【晴晋】【R-18】晋作太夫ルートif 03. 睦言(届かず)

【晴晋】【R-18】晋作太夫ルートif 03. 睦言(届かず)


 呼びつければ部屋に来る。手を伸ばせば拒むことなく、従順さすら見せ求めに応える。それ以上は一切何も手放さないまま、ただ応えるだけだと静けさに心を浮かべる男は、表に見せる狂騒など欠片も見せずに、退廃すら匂わせて退屈そうにベッドに沈んでいた。


「ふぁ、……ん、ぁあ!あ゛、あ゛ぁ~~ぅ、は、しつ、……こい!」

 勢いよく振り上げられた高杉の踵が、鈍い音とともに背に落ちてきた。平素なら文句ひとつこぼさず、なんなら要求も口に出さない男の珍しい言葉に俺はかすかに目を見開いた。

 は、は、と短く吐息を刻みながら、真っ赤な顔をほのかな屈辱に歪ませて、高杉の瞳がこちらに向けられる。緩みはすれど融けはしないその瞳は、鉱石の例えの通りに熱に染まらず冷めている。

「……何が足りない?」

 これかとばかりに、ぐち、と腹に埋めた指を一回しした途端、ひ、と悲鳴が漏れた。ぎゅうぎゅうと締めてくる腹のうちは雄弁で、だからこそ、高杉の口から求める言葉を聞いてみたかった。

 こちらの意図などとうに見透かしているのだろう。息を整え数度口を開閉した高杉は、ふいと目を逸らして深々とため息をついた。

「ハハ、ハ。僕から恥まで引き出したいか。なんとも、ん、は、ぁ……欲張りな、虎、だな」

「ああ、欲しい」

「……よこせよ。そのために僕を呼んだんだろ。信玄公」

 自嘲混じりの高杉の呟きは俺よりも自らを諫めるような響きを伴っていた。


「あ、あ゛ぁ!あ、んーーー!んん、は、ぁ、あ。あ゛ぅ、う゛~~!」

 さらけ出された喉から、揺さぶる度に甘やかな嬌声が踊り出す。縋る先のない指が敷布を掴み、痛ましいまでに甲の骨を浮かび上がらせている。堪えきれずに左右に振れる紅の波に合わせて、ひとつ、またひとつと雫が頬を濡らしていく。

 その姿は、哀れなまでに愛おしい。その哀愁に高杉を落とし込んでしまった俺は、報う資格などとうに失っているが、それでも、どうしても報いて、掬い上げたいと思ってしまう。

「う、ぁ。うう……、ふ、うぅーーー、う、ぁ、あ゛ーー」

「お前は、愛いな……」

 泣き濡れた頬に伸ばそうとした俺の指は、思いの外強い力で振り払われた。色に染まり、透き通ってまで見えた紅玉が、ぎらりと暗い輝きを増して、不機嫌さも多分に眇められた。

「そこまで許した覚えは、ない」

「……そうだったな」

 その美しさに見惚れたのも一瞬、瞬時に冷や水を浴びせられた。与えるのも与えられるのも、肉欲以外は許されない。際限なく漏れる嬌声の甘さに反比例するかのように、こちらに向けられる瞳は欲を孕みながらも冷ややかさをどんどん増していく。

 まだ、届かない。届きようがない。それでも少しは伝わればいい。幾度振り払われようと、今はただ、肉の繋がりの中に愛しさを忍ばすほかないのだ。


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