取り取りの料理に視線を向け続ける

 この部屋の、この城の主を見ないようにする為に


「フフフ、そんなに緊張なんざしなくて良い。俺とお前しかいねェんだ、テーブルマナーを気にする必要も無ェよ」


 カチャカチャとカトラリーの音と共に俺に話しかけるこの城の主


 ドンキホーテ・ドフラミンゴ


「……心配しなくてもテーブルマナーは心得てる。お前は自分の飯に集中してろ」

「フッフッフ、そうか」


 糸の一本でも飛んでくるかと思ったが、拍子抜けする程簡単にドフラミンゴは俺の言葉を流した


 あの日、俺と麦わら屋がドレスローザで戦い、最後は麦わら屋の一撃に沈んだドフラミンゴはその後海軍に捕縛され、大監獄『インペルダウン』に収容された

 俺の知るドフラミンゴはそうだ

 しかし、今俺の前にいるこいつは違う

 こちらの世界じゃ、あの日勝ったのはドフラミンゴの方であり、隠されていた事実を知った国民や、ハートの海賊団と麦わらの一味はドフラミンゴに手によって殲滅された。表向きは

 実際はただ一人、ハートの海賊団船長『トラファルガー・ロー』だけは、どういう気まぐれか生かされ、虐待なんて言葉じゃ生ぬるい、まさに拷問という言葉がよく似合うような日々を送り、身も心もすり減らされる中で偶然俺のいる世界に逃げ込んで来た

 最初こそ常に怯えて部屋からも出られなかったあいつの療養と、世界線を渡る道具『ヘルメス』を調べる為に麦わらの一味と再度同盟を組む事になった

 そうしてあいつの療養もほぼ終わり、今度はヘルメスを本格的に調査しようという段階に至った時、俺の知らない、あいつはよく知るドフラミンゴが世界線を越えてあいつを取り返すべくやって来た

 いろいろなトラウマを克服したもう一人の俺だったが、何よりも大きなトラウマであるドフラミンゴを見た途端に動けなくなり、俺は咄嗟に船内に逃がした

 このままだと戦闘になるであろう一触即発の状況で、俺は1つ取引をした


「あいつはまだ療養が終わってねェ、そんな状態で戻せば今度は死にかねねェ。だから代わりに俺を連れていけ。そして今この場にいる奴等には一切手を出すな!」


 クルーには止められた、旗揚げから一緒にいるベポ達に関しては怒鳴ってでも止めようとしてきた。が、無血でドフラミンゴを追い返す、かつあいつを渡さねェ為にはこれが一番手っ取り早い

 とはいえ更に条件を吹っ掛けてくる可能性はあったから警戒していたが、予想外に、それこそ拍子抜けする程あっさりとドフラミンゴは俺の要求を呑んだ

 麦わら屋の一味にも止められたが、俺の意思が変わらないと分かると麦わら屋は一回だけ大きく頷いた


「俺のクルーを頼む」

「分かった」


 人の話を聞かない上に勝手に動き回るこいつだが、いざって時はなぜか頼りになる。だから麦わら屋が「分かった」と言ったんだ、俺の仲間は大丈夫だろう

 止めるべきか、行かせても良いものかと未だ悩んでいるクルー達

 俺は自分のビブルカードをペンギンに押し付け、破壊される可能性のある帽子と鬼哭も預けた


「あいつの事任せたからな」

「――ッ!!分かりましたッ!!だから、キャプテンも約束してください!!……絶対助けに行きますから、だから…どうかご無事で」


 約束は出来ないが、それでも一言「あァ」とだけ言って、俺はドフラミンゴに連れられてこの世界に来た


 着いて早々に海楼石の手錠を着けられ、風呂に入れられ、全く趣味じゃないドレスシャツを着せられ、ズボンもレザーパンツを履かされた。この袖口のレース引き千切ってやろうかな

 そんな事を考えながら案内された部屋で、ドフラミンゴは用意されていた豪勢な料理と共に俺を待っていた


 と、ざっくり説明するとそんな感じだ

 料理に罪は無ェが、そもそも敵地で出された物を口にしようとは思わない。ジッと、目の前に置かれているスープばかり見ていたら、全く手を付けない俺に気付いたらしくドフラミンゴが声を掛けてきた


「どうした?さっきから全く手を付けてねェ様だが」

「さァな、お前が見てねェだけだろ」

「それもあるかもしれねェが、だとしても一切減ってねェように見えるんだが俺の気のせいか?」

「気のせいだろ。それに何より付け合わせが気に入らねェ。俺はパンは嫌いだ」

「おっとそうだった。俺のローは食えるから忘れていた」


 卓上に置かれたベルをドフラミンゴが鳴らせば、部屋の外から使用人が入って来て、ドフラミンゴが一言言えば俺のスープの横に置かれていたパンを下げて部屋を出て行った。その間俺は怒りを表に出してドフラミンゴを睨んでいた

 あいつがパンを食える?ふざけるな、食えるんじゃなくて食わなきゃ関係のない奴が殺されるから必死だっただけだ。お陰で表向きは食えても実際は俺よりパン嫌いになってたぞ

 再び部屋の中に二人だけになると、ドフラミンゴは突然立ち上がり俺の横に歩いて来た


「ほら見ろ、減ってねェじゃねェか」

「テメェの用意したもんなんか食えるか」

「フッフッフ、警戒心が強ェのは良い事だがあまり意地を張るなよ。無理矢理口に突っ込まれてェか?それともお前が口にしたがらない料理を作った無能な使用人を廃棄するか?俺はどっちでも構わねェよ」

「……チッ」


 舌打ちをして皿の横に置かれているスプーンを乱暴に取ってスープを飲めば、満足したのかドフラミンゴは自分の席に戻った。あの野郎、人質取ってんじゃねェよ

 黙々と食事を取って最後、食後のデザートと出された小さなケーキ

 一口サイズのケーキにフォークを突き刺してさっさと完食してしまおうと一気に口の中に入れた

 フッと口の中に広がる甘さに何となく覚えがあった

 顔を上げてドフラミンゴを見れば、愉快そうに口元が歪んでいる


 まずい


 吐き出せ


 その味が何の味かを理解するよりも早く、本能がそう告げてきた

 慌てて吐き出そうとした瞬間、後ろから口を押えられて無理矢理上を向かされた。そこにいたのはドフラミンゴ。その勢いで口内にあったケーキを一気に飲み込んでしまった

 自分の意思ではない嚥下だったせいで咳き込めば、向かいに座るドフラミンゴが視界に入った。どうやらいつの間にか、それとも最初からか、俺の後ろにあいつの糸人形が控えていたらしい


「ゲホッゴフッ!ッ、テ、メェ…何を食わせた…何を飲ませた!!」

「フフフフフ!!お前も気に入るだろう物だ。何せ俺のローが気に入ってよく強請ってきた品だからなァ」


 そう言って俺の座る場所からだと丁度死角になるテーブルの上に置かれた、フルーツの乗った大きな杯の後ろ、そこからビー玉サイズの球体の入った小瓶を持ち上げて見せてきた

 それを見た瞬間に血の気が引いた

 俺はアレを知っている

 正確にはもう一人の俺の見る夢で知った

 以前パンクハザードでシーザーがガキ供を監禁、教育する為に使用していた物に改良を加え、その上かつて人を死に至らしめる毒素を持ちながらも甘味料にも使われた鉱石を混ぜた物


 珀鉛キャンディ


「う゛ぷッ!!」


 咄嗟にせめて胃の中にある分だけでも吐き出してしまおうと自分の口の中、喉に指を突っ込んで嘔気を誘発しようとしたが、ドフラミンゴの糸人形に手を引き抜かれて阻止された


「おいおい勿体ねェことしようとすんじゃねェよ」


 手錠の鎖を使って椅子に拘束されたが、何とか抜け出そうと暴れた

 その時、突然視界がグラリと歪んで全身の力が一気に抜けた


「ぅっ…あ……」


 薬が効いてきたのだとすぐに分かった

 間を置かずに思考が働かなくなる


 駄目だしっかりしろ


 あァだけど、ういてるようでなんだかきぶんがいい


 待て駄目だ


 なにがだめなんだ?


 くそ、が……


 だめなことないんじゃないか?



(だってこんなにきもちいいんだから……)



 丁度良いと思った

 自身を蝕む病巣を取り除く事を止め、緩やかに、しかし確実な死に向かおうと企てる俺の弟が別世界に行った時、運が良ければその世界のもう一人のローに治療させられるのではないかと思い至り、暫く自由にさせておいた

 結果、俺の思惑通りに俺のローは無事に治療された

 だからそろそろ帰ろうと、連れ戻そうと思い姿を現せば、向こうの世界のもう一人のローに取引を持ち掛けられた


「あいつはまだ療養が終わってねェ、そんな状態で戻せば今度は死にかねねェ。だから代わりに俺を連れていけ。そして今この場にいる奴等には一切手を出すな!」


 丁度良いと思った

 俺のローは元より、こちらの世界のローも出来れば連れて帰ろうと考えていたから

 少し順番が変わる程度何て事はない。それに余計な労力を必要としなかった分、このローには感謝してるよ


 グッタリと完全に力の抜けた体を椅子の背凭れに預け、焦点の合わない瞳はどこに向けられているのか分からない。半分開いたままの口からは唾液が流れ落ちていくが、今のこの状態じゃあ気にもならないだろう

 何の変哲もない、『特殊な調味料』も使っていない普通のケーキを食い終わって席を立つ

 今までこのローの拘束の為に出したままにしていた糸人形を消してローの前に立てば、意識があるのかも危うい様子だったが、俺が近付くとゆるりと顔を動かして俺を見た。まァ実際に視界に捕らえてるかは分からねェがな

 椅子に縛り付けるように巻いた鎖を外してやって、部屋を移動する為に抱き上げればその重さに懐かしさを感じた。そうだ、あの日、国を滅ぼしたその日に抱いた時はこのくらい重さがあった。それがあれだけ軽くなったのかと改めて実感すれば、何だか面白くて笑えてきた

 部屋を移動し、一先ず今日は俺の部屋で寝かせる事にした

 ベッドに寝かせてみれば緩慢な動きで、しかし頻繁に寝返りを打っている


「フッフッフ、俺のベッドが気に入ったか?」

「…ぅ…ぁ、あー?」

「最高級品だからな、俺のローも気に入ってんだ、お前も気に入るに決まってるよなァ」


 大して意味を成さない言葉で、だが確かに返事をするローは、連れて来た時は分かりづらかったが、やはり俺のローと同一人物なのだと実感した

 鋭く吊り上がっていた眉毛も、こうしていれば俺のローと同じように下がり眉だ。分かりづらい垂れ目もハッキリ分かる

 髭も指で隠してやれば幼く見えるのも同じ

 このローも同じように髭ともみあげを脱毛しておこうか?いや、それは止めておこう。こっちのローはこのまま教育していこう。過去の面影を残したまま変わっていく様はさぞかし愉快だろう

 そういえば食事の時にキャンディを見せた時の表情や行動。あの様子からしてキャンディの事は知っていた様子だったな。なら明日正気に戻った時こいつはどんな表情をするのだろうか

 怒りか、はたまた絶望か

 何にせよ必ず気に入るさ、俺のローが泣いて喜ぶキャンディだ、同じローが気に入らない訳がない


 あァ、明日お前が正気に戻るのが待ち遠しいよ



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