暗躍する檀生パラド
廃棄された工場内に蠢く複数の影。人型に近いシルエットを持つそれらは闇に溶け込むように佇んでいた。それらのうち、一番巨大な影が呟く。
「やはり人間などは大したものではないな」
その声に同調するかのように他の影たちも口々に言葉を発する。
「一度死んだらそれで終いだし、脆弱で脆いしなあ!」
「移動速度も我々バグスターとは比べ物にならないほど遅い」
「伝説のライダーなるものが手強いと聞いてはいるが所詮御伽噺よなあ」
「ライドプレイヤー達の無様な負けっぷりは笑いが込み上げてきたものだ!!」
「揃いも揃って小悪党染みてんなあ。全く呆れたもんだ」
突如として知らない男の声が影達の嘲りを遮った。
「誰だ貴様は!!」
「おー、威勢が良いな。珍しい」
男は気にした様子もなく悠然と近付いてくる。
「貴様、同胞か?」
「ああ、お前達と同じバグスターだよ。…ただし、良性の」
「人間側に与した軟弱者が何しに来た」
「いやあ、ちょっと最近のお前達の名前が話題になってちょっとした騒ぎになっていてね。新たなる悪性バグスターの出現とかマスコミが大盛り上がりして…それがちょーっと困るからさぁ…まずは、話し合いを持ちかけに来たのさ」
目の前の男は穏やかに言う。影達は鼻で笑い飛ばした。バカバカしい。やはり人間側、理解できない思考回路だ。
「そもそもなんで人に危害を加えるんだ?」
「しれたこと。我々は生まれついてそうあるものだ」
「そうとも! 人類が望んで我々をそう作ったのだからな!!」
「あー…そうか、お前等以前のテロリスト集団が生み出した連中なんだなー…。…でも生みの親たちは堀の中だし、お前等のように生み出された連中も今では就職したりして社会参加してるんだぜ?」
「フンッ! そのような脆弱者どもと我々を一緒にしてくれるな!」
「我々は今後とも人間を蹂躙し、ゆくゆくはその社会を…」
「全く聞かないヤツ等だなあ。人類をやたら消耗してどうするんだ? 自滅したいのかお前らは?」
「何……?」
「良いかい、よく聞くんだ。大半のバグスター達はな、人類を『中間宿主』、人類社会を『最終宿主』と定めてるんだよ。とっくの昔にな。
だから、お前達みたいな悪性バグスターに暴れられて人類や人類社会に影響を与えられたら最終的に俺達良性バグスターが困ってしまうんだ」
「人間側についたモノの考えなど知らぬ!!」
「だからさあ…俺達バグスターは人間がいないと生き延びれやしないんだ。だから、人間に嫌われるようになると不味いんだよ」
「そんな道理を信じるとでも思うのか!?」
「……やっぱり聞いちゃくれないか…あーあ…。しょうがないなあ…全く…」
「じゃあ、矯正しよう」
男がそう言った瞬間、影達は一斉に内側を弄られるような感覚を感じた。
「大丈夫、すぐ終わるさ」
男は笑う。先程までと変わらない穏やかさで。