晴コヨ尊死

晴コヨ尊死



客はとうに散ってしまった舞台袖の物語。朔の空で星の光芒が窓から輝く。時計の音が聴こえる店内に残っていたのは、飛べた頃の記憶を亡くした人形のコヨミと、夜に驚き目覚めた晴人。

「こんな夜更けに窓を眺めて、どうしたんだ?」

「晴人こそ、もっと寝てればいいのに…」

「平気。平気。眠れなさそうなら、コレを使うさ」

肩を縮こませて、彼の開かれた手のひらにはスリープのウィザードリングが握られていた。

「白湯飲むか?」

「厨房は体が冷えるからわたしが淹れる」

「大丈夫。コヨミはソファで待ってて」

無駄のない動きで、鉄瓶に水を静かに入れて、点火する。カップをふたつ用意し、少し温めのお湯を淹れる。良し。

白湯を用意してテーブルに置くと、重めのブランケットをかけた天使の横に座る。

「ありがとう」「どういたしまして」

受け取ったカップにほうっとふたり並んで、溜息を吹きかけて喉に流した。あたたかい幸福感に酔いしれて、彼女を見つめると、微笑みかけていた表情が、すっと真顔になり、瞳から一筋の水が零れる。

「…キスして」

そこからは覚えていない。多分、抵抗して身を離そうとする彼の唇をぎこちない顔で何度も、何度も、触ったと思う。

気がつくと、温かな晴人の心音をわたしの冷たい手を使って探り聴いていた。


「コヨミ…だめだ、いけない」

自分の口から出た言葉とは裏腹に体は言うことを聞かずに、ソファになだれ込んだ。コヨミから零れる涙を拭い続けて、唇を重ねてしまう。

窓からの星も今は雲に隠れてる。いっそ、そのまま淫れて、汚れてしまえればいいのに…


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