暗殺者の回顧
ジェターク社CEO−グエル・ジェタークの暗殺。
それが今回の依頼内容だった。
相手の本拠地に乗り込むにあたって、メンバーは自分とナジともう一人のみ。
ジェターク社の内通者は嬉々として俺たちを迎え入れた。
饒舌に語る男曰く、グエルは会社を引き継ぐ器に非ず。冷静で理性的な弟ラウダ様こそ、この会社を継ぐにふさわしい!
陶酔しきった声音に不快感を覚えるが、これから18歳の少年を殺そうとする自分に何も言う資格はない。余計なことは考えず、与えられた仕事をこなすことに集中することにした。
警備はあまりにも薄く、あっさりターゲットのもとにたどり着いてしまった。
背の高い凛々しい顔つきの少年だった。青い目がこちらを見つめ大きく見開かれる。こちらが銃を向けると同時に、少年の体も動いた。
「…死ねない」
弾丸をかろうじて掠めたとき、そんな言葉が聞こえた。
「俺がここで死ぬ訳にはいかない!父さんの遺した会社を、みんなを守るために!」
"父さん"
その言葉に思わず引き金を引く指が止まる。記憶の奥底に封じた…なのに忘れることのできない、炎と我が子の情景が脳裏をよぎる。
本当に彼は殺すべき人間なのか。
自分が躊躇うのをよそに、ナジもメンバーも容赦なく発砲する。
(絆されるな…捨てただろう、そんな感傷は)
少年は、銃を持った3人の大人に向かって素手で抵抗を試みる。あまりにも無謀だ。
迷うな、躊躇うな。相手が丸腰だろうと関係ない。
生きる意志の強さか、なかなか彼は倒れない。迅速に終わらせねば警備が来る。
焦れたのか、手引した内通者がいつの間にやら手にした拳銃で攻撃に加わる。
自社の制服を着た人間が銃を構える姿は酷く少年を動揺させたのだろう、素人のその射撃をまともにくらってしまう。
その弾丸は少年の身体を貫通すること無くめり込んだ。
そして
内通者が次に放った一発は、グエル・ジェタークの頭を撃ち抜いた。
誰の目にもわかる、即死。
弾丸を放った男は、己の信仰対象であるジェタークCEOの弟−ラウダ・ニールへ向けて狂ったように成果を言い並べる。
ピクリとも動かず横たわる少年。
口角を釣り上げ銃口を向けた内通者を、彼がどんな思いで見つめていたのかなど知る由もない。
ただ、
その瞳は光を失うまで、狂喜する男を見つめていた気がした。