春はゆく (3)
UA2※注意事項※
「よすが と えにし」系列と同軸。時系列等は(1)の後。
捏造過多。フィーリングで読んでね。
誤字と脱字はお友達。
↓ 以下、ざっくり考えているこのSSに関する設定 ↓
戦いの舞台をはっきり決めてなかったので、暫定旧ドレスローザの人口空島的な何か。ifドが倒されたので落下して、今は海に浮かぶ島になってる。
ifドレークとifベビー5は無色透明ifローさんを正史世界に逃した二人。ドレスローザ戦後、幹部達は何人か生き残ったものの、多くは狂った若様を恐れて離反・あるいは殺されている。
ifドレークはおもちゃに、ベビー5は家族だったのもあって酷い拷問をされていた(ifロー探しを優先していたので奇跡的に生きていた)。
if世界ではオペオペの実を取り合う争いが起こってる。センゴクさんは情報操作などしてくれているものの、匿えるほどの力はない。
*
白く輝いていた"門"が不規則に歪んで縮んでゆく。ビリビリと稲妻の様な音を立てて閉じきったそれを、俺達はただ見つめていた。
地獄の中でただ息をしていた人形に命を吹き込み、造られた空島と悪鬼を撃ち通した彼らとは、もう会うことはできない。
季節外れの春の花と生き残った僅かな人々だけが、彼らの勇姿を知っていた。
「行っちゃったわね」
「あぁ」
「本当に残っても良かったのか?」
「ドレーク屋、お前までそんなこと言うのか」
「む。いや、お前の意思を曲げたいわけではないんだが……」
腕を組んで黙り込んでしまった彼に笑顔を返す。
「いいんだ。俺が生まれて死んでいく海は、ここだから」
あちらで生きていくことも、もちろん出来たのだろう。それでも、この海にある思い出と両肩に乗った重い罪の事を思えば、留まりたいという気持ちの方が強かった。
俺は完全な被害者ではない。少なくとも、薄氷の上で成り立っていた世界の均衡を壊したのは俺だ。最も、それに後悔はない。
後悔しているのは、麦わら達を巻き込んでドフラミンゴを倒せなかった事と、作戦を失敗させてしまった事。それによってアイツに殺された使用人や商人、戦火に巻き込まれた一般人……発生した被害は間違いなく俺の罪だ。
だから俺は、自分の罪を贖いながら、幸せになるために生きてゆく。
「とはいえ、実は何も決めてないんだ。最初は何をしようか……」
「はい!はーい!」
ベビー5が元気よく挙手する。発言を促すと、彼女は墓作りがしたいと言った。
「麦わらやあなたの仲間や、あの人の!」
「骨も何もないが、弔いの気持ちは大事だからな。いい案だと思う」
「……そうだな。傷の手当てをしてから、そうしよう」
あちらのトニー屋が置いて行った医療器具を使って治療を施した後、それぞれ作業に取り掛かる。
ドレーク屋が整地して、俺が手頃な石を拾ってきて形を整えて、手先の器用なベビー5が一つ一つ名前とモチーフを彫る。あーでもないこーでもないと話しながら、一人ずつ丁寧に作っていった。
麦わら達の墓が九つ。俺の仲間の墓が二十。ドレスローザで出会い、共闘した者達の墓が八つ。リク王家の者達と一般市民の慰霊碑のようなものが五つ。
傍から見れば奇妙なオブジェかもしれないが、俺たちにとっては大切な人達の墓だった。
「ベビー5、それは?」
八宝水軍のマークの描かれた墓にベビー5が何かを埋めているのを見つけたドレークが、不思議そうに尋ねる。
「婚約指輪」
「え゛」
「お前、一生を死人に誓うつもりか……?」
「なによ、悪い?」
引き気味の男二人を、頬を膨らませた彼女が小突いた。
「この人は他の人と違ったの!だから、私は貴方のものよって約束の代わりに」
「お前、いつもそれ言うじゃねェか」
「そうなのか……?」
「もうっ、いつもの人達とは全然違うの!」
「本当かァ?」
疑う俺を叩いた彼女は、初めて私のこと本気で想ってくれた人なのよと朗らかに笑った。
「……彼ね、私のこと『便利な女』って言ったラオGにすごく怒ってくれたの。勝ったら私を嫁にするって、ふふ。それで勝っちゃうんだから凄いでしょう?」
「それは、……お前にしては見る目があるな」
「でしょ?……その後、若様に殺されてしまったけど。私のこと、本気で憐んで怒ってくれた。それが嬉しかったの、とっても。だから私にとって、いちばんいい人」
花が綻ぶのような笑顔の彼女が、土だらけの手にもう片方の指輪を嵌めて口づけを落とした。
「私、あの人に誇れる私になるわ」
ぽつりと溢された言葉に小さく頷く。
「誰かに必要とされてじゃなくて、自分のしたい事を出来る女になる」
「もう、お前はなれてるだろ」
「そうかな。そうだといいんだけど」
赤裸々に胸の内を話すのは気恥ずかしくてぶっきらぼうな言い方になってしまった。はにかむ彼女を見ていたら、今くらいは素直になるべきかと思い直す。
「お前とドレーク屋がいたから、今の俺があるんだろうが……胸張れよ」
「うん!えへへ」
「……お前達は仲がいいんだな」
微笑ましそうに見ていたドレーク屋の言葉に顔を顰める俺と対称的に、頬を緩ませて喜んだベビー5が彼の言葉を肯定する。
「幼馴染だもの」
「三年しか一緒にいなかっただろうが。腐れ縁だ」
「相互で認識の差があるようだが……。これからはまぁ……家族、と行かないまでにしても兄妹分程度には仲良くなれたらと、個人的には思っている」
「兄妹……」
彼の方から出た言葉に目を瞬かせる。きょうだい。センゴクさんと何かしら関わりがあるのならそうなるのかもしれないが、考えたこともなかった。
言葉尻を濁した俺に、困ったように彼は笑った。
「あー……すまん。不安にさせたな。言葉の綾だ。家族なんて言葉で縛りはしないさ。ただ、そのくらい近い存在になりたいよ。俺は」
彼がドフラミンゴと同じ事をするとは思ってはいなかったが誤解させてしまったようだ。
「兄弟になることに、別に恐怖とかはねェ……ちょっと驚いただけだ……ドレークにい、さん」
「……ふふ、急に呼び方まで変えなくていい。好きなように呼んでくれ」
「ふーん、じゃあ私がローのお姉ちゃんね!」
「ああ?なんだよ、それ。どう考えても俺が兄だろうが」
「あら。動かないアンタの面倒、ぜーんぶ私が見てたのよ?私の方がお姉ちゃんだもーん!ほら、ベビーお姉ちゃんって呼びなさい」
ふふんと胸を張ったベビー5をギロリと睨む。途端に体を硬直させた彼女は、ドレーク屋の袖を掴んでシクシク泣いた。
泣くくらいならしなきゃいいんだと鼻を鳴らす。
「こら、トラファルガー。そんなに睨むな」
「世迷言言ったのはそいつだ!」
「指を指すな。仲良くしないか」
俺と彼女を撫でるドレーク屋に二人してむっとすると、彼は可笑しそうに笑った。
「ややこしくなるから年齢順にしよう」
「えー」
「ふん」
「ベビー5。これは個人的な意見だが、お兄ちゃんに甘えられるのも妹の特権だと思うぞ?存分に甘え倒せ」
「!そうね!」
「ぜってーやだ」
「もう!」
なんともくだらないやり取りに、自然と笑顔が溢れる。とっくにきょうだいみたいな関係になっているんだ。もう少しすれば、自然と兄と呼べるのかもしれない。
歪な形の家族だ。でも、ドフラミンゴの口にしていたものとは全く異なる、やさしさを感じるこの形は悪くない。
「さ、もうそろそろ行こう。センゴクさんの息がかかっていない海兵がやってきてもおかしくはない」
「そうね。あれだけの騒ぎを起こしたんだもの。長いは出来ないわね」
「あぁ」
ほのかな幸せと共に立ち上がる。名前も知らない花々が手を振るように潮風に吹かれて揺れていた。
「俺も、生きてて良かったって思える俺になるよ」
誰に聞かせるでもない言葉を空に向けて呟く。
大切なもののいない世界は、薄暗くていきぐるしい。それでも、いつか来るあたたかな日に向かって歩み続けていきたい。
「死んだ時、お前達が羨むくらい幸せに」
あの願いへの答えは、きっとそういうものの筈だから。
先を歩く二人が振り向いて俺を待っていた。駆け寄って、肩を寄せる。
ベビー5が風に揺れる右袖を握る。それに倣って、俺もそっとドレークの手を握った。
「幸せになろう」
「うん。三人でなろうね」
「……おう」
この先、どんな地獄が待っていようともう大丈夫。
隣にいるひとのあたたかさと、遠くにいる大切な者達のやさしさを握りしめている限り、俺はどこまでも歩いて行ける。
そして、いつか。
その旅が終わる時に声を張り上げて言うのだ。
俺はしあわせだった。
夢のような日々をありがとう、と。
〆