春の分かれ道

春の分かれ道



 拓海が卒業しちゃった。

 んで春から高校生。あたしは中学三年生。

 でも家は変わらずお隣さん。

 だったら今までとなーんにも変わらない。拓海が先に中学生になった時だって特に変わらなかったし。

 あー、でも拓海が先に小学生になった時は、なんかあたし泣いたらしいね。

 いっつも二人で一緒に登園してたのに、その春だけは拓海が居なかったから寂しくて泣いてたみたい。

 毎朝泣きながらおむすび食べてたってさ。

 でも桜が散って葉桜になる頃にはすっかりケロッとして、毎日笑顔でおむすび食べてた、ってお母さんから聞いた。

 んで、中学三年生になった今、あたしはなーんかもやもやしながら四つめのおむすびを食べ終えて五つめに手を伸ばしていた。

 拓海が高校生になってそろそろ一週間。あまねちゃんと同じ高校で、同じクラスで、二人揃って委員長と副委員長やってるんだって。

 拓海は相変わらずぶっきらぼうで高校でのことあんまり話してくれない。だからこれを話してくれたのは、あまねちゃん。

 あまねちゃん、なんだか最近とっても楽しそう。なんでだろうね、もぐもぐ、ごっくん。六個目を手に取る。

 そういえば昨日、拓海の部屋でエッチな本見つけちゃったな。

 薄い本がベットの下に転がってた。

 拓海らしくない。

 いつもはあたしにバレないようパソコンでエロ動画みてるのに、なんで急に生徒会長オンリーの同人本なんか手を出したんだろう?

 それにベッドの下なんてコテコテなところに隠すなんてのも拓海らしくないよ。

 だってたまに買ってくるコンビニのエロ雑誌とかはちゃんとカバーをグッズプレスに偽装して本棚の一番上の右から三番目に置いて三日後にはすぐ捨ててるのに。

 そういえば一昨日はあまねちゃんが拓海ん家に来てたっけ。

 ゲストハウスの一室を借りて勉強するって。その時は真面目だな〜って思ったけど、でもあまねちゃん、なんだかワクワクしてたし、それ見てたらあたし、なんだかモヤモヤしたんだ。

 おむすび七個目。あたしの大好きなシャケのおむすびなのに、どうしてだろう、全然デリシャスマイルになれないや。

 もう学校へ行く時間。

 いつもの道を歩く途中、通りの角で拓海の姿を見つけた。

 声をかけようと思ったけど、そうするより先に、その隣で笑うあまねちゃんの姿を見つけちゃって……



 ……あたし、声をかけられなかった。



 なんでだろうね、拓海も、あまねちゃんも、どっちもあたしの大好きな人なのに……



「大好き」には、分け合える「好き」と、分け合えない「好き」の、二重類あるんだね。



 あたしはそんなことを思いながら、遠ざかっていく二人の背中を見送っていた。


 春休みの間、通学路を彩っていた桜はもうほとんど散って、緑の葉が多く茂っている。

 あたしの頭上で、微かに残った花びらが風に吹かれて散り落ちた──


〜〜〜


「ところで品田、私のオススメは気に入ったかな?」

「やっぱりテメーの仕業か!? これ見よがしにベッドの下に仕込みやがって、ゆいに見つかったらどうすんだよ!」

「ゆいが生徒会長シチュでプレイしてくれる」

「どういうシチュだよそれ………んむ?」

「想像したな! 今ゆいがインテリなメガネかけてちょっと厳し目な口調で迫るところを想像したな!」

「し、してねぇよ、してねぇからな!?」

「くくっ、品田、顔が赤いぞ❤️」

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