晩酌

晩酌


ガキが寝静まったのを確認してから静かな部屋の中でぽん、と酒の瓶を開ける時の音が好きだ。


今日も一日皆を騙し通せた。

仕事を上手く出来た。

ガキの世話をできた。

この魔界で生き延びることが出来た。

これら全ての功績に対して強めのアルコールの祝福を自らの体に送るこの時間が1番好きだ。


ただ、今日はそこに更に「慰め」が欲しかったので、追加でもう一本瓶を開けることにした。


「……ハァ〜、ンだよ全く…アイツら結局人間のコト好きなのか嫌いなのかよく分かんねぇんだけど…」


気に食わねえ事があると酒が苦くなる。酒が苦いとどうにも言葉の苦味も増していく。

何が気に食わなかったかって?

そりゃあ単純だ、"元人間"がこの国に来たことと、皆が案外平然とそれを受け入れやがったことだ。それがどうにもオレは内心気に食わなかった。


本来のアイツらは人間に対してそこまで友好的ではない。だからこそオレの売りさばく奴隷共も普通に目の前で切り刻むし、国の三つや四つを平然と滅ぼしに行くような連中が大半だ。ただ…今日のヤツみたいに人間をやめてさえしまえば、ああやって受け入れるものも自然と多くなる。


……まあ、言っちまえば嫉妬だ。

オレは現状殆どのヤツらに自分が人間、それも転生者であることを話していない。バレた時はいつもソイツを始末するか口止めするかの2択だった。

アイツらみたいに魔物の心臓かなんかでも埋め込んでしまえば楽なんだろうが…それで適応できる奴なんて早々多くはない。上手く適応できず目の前で血反吐吐いて死ぬやつもクソほど見てきたし、適応しても結局自我を失って暴れ出す輩もそりゃまあ多かった。


しかしオレはオレの身が可愛くて仕方ねえ様な奴だから、そんな大博打に出る覚悟もなくて、結局こんな回りくどくて、息が詰まりそうで、取り返しがつかなくなる方法で己の命を食いつないでしまっている。

だからああやって上手くこの世界に、この国に「適応」出来たヤツらに嫉妬するんだ。


「………クソがッ!」


思わず近くのクッションを殴りつける。鈍い音だけたてて転がったそれを踏み付け、苦い酒を胃の中にひたすら流し込んでいく。


違う、オレにとってはコレが最良の選択だ。

そもそも人間なんてろくなもんじゃねえんだからそれを恥じて隠すのは必然だし、少しでも死や裏切りのリスクを減らすためには己の弱みは誰であれど見せないのが一番だ。

お陰で十年、オレは魔王すらも欺ける程には嘘が上手くなったし、金も地位も名声も手に入れた。

確かに世間的に、人様からしたら「正しい」方法では無いけれど、オレはオレが幸せならそれでいいから。だからこれが一番なはずなんだ。


……それなのに、


「なんで、こんなしんどくなってんだよォ…」


……ああ、今日の酒は一段と苦い。

その癖飲むのを止められもしねえんだ。こんなんじゃいずれ早死するって、分かっていたとしても

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