【晴晋】【R-18】PUNISHMENT!

【晴晋】【R-18】PUNISHMENT!


 僕がカルデアに与してからそろそろ一年が経つ。退屈に嫌気が差すこともあれば、面白いこともそこそこにはあって、特にここ一、二ヶ月は暇するどころの話ではなかった。だがまあそれも落ち着いて、何だかんだと手持ち無沙汰だな、とボーダーの機関部に仕込みを始めたばかりのことだ。

 鼻歌混じりに機関室横の廊下でスパイウェアを埋め込んでいた僕は、音も立てずに背後に忍び寄った巨躯に気づかぬまま、両手を掴まれ壁に押し付けられた。

「うげっ……晴信……」

「『うげっ』ではない。晋作、お前、ここで何をしている」

「整備だよ整・備!カルデアでこの手のシステムに詳しいのはそうそういないだろ。奇神の全てを組んだこの長州の麒麟児の腕が、かのエンジン嬢に買われたってわけさ!」

 口からでまかせも多分に、フフーンとドヤ顔を作ってみても、晴信は眉間の皺ひとつ和らげぬまま僕を宙にぶら下げたままだ。ここにきて体格差にモノを言わせてくる彼への不満も半々、こりゃバレてるなと逃げの策に走らせる思考が半々といったところである。

 ただ、問題があるのは、そう。

「で、実のところは?」

「いや、実も何もないって……ないから、その、……放せ」

 問題は、僕がまあまあ晴信に、がっつり誑かされていることにある。

 晴信の腕一本で容易に浮かされた両手首は、壁に押しつけられ微塵も動かせぬまま、かかった体重にぎしりと軋んだ音を立てた。その音に、力任せに掴まれて、ついた手形の愛おしさに笑った夜を思い出す。

 こちらを見下ろす晴信の顔は眉間こそ寄ってはいても、何の感情もこもっていなかった。ただ、その瞳に火がつく瞬間を、絶えることなきその火に焼かれた夜を、他でもない僕が覚えている。

 ぞく、と走った悪寒はもはや気のせいではなかった。己の肺から漏れる息も、頭をくらくらと揺らす目眩も、なにもかもが熱い。鳩尾あたりが詰まる感覚がして、浮いた足が溺れたみたいに揺れてしまう。それでも逃しそこねた熱が、じわりと視界を歪ませる。

「……その、晴信。わかったから。君の話をちゃんと聞く、から……。だから、できたら、放してほしいんだが……」

 やけくそ混じりの僕の懇願を、晴信は雑に開いた手のひらで叶えてくれた。べしゃりと床にうなだれて、何だこれと理解する間もなく、視界が宙へと浮いていく。

 そうして俵担ぎに運ばれて、晴信の部屋のベットに雑に投げ込まれたのは、まあその数分後の話である。


「で、結局何をしようとしていた?」

「だーかーらー、別に君に関係あることじゃ……っ、ふ、……あ、ぅ」

 そんなやりとりも幾度重ねたか、気づけば荒縄で両手首を縛られ、慣らしもそこそこに腹に陰茎を咥えさせられた。どこでこんなもの調達してきたんだ、とか、ここまでされるような謂われはないぞ、だとか、言いたいことは多分にあるが、何よりひどいのはのぼせきって回らない頭だ。

 半ば強姦まがいなのは、まあいい。そういうことも込みで晴信の手を取ったのは僕だ。ただ今は、ひたすらに、どうにももどかしくてたまらない。

 晴信の手は僕の腰を掴んだまま、動かしもしなければ動くことも許してくれなかった。それは彼の陰茎を埋めてからずっと、もうしばらくの間、いっさい変わることがない。ただ、腹のうちの痙攣に合わせて、グラスのふちから時折ぼたりと性感の塊だけが落ちていく。

 それがなんとも厄介なのだ。いっそひっくり返してしまえたらと何度願っても、気絶だけはしないようにと雑なまでに魔力が腹に貯められていく。冷めることも焼かれることも許されないぬるま湯の、手の届かないその端に、際限なく渇えて喘いでしまう。

「ふぁ、……う、んぁ、あ……!はるのぶ、いいから、動け、よ!」

「その判断を下すのはお前ではないだろう」

「う゛、ぅーーーーぁ、ん゛ん~!」

 憎まれ口を叩いた途端にあやすみたいに腰をひと揺らしされて、一瞬で脳が茹だっていった。

 ずるい、ずるい、こんなの。晴信は、ずるい。ぐす、と鼻が鳴る。もうまともに何も考えられない。許されたい。許してほしい。でも僕まだそんなに悪いことしてないじゃないか、だなんて理不尽さは、それよりもっと動いてほしいという欲に容易に吹き飛ばされていった。

「すまない、僕が、わるかった、から。

 調子に乗って、わるかった。

 悪だくみして、わるかった。

 ……きみのこと、こんなにすきで、ほしくてたまんなくて、ごめん」

 だから、許してくれ。懇願の勢いのまま、欲に浮かれた頭がぼろぼろと涙をこぼれさせていく。晴信の顔は涙で滲んでとうに見えなくなっていて、でもそんなのはどうでもいい。こっぴどくでも、何でもいいから、彼にすぐさま抱かれたい。

「……最後のは、謝る必要もないだろうが」

 呆れたような困ったような、戸惑い混じりの晴信の言葉を聞きながら、痛いくらいに腰に食い込む彼の指に、僕はようやく安堵の息を漏らしたのだった。

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