【晴晋】晋作太夫ルートif 02. 朝寝(至らず)

【晴晋】晋作太夫ルートif 02. 朝寝(至らず)


 目に入った明るい天井に、断絶していた意識を取り戻す。そこそこ長い間気絶していたのか、かけられた毛布の下は既に清められ、単衣を着させられていた。意識があるなら霊体化して魔力で服を編み直して終わり、だというのに甲斐甲斐しいことだ。

 頭にかかった靄を振り払い、よいせと上体を起こしていく。腕の力の入らなさと、腰から太ももへの鈍い痛みに、相当楽しみやがったなと恨み言が浮かばぬこともない。

「飲めるか?」

 こちらに気づいたのか、信玄公がグラスを片手にベッドサイドへと近づいてきた。受け渡されたそれを口に含んで、こっちも結構やられたな、とひりつく喉を撫でる。一杯を何とか飲みきって、ようやく口が開けるようになった。

「信玄公」

「なんだ?」

 僕を見下ろす信玄公の顔は、少しばかり張り詰めているようにも見えた。妾ですらないセフレ相手に何をそんなに緊張することがある、と思わなくもないが、もともとが誠実な気質の男だ。そういう関係であっても恋人扱いをしようと思えば、いくらでもそう振る舞えてしまうのだろう。

「立てる気がしない。場所、借りるぞ」

「あ、ああ。構わんが」

 ベッドの壁際を数回指差して、もちろん断らないよな?の意思をこめて見上げてやる。かち合った薄い瞳が拍子抜けしたようにぱちりと瞬いて、それが少し幼げに見えた。

 意識を蝕む眠気に逆らうことなく、信玄公に背を向け、ベッドの壁際に身を寄せる。くるまった毛布やほのかに体温の残る敷布の、この暖かさは悪くない。

「寝る。……勝手に触れてくれるなよ」

 あふ、と欠伸を漏らして、きちんと釘を刺しておく。まあもしこれで手を出してきたものなら、霊体化してでも部屋に戻ってやるだけなのだが。

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