星の兎

星の兎


「ハァ~。…人材が足りないねぇ~」

現在、アビドスは薬の影響により所謂バブルの状態であった。

その一方で、人材不足も問題となっていた。

正確に言うと、人数自体は多数の生徒が薬を求めて転入しているが、

所詮、薬を求めて入っただけの烏合の衆。

治安維持など夢のまた夢だった。

幸か不幸かアビドス区域内は平和そのものだ。

多少のいざこざは有れど、それ以外にさしたる問題はない。

何しろ、その辺の砂を焼けば、上質な『砂糖』が生成される。

砂糖をめぐって争いをするぐらいなら、適当な砂山を焼いた方がはるかに楽だ。

最近はゲヘナから温泉を求めて穴を掘ってるっていう生徒もいるらしい。

しかし、それも内部の話だ。外部では今、違法な売買が問題になっていた。

合法(売ってるものは違法)なものは売り上げの何割かはアビドスが回収し、

そのお金は、整備や借金の返済等様々なものに充てられている。

一方で非合法な売買はその売り上げをすべて自分たちのものにしているのだ。

困ったことに合法だったところが、欲に目が眩んで非合法になることも多い。

アビドスでトップである私、小鳥遊ホシノは現在、そういった非合法落ちした店へ向かっていた。

「トップの私が出向くなんてさ~…アビドスはいくつになっても人材不足で苦しむんだね~。よよよ…」

トップ自らが雑用なんて面白くない。そう思いつつ、真夜中にD.Uのスイーツショップに着いた。

このスイーツショップ、他の支店や本店では売り上げをちゃんと払っていたが、

なんと大胆にもD.U支店を子ウサギタウンにひっそりと開店し、そこの売り上げを全て着服していたのだ。

まぁ、あまりにも人気店だったので普通にバレてしまうというその顛末は少し面白かったが。

「仕方ない。ちょっとお仕置きして早く帰ろっ」

とりあえず鍵がかかっている正面入口を壊して店内に入ろうとした直前、

ドガーン!パリーン!

店の中から爆発音が聞こえ、店頭のガラスの一部が割れた。

「ん?『砂糖』欲しさに泥棒でも入った?」

実際、薬を求めて売ってる店を襲撃するという事例は多かった。

その場合、合法だったら泥棒を襲撃し、非合法だったらそのまま放置した。

しかし、それに関しても態々私たちが出張る必要はなく、そちらに関しても人材が不足していた。

放置するかどうか悩んだが、ひとまず、一部が割れた店頭のガラスを完全に破壊して、中へと入った。

「…へぇ~」

店の中は騒然としており、そこら中に壊れた警備用の機械が溢れていた。

入口の鍵が閉まっていたことから、泥棒は裏口から侵入したらしい。

どうやら、先ほど爆発した物は遅れて爆発した警備ロボのようだ。

「モエ!いい加減に冷蔵庫を独占するのは止めろ!」

「モグモグゴクン…はぁ!?サキだって泡立て器を独占しておいて何言ってるわけ!?」

「もう甘い部分が無いから言ってるんだ!ミユ、何勝手に私の生クリーム飲んでるんだ!?」

「……」ゴクッゴクッ

「よこせ、ミユ!」

ブチッ、ポタポタ

「チッ!ほとんど床に落ちたじゃないか!」

「あう……床にクリームが……もったいない」ペロペロ

「おい!床のクリームも私のだ!勝手に舐めるな!」ペロペロ

「くひひ、ケーキ生地美味しい♡」ゴクゴク

案の定、『砂糖』が保管されていたと思われるキッチンはかなりの惨状で泥棒達がパーティしていた。

しかし、あんな獣みたいな彼女達がわざわざ裏口から侵入するだろうか?

『砂糖』の甘美な香りに酔いつつ私は盗み聞いていた。

「でもミヤコさぁ、久しぶりにいい考えを思いついたよねぇ。この店を襲撃しようなんて」

「やっぱり銃の的をミヤコ本人からあのウサギに変えたのは正解だったな!やるなモエ!」

「くひひ……ミヤコを撃っても最近反応なかったし、ミヤコが可愛がってたあの白い奴を撃ったらきっと反応が変わるって思ったんだぁ」

「あ……あの……アレを撃ったの私だから……私を褒めてくれないんですか……」

「黙れノーコン。ウサギを仕留められなかった癖に」

「くひひ、一撃でターゲットを無力化できない狙撃手って意味あるのかなぁ」

「あう……」

どうやらもう一人『ミヤコ』という立案者がいるらしい。だが、どうしてここにはいないのだろうか?

『砂糖』の虜ならここで彼女達と一緒にいるはずだが…

ドーン!

上の階で爆発音が聞こえた。どうやらそちらにいるらしい。

私は、スイーツに夢中な彼女達にバレないように上へと向かった。

2階はどうやら店員の居住フロアだったようだ。下と同じように警備ロボットの残骸が転がっている。

また、床には血の跡と何かが引きずられたような跡が複数あった。

それをたどると、一番奥の部屋の前についた。

「うぅ…」

「ゆるして…ゆるして…」

ドドドドドドドドド

「ぐぁ…」

「…」

中からは呻き声が聞こえており、少しだけドアを開けて中の様子を見た。

ボロボロの状態で縛り上げられた複数人の店員と唯一立っている武装した少女がいた。

先ほどの生徒のみんなと同じ制服を着ていたし、おそらく彼女が『ミヤコ』だろう。

『ミヤコ』は、他の店員と同じく、縛り上げた店長と思しき生徒に尋問、もとい拷問をしていた。

「…聞きたいことがあります」

「な、なんで」

ドドドドドドドドド

「いだぁ!?」

「…勝手に喋らないでください」

「ははは、はい!はい!」

ドドドドドドドドド

「ぐぎゃあ!?」

「…喋るなって言いませんでしたか?下のみんなのように言葉が理解できませんか?」

「…」コクッ!コクッ!

「…質問に答えてください」

「…」コクッ!コクッ!

「…何を売ったんですか?」

「そ、そそ、それは…」

ドドドドドドドドド

「ぎぃやあああ!?」

「…喋るなって言ったはずです。やはり言葉の意味を理解していませんね」

「し、質問に答えようと」

ドドドドドドドドド

「あぎゃあ!?」

「喋るな」

ドドドドドドドドド

「ぐひゃあ!?」

「喋るな、喋るな喋るな喋るな喋るな!」

前言撤回、あれは拷問ですらない。相手を痛めつけることしか考えてない。…面白い

「い、イカれてる…『砂糖』を摂り過ぎて頭トんじまったか!?」

少し離れた場所にいた店員が声を発した。

ドドドドドドドドド

「ぎひゃあ!?」

「喋るなと言いましたよね。他の人みたいに歯でも抜いて物理的に喋れなくしましょうか?」

『ミヤコ』に撃たれた店員が気絶した。

あの店員は勘違いしたが、先ほど彼女は、『下のみんな』といった。

『下のみんな』と自分を区別している。『砂糖』に群がらない様子を見ても間違いない。

つまり彼女は『下のみんな』と違い『砂糖』と『塩』を摂取してないのだ。しかしこの怒り様…

シラフでスイーツショップの襲撃を提案したことと言い興味がわいた。

「」ガクッ

しかし、他の店員に気を取られた結果、店長が意識を失ってしまった。

面白くなりそうだったのにもったいない…

「て、店長…」

そう思っていた瞬間、ドア近くに倒れていた店員の一人が喋り、

「チッ…」ヒョイ

ヒュー

『ミヤコ』は店員に向けて、手榴弾を投げてきた。

ドガーン!

驚いた。無抵抗な相手に手榴弾を投げるなんて余程ご立腹らしい。

面白い…面白い面白い面白い!

『砂糖』と『塩』を摂取するようになって私は面白いものは手元に置くようにしているのだ!

『善意で悪意に染まった少女』や『壊すために自分を壊していく少女』は最近のお気に入りだ!

その中に『正気ながら狂気を為す少女』を加えるのも悪くない!

…おっといけない、おじさんらしくもない。最近作られたタブレットを食べて落ち着こう。

爆弾でドアも壊れたし、煙たい中そのまま部屋に入った。

「ゲホッゲホッ、うへぇ~。その辺にしておきなよ~」

「!?」

私は『ミヤコ』ちゃんの前に姿を現した。『ミヤコ』ちゃんは煙の中から出てきた私に対して銃を向けている。

「私が言うのもなんだけどさ~。ちょーっとやりすぎじゃないかな~」

「…誰ですか?」

「う~ん、正義の使者って言ったら信じる?」

「…悪質な冗談ですね」

「だよね~。でもコイツ等を懲らしめに来たのはホント。勝手に商売してさ~。悪い奴らだよね~」

「はぁ」

「ところで君の名前って『ミヤコ』ちゃん?ごめんね~。下の子たちが話してるところが聞こえちゃってね~」

「…はい、月雪ミヤコと言います。貴女は確か」

「お?おじさんのこと知ってる?いや~有名なのも考え物だよね~」

「…」

「…落ち着いた?」

「…!?わ…私は!?」

「おや~?さては衝動的に確証もなくやっちゃった?」

「…こんなもの…正義でも何でも」

「そうだね~。正義でも何でもないね~。感情のままに行動するなんてさ~…まるで獣だね」

「…獣」

「そうだよ~、獣。下にいるミヤコちゃんの仲間と一緒。ミヤコちゃんさ~、さっき自分と下のみんなは違うように言ってたけど…」

「…」

「同じだよ、同じ獣。感情に支配されて、欲望の赴くままに行動する。それを獣と言わないでなんて言うのさ」

「…わ…私」

「…で、おじさんはそんな野生の獣を集める慈善活動もしてるんだよ~。せっかくだしミヤコちゃんも来る?」

「…」

「ここにいたところで何にもないよ~。この後ヴァルキューレが来てその時にミヤコちゃん達は捕まっておしまい。それでいいの?」

「…嫌…です」

「だよね~。じゃあおじさん達と一緒に行こうか。安心して~。向こうには友達がいっぱいいるから、下のみんなの心配はいらないよ~」

「…あの」

「あぁ。忘れ物を取りに行きたいっていうならいいよ~。時間ならたっぷりあるわけだしさ」

さて、試しに最後の一押し

「飴ちゃんあるけど食べる?」

「……いりません」

だよね~。ミヤコちゃんは断るよね~。おめでとうミヤコちゃん、これで君は獣より格下確定だ。

だって、理性を持っていながら、理性を持たない行動をとるなんて、理性を捨てたり、持っていない獣より、なお最悪だ。

だから『下のみんな』に虐げられるんだよミヤコちゃん。獣以下なんだから。

そういえば『下のみんな』はウサギって呼んでいたが、なるほど獣のヒエラルキーの中でも格下のウサギとはミヤコちゃんにピッタリだ。

「じゃあ、先に行くね。その我慢が長く続くと良いね」

心にも思ってないことを言いながら私は店を出た。はぁホント…


私って面白くない


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