時計の針。 #名もなきミレニアム生
悲しみも、嘆きの声も、時計の針を止めてはくれない。
あの日の出来事から一ヵ月と少し。みんなのサポートがあるとはいえ、会計の仕事もだいぶ元通りにこなせるようになってきた、と思う。
ノアたちは無理をする必要はないって言ってくれてるけど、いつまでも甘えたままじゃいられない。私個人にどんな事情があろうと、それを理由にミレニアムで日々行われている研究や部活動を……みんなの頑張りを、滞らせていいはずがないのだから。
「──ええ。今月分の活動報告書、確かに受け取ったわ。……あなたたちがこんなに早くからしっかりとレポートをまとめてくれるだなんて意外だったわね。いつもこれくらいちゃんとしてくれてれば」
「そ、それはもう! 今月は頑張りましたから! 私たちだってやるときはやりますよ、ユウカ会計!」
その日、私が査察していたのはミレニアムのとある中堅部活。
……ゲーム開発部の子たちほどじゃないけど、普段から予算アップの嘆願や活動報告の提出遅れなんてものの常習犯で。いつもだったらこの時期には何かしら揉めるのが普通だったから、正直ちょっとだけ身構えていた。……まあ、ミレニアムのほとんどの部活は大なり小なりそんなところがあるのだけど。
ただ、今月に限っては拍子抜け。活動報告書の提出だって期日通りにしてくれていたし、予算だって前もって計画していた範囲に収まってる。会計としては文句のつけようもない。
しかも彼女たちだけじゃなくて、今月はほとんどの部活がさしたる問題を起こしていないのだ。……私が会計の仕事を休む前と比べて、明らかにみんなの部活に対する取り組み方が変わっている。
その理由なんて、わざわざ考えるまでもなくて。
「だって、これ以上ユウカ会計に負担をかけるわけには行かな……あ、えっと、その……」
「どうしたの?」
「……ご、ごめんなさい。なんでもないです」
……まただ。歯切れの悪い言葉に、居た堪れないような態度。
「あの事件」から、どこにいってもこういう視線ばっかり向けられる。……やっぱり私、まだみんなに気を遣わせちゃってるのかな。
目元に隈を作りながらレポートを手渡してきた彼女の姿を見ると、じくりと罪悪感が滲んで。
「……あのさ」
「は、はいっ!」
「締め切りを守るのも大事だけど、あんまり無茶はしないように。……私は大丈夫だから。心配しないで、ね?」
精一杯に笑顔を作って笑ってみせたつもりだったけど、それでも相手の表情は晴れなかった。なんだか泣き笑いみたいな顔になっちゃったその子の顔に、胸がちくりと痛む。
「……それじゃあ、私は次の部活を見に行かなきゃいけないから。この調子で来月もよろしくね」
もやもやとした気持ちのまま彼女たちの部室を後にする。
仕事は待ってはくれない。みんなに負担をかけてしまった分、私だって頑張らなくっちゃ。
……私は、ちゃんとやれてるのかな。
セミナーの会計として……みんなにまだ、必要としてもらえているのかな……?
分からないけど、それでも。
前に進まなくちゃ。
立ち止まったままじゃ、いられないから。