星を目指した間柄

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ワンクッション


23の凱旋門賞馬と七海ちゃん


凱旋門終わりに興奮気味のエースインパクトから「結婚してくれ!(フランス語)」って言われてよく分からないままとりあえずYesを返した七海ちゃんいねえかな(大の字)


なんかちょっとエースインパクトさんが変態っぽくなってしまった。反省





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「あ……えと……休憩四時間で……」


帽子を目深に被った女の小さな声。ぎゅうとコートの前を押さえている。紙袋には何か今日使う物でも入っているのだろう。つとめて視線を外す。

相手はそれなりに体格がよく、明るい髪にやけに似合うサングラス。ははあこりゃお忍びデートだな……と思いながら、かなり聞き覚えがある声と見覚えのある髪型に​─────前者はまあ身内(間違っていなければ)だからなのだが​─────忍べてなくないか、とも思わないこともない。


「Cet homme est-il votre père?」


おそらくは気遣いだろう、聞き取りやすく区切られた英語とも違うその言語。もしや隠す気が無いのか?なんて思ってしまう。


「えっ、あっ、えーと」


スマホを取り出した彼女がタタッとフリックで何かを入力しているのが見える。聞き取れはするが喋るのは難しいらしい。


「Oh, grand-père.」

「うん……」


彼女はぎゅっと帽子を被り直し、またコートを握った後、部屋の選択に移る。彼女の目がラインナップに向いている隙に後ろの彼はサングラスを外し、ステイゴールドと目を合わせ微笑む。

やはりあの時期テレビで大量に見た、無敗の凱旋門賞馬、エースインパクトである。

頬をひくつかせながらこれあのバカ息子は知っているのか、なんてステイゴールドが思っていたその時。エースインパクトは彼女が被った帽子のつばを掴むとふわりと引き上げた。


「ちょっと……!?」

「なんだ、娘さんをくださいってやつ、やろうかと思ってたのに」

「…………日本語喋れたの!?」

「頑張って勉強するアンタが可愛かったんだ、許して?」

「ゆ、許すとかじゃなくて……えっと……おじいちゃん……」

「ああ、まあ……ジャーニーには内密にしとく、ってか守秘義務だしな」


赤い顔と助けを求める目で見てきた孫、スルーセブンシーズにそう返し、あコレにしようと彼が指定した部屋の鍵を渡す。


「えっちょっとこの部屋は」

「…………、………。いいよね?」


こちらにも聞こえないほど小さな声で何かを呟いた後、そう念押しした。途端ボンっと効果音がつきそうなほど(元から赤かったが)真っ赤になった後、静かに頷いたスルーセブンシーズを見て、ウワ〜凱旋門賞馬って怖……となったステイゴールドだった。





お姫様らしいと言えばいいのか、ふんわりとした甘い雰囲気の部屋。普段でもちょっと可愛すぎると恐縮してしまいそうなのに、場所が場所だけに変な気分になってきてしまう。場違いさを感じるというか。

内装を見回しつつ、スルーセブンシーズは横目でエースインパクトを見る。

サングラスを外し、流れるように後ろから彼女のコートの襟をちょいちょいと指で引っ掛ける。躊躇いつつも、スルーセブンシーズが力を抜いたのを見届けると流れるようにそれを取り去った。


「うん、やっぱりよく似合ってる」

「君ってば、本当に……」


ずっとそのコートの下に隠されていたショート丈のネグリジェ。彼女の声が妙に上擦っていたのもずっとコートを握っていたのもそのため。

あの時、〝アンタのそれによく合うよ〟と囁かれて顔を真っ赤にしたのもそのため。


「カルティエ賞の年度代表馬がこんなことしていいの」

「ウーン、耳が痛いってやつかな?」

「そうだね」


エースインパクトもジャケットを脱ぎ、それらをまとめて置いておく。スルーセブンシーズも帰りに着る服が入った紙袋をそばに置いた。

全く時間に余裕が無いわけでは無いが、それなりに弾丸旅行のようなスケジュールだ。こうやって話す時間ももちろん大事だけれども、繋がる時間が少なくなるのも口惜しい。


「望みはある?お姫様」

「……向こう一年寂しくならないくらいのを」

「……それは四時間じゃ足りないな」


せめて三日三晩いるよ。

その声をうっとりと聞いて、押し倒される感覚を享受した。

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