昼下がりの客ふたり
シャボンディ諸島、無法地帯と秩序だった地帯のちょうど端境にある小さな店は、海賊や船乗りが集うこの島にしては珍しくもない、レトロな雰囲気の酒場だ。切り盛りするのはひとりの女性店主であり、その手伝いに収まるのは世にも珍しい動く人形。
今日もいつも通りの時間に、人形がプレートを『closed』から『open』へと変える。その僅か数分後に、カランと来客を告げるベルが鳴った。
「いらっしゃい……あれ?珍しい組み合わせ」
「コイツが迷子になってたのよ」
「うるせえな、ちょっと道を間違えただけだ」
「反対側にいたくせに」
かつての仲間であり今代の世界最強の剣士であるロロノア・ゾロと、かつての友人であるシュガーの二人が揃ってドアをくぐった。ゾロはその年齢を示すように皺が増えたが、シュガーはかつてウタと出会ったときのままの姿だ。何も知らない人間が見れば、祖父と孫にも錯覚するだろう。
ウタはそんな組み合わせに吹き出しそうになりながら、人形に『貸切』のプレートをかけるように頼んだ。
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ゾロには度数の高い酒と簡単なつまみを、シュガーにはアイスティーとグレープを。カウンター席に座る二人はお互いの存在を気にすることもなく淡々としていた。TDからはジャズ調のビンクスの酒が流れている。
「で、ゾロはロメ男くんに会わないの?」
「そうだな。魚人島にでも乗せてってもらうか」
「は?私たちついさっき魚人島からここに来たのよ。なんでまた逆戻りしなきゃならないのよ。あの船の航海士は私なんだけど」
「んだよケチくせえ」
かつて一切の航海術なしに海を渡っていたバルトロメオ海賊団にたえきれず、なし崩し的に航海士となったシュガーだ。またあの危険な航海とコーティングの手間を思い返してややうんざりしてゾロに文句をつける。しかしそこまで本気でないのは、バルトロメオのバリバリの実があれば大抵の危機はなんとかなると知っているからだろう。
「ふふふ、コーティング屋、紹介する?」
「マージンいくら取るつもり?」
「そこの剣士から請求すればいいのに」
「オイ、やめろ」
かつてナミから暴利を働かれいいようにこき使われた過去を思い出したのか、次はゾロが顔を顰める番だった。それでもゾロが魚人島に行くのは確定事項であるらしい。
ウタは二人のやり取りをにこにこと眺めながら、かつて通信士として培ったスキルを使い、シャボンディ諸島のどこかにいるであろうバルトロメオにゾロとシュガーの居場所を伝える準備に入った。