星の一族
自分にしか配慮してない設定メジロもシンボリもバリバリある世界軸。ゴルシは名家のお坊ちゃんだったらいいな。テイゴル匂わせ「へぇ、君が。噂の。」
キズナは品定めするような視線に居心地の悪さを感じた。目の前にいるのは、競馬界を代表する名馬の一頭。
『帝王』トウカイテイオーだ。
「テイオーさん、あまりいじめてはいけませんよ。シップ君の彼氏さんなんですから。」
そう、機嫌の悪そうなトウカイテイオーを嗜めるのは、11番人気で皐月を制し続いてダービーを取り二冠馬となったサニーブライアン。逃げの戦法を取る馬には珍しく、穏やかな性格と評判である。逃げで穏やかならキタもそうだな、と現実逃避を始めるキズナ。気の強いキズナでも流石にこの二人には萎縮していた。
(名馬だし、先輩の身内だし。)
誰に向けるでもなく言い訳していると声がかかった。
「ごめんね、驚かせちゃって。シップ君ムーテーさんのとこ言ってるんだ。すぐか戻ってくるよ」
「そうですか。有難う御座います。」
声をかけたのはサニーブライアンの方だった。心の中で息を吐くキズナ。テイオーの方だったら噛んでいたかもしれないのが本心だ。先輩の身内の前でそんな失敗はできない、真面目なキズナらしい考えである。
キズナが接点がないであろう二人と対面しているのには理由があった。
細かいことは割愛するが最愛の恋人であるゴールドシップの実家へ来ている。当初の予定だと、ゴールドシップと一緒に『族長』であり、星友の代表を兼ねているトウカイテイオーと『族長補佐』星谷の代表サニーブライアンと面会を、のはずであったが星旗の方で少々トラブルがあったらしく、代表を務めているゴールドシップが駆り出された。
流石に、キズナは連れていけないということで応接室で待つことに。そこに現れたのがこの二頭だった。
(やはり、あまり歓迎はされていないか...?)
ゴールドシップは星旗からは40年ぶりのG1馬であり、星の一族初の六勝達成。そんな一族の星である彼の恋人がノースヒルズに連なる家系であることはあまり気持ちのいいものでもないだろう。そう、考えるキズナ。一族間の溝は深いのだ。どう会話をしようかキズナが思案していると、
「別に、君を認めてないわけじゃない。」
トウカイテイオーが溢した。キズナは背筋を伸ばす。
「あの子は、エメラルドの瞳を持って生まれた。あのクレオパトラトマスと同じ色だ。期待が掛かっていたんだよ。才覚も持ち合わせていたから、潰れることは無かった。...ぎりぎり、ね。」
「彼は愛されていたよ、母親にも僕たちにも使用人にも。でも、君に見せる笑顔は誰にも、見せたことないものだよ。悔しいね、彼の理解者は立場が似ていた僕の特権だったのに。君が現れちゃうんだもん。」
「えぇ僕テイオーさんのこと羨ましいんですよ、シップ君一番テイオーさんに懐くから。」
寂しそうに笑い合うテイオーとサニーブライアン。三頭にしか分からない感情があったのだろうか。
(こっちだって焼けてしまいます。)
きっと、この馬たちは先輩に頼られてきたのだろう。羨ましい。この状況で嫉妬をしてる自分に苦笑する。
あのね、とテイオーは続けた。
「...執念は祝福であり呪いなんだよ。どうか、彼を否定しないで。...僕達は星が見えたから、それを伝え続けたい。ただそれだけだよ。」
テイオーが言った「星」キズナには覚えがあった。15年天皇賞・春。ゴールドシップはゴールではない何かを見ていた。そう考えていたキズナは合点が言った。
(先輩は星を見ていたのか。)
関係のない自分は見ることができないのだろう、また知らない先輩がいる。落ち込みそうになるが気を持ち直し、愛する恋人の大事な人たちに告げる。
「俺は二度と先輩を追うのをやめません、置いていきません。同じ道を歩むことは難しいのは承知しています。」
「だからこそ、一番近くで先輩の夢を見たいんです。」
柄じゃない言葉だって、先輩のためなら言える。気恥ずかしさを抑え前を見る。
トウカイテイオーは安心したように、悔しそうに微笑んだ。