最終バトルと大胆告白
「君の実ったその力と、どっちが強いか勝負しよ!」
テーブルシティのバトルコートで、わたしはボールを構えながら高らかに宣言する。
ああ、ずっと待っていたんだ、この時が来るのを。
ずっと待っていたんだ、対等なライバルが現れるのを。
君が来てくれてから、わたしは楽しいことばっかり。
全力で戦って、そして勝つ!
しかし、対する新たなチャンピオンにしてわたしのライバル、ハルトの様子がおかしかった。
ハルトは、ボールを前に掲げて祈るような姿勢をとっている。わたしの言葉に反応を見せない。
「ハルト…?」
やっとこちらの言葉に反応したのか、ハルトはゆっくり掲げていた腕を下すと、
その目をカッと見開いた。
「!!」
空気が、変わるのがわかる。周りを囲む衆目のざわめきすらどこかに遠ざかっていくようだった。
本気だ、本気のハルトが今、目の前にいる。
これだ、これと戦うために今までずっと実るのを見守ってきたのだ。
これと戦うために、今までずっと燻ってきたのだ。
ああ、なんて素晴らしい……
「心の準備も完璧だね、ハルト。」
武者震いがする。もう一刻も待てない。これから最高の時間が始まるのだ。
「さあ、始め――」
「ずるい……」
「えっ?」
だがハルトはボールを構えなかった。こぶしを震えるほど握りしめている。
「ハルト……?」
「ネモは、ネモはずるいよ。ずっとずっと、ネモはずるい。」
……ハルトが何を言いたいのかわからない。
「ハルト、怒ってる?」
「怒ってない!!」
…………怒ってるじゃん。
「思えば最っ初に会ったときからそうだったよね、ネモは!」
……いったいなんの話だろうか。
「知らないところに引っ越してきて、僕結構不安だったんだよ?それをネモと出会って、いきなり生まれて初めてポケモンバトルして、ポケモンとの生き方を教えてくれて、学校まで一緒に行ってくれてさ!」
たしかにそうだった気がするがそれがどうしたのだろうか。
「課外授業が始まったときもそうだったよね!『好きなこと見つけてやりたいことやっちゃえ!』って!だから僕その通りに冒険したよ!?」
「そして行く先々で僕のこと励ましてくれたよね!?『ハルトなら絶対にできる!』って!そうやって頑張って冒険してたら、僕、チャンピオンになっちゃったよ!」
なんだろうか……もうそろそろ限界だ。
「それでそれで――」
「あーもう!ハルト!さっきから何が言いたいの!?わたしもう戦いたくて仕方ないんだけど!」
「――っだから、だからチャンピオンになって、ネモに『ライバルになってください』って言われて、僕は…僕は…」
ハルトが天を仰いだ。息を思いっきり吸い込むのが見える。
ああこれは、なんだかすごい予感がする。何か後戻りできないような、予感。
「僕はネモが好きだ!!」
…………え?
「本当に本当に大好きだ!!だから、だから……絶対に勝つ!!!」
ハルトがボールを構える。
対してわたしは全くの混乱状態に陥っていた。
スキ?ダイスキ?わたしを好きとは?それは、それはつまりどういうことだろうか?
こんな場面でライバルとして好きとかそんなこと言うはずがない。
つまり恋愛としてハルトはわたしのことを好きになったのだ。
いつのまにか、実るのを手伝っているうちに、わたしはハルトを惚れさせてしまったのだ。
しかし冷静に回転する思考とは逆に、まったく感情が制御できない。
「フ、フフ…」
なぜか笑いがこみあげてくる。
「アハ、アハハハハ!!!」
身体中が歓喜に打ち震えている。なんでそうなっているのか、もう自分でもわからない。
「最っ高!!最っ高だよハルトォ!!!!」
ハルトに負けないくらいの大声で叫ぶ。もうこれくらいしか感情を発散させる術がない。
「もしわたしに勝てたら結婚してあげる!!!」
自分が自分で何を言っているのかわからない。でも、そんなこともうどうでもよかった。
「――!?言ったな!!言ったな!!後で無しとか絶対ダメだからね!!」
ハルトが叫ぶ。
「言うわけないじゃんそんなこと!!来い!!!」
「絶対勝つ!!!!」
「絶対負けない!!!!」
ハルトが最初のポケモンを繰り出す。呼応してわたしもルガルガンを繰り出した。
こうして、わたしの最高のバトルが幕を開けたの。
結果は、また今度話すよ。
お休みなさいわたしのかわいい――