晴天を穿つ
WCI編のサンジ奪還時のルフィイメージ曲よりタイトルをお借りしてます。
ルサン、と言うかこれだけ読むとル→サン
キスやエロはないけどcpもののつもり。
対になる話を読んでもらうとル→←サンの両片思いになります。
なんでもバッチコイの方は以下よりどうぞ
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サンジは頭が良いのに、時々おれより馬鹿なんじゃないかと思う時がある。
例えばバラティエで、恩の為に命を捨てようとするとこやドラムでおれとナミの為に雪崩に呑まれるところだとか。
どうしていつも、サンジは自分を削って周りを守るのか。
それがどうしても分からなかった。
―――だから一度、サンジと同じように頭が良いロビンに聞いたことがある。
あれは確か、どっかの海賊船と戦闘になったとき、サンジがウソップとナミを庇って怪我をしたって聞いた時のことだ。
「なぁ、どうしてサンジはいっつも、自分を削って周りを守るんだろうな。」
独り言みたいな言葉の裏に疑問が浮かんでいたのを分かってくれたロビンが、どうして私にそれを?と聞いてきたから、おれはロビンがサンジみたいに頭が良いからだとか言ったような気がする。
「…そうね。」
少し黙り込んだロビンは、いつもよりゆっくり口を開いた。
「サンジは優しくて賢いから、きっと守り方をそれしか知らないんじゃないかしら。」
―――そう言って笑うロビンは、なんだか寂しそうに見えた。
○○○
甘い甘い、雨がじわりと体温を奪う。
どうやら少し気を失っていたらしい。
(これじゃ、だめだ。)
おれはサンジと約束したんだから、起きてサンジを待ってなきゃいけないんだ。
グッと歯を噛み締めれば、じわじわと不味い血の味が滲む。
(サンジのメシが食いてぇ。)
ぐるる、となる腹の音を聞きながら、馬鹿でウソツキな、おれのコックに想いを馳せる。
ハラが減ってサンジを思い出すのは、もはや反射だ。
サンジは優しい。
ハラが減った奴は絶対見捨てないし、つまみ食いには凄く怒るけど、その代わりすげぇウマい飯を用意してくれる。
戦ってるときは、おれやゾロみたいに突っ走るだけじゃなくて必ず周りを見てる。
そういうところは頭が良い。
でも。
(『サンジは、優しくて賢いから。』)
ロビンの言葉を思い出す。
(『守り方を知らない』)
今ならその言葉の意味が分かる。
サンジが知らないのは、周りを守る方法じゃなくて、自分を守る方法だ。
サンジの優しさも賢さも、自分のことになるととんと反応しなくなっちまう。
(でも、それがサンジだから。)
それがサンジのダメなところで、良いところだから。
おれはそんな、サンジが好きだから。
(おれはサンジの船長として、引っ張っていってやるんだ。)
賢く強い、夢を捨てたなんていうウソツキの王子様は、けれど馬鹿で底なしに優しくて、夢を捨てられないから。
きっとサンジは、おれのところに戻ってくる。
(だから。)
その時はサンジのメシが食いてえな、と思考が巡る。
思い出すたび口に巡る味の感覚は、傷を見るたびエースを思い出す感覚にも似ている。
(――――なぁ、サンジ。)
おれはやっぱ、おまえがいなきゃ海賊王にはなれねぇ。
なんて言ったって、おれはもう、おまえのメシに心臓ごと掴まれて、消えない傷を負ってるんだから。
○○○
「なぁルフィ。」
お前、馬鹿じゃねェの。
穿たれた雨が止んで、青空の道すがら。
ぽつりと溢したサンジに、「何が?」と問いかければ、「ぜんぶ。」なんて短い言葉が返ってくる。
それでも意味が分からなくて首を傾げれば
「……『おまえが居なきゃ、海賊王になれねぇ』とか、……馬鹿じゃ無ぇの。」
なんて。
まだそんなことを言うから。
「おまえなぁ…」
思わずため息をつけば、叱られたチョッパーみたいな、珍しい表情のサンジがこちらを向く。
「サンジ、おまえ、おれに一生消えない記憶(キズ)を負わせて、おれから離れられると思ってんのか?」
おれの言葉にサンジはびくり、と肩を震わせる。
だからおれは、サンジが口を開く前に言葉を続ける。
「おれ、メシのこと考えると真っ先にサンジの顔が浮かぶんだ。」
「クソうめぇだろ」と笑う顔や、楽しそうに料理する姿や、料理を食べるみんなを幸せそうに見るおまえが、メシのこと考えるたび毎回浮かぶんだ、そんなの、一生消えない傷みたいだろ!
「だからおれ、メシだって思ったら毎回おまえを思い出すし、おまえ以外のメシが1番の美味いを得ることはねぇと思うし、それに!
海賊王になったとき、おれは世界で一番ウメェメシが食いてぇ。
だからおまえは、おれが海賊王になったらすぐにメシを作れるように側にいてくれなきゃダメだ!」
とにかくおれにはサンジが必要だ〜ってことが伝われ〜と思いながら、とにかく言葉を尽くしてえへん、と胸を張る。
「なんだ、それ。」
俺は、メシだけか?というサンジに「そうじゃねぇ!」と言う。
「おれは、海賊王になったとき、1番好きなモンが見てぇ。
うめぇメシ作って笑うおまえが見たい!」
サンジが離れないように握った手を引いて、兎に角ガーッと、思ったことを叫ぶ。
「は⁉︎」
驚いたように見開いたサンジの目が、ようやくおれをまっすぐ見る。
晴空よりも綺麗なそれの、一等キラキラした奥を穿ったさきに、おれの顔がずっと写っていた。
#晴天を穿つ