星と迷い人

星と迷い人


ポラリス。北極星とも呼ばれるその星は広い空の中で最も北に位置する星であり、その存在は不動である。それゆえに船乗り達は古くからその存在を頼りに航海をしてきた。

星は常に夜空に光り輝き、この海洋の星においてそこに住まう人々の導き手となってきた。

それは古い記憶だ。時間にして僅か数年、しかし今となっては遠い過去となった記憶がウタの脳内を駆け巡る。

神への叛逆から始まったこの旅はウタとその同行者にとって苦難の道出会った。今まで味方であった人々は敵となり、彼女達を支えて来た人々は揃って目を逸らし、気分屋な海は気紛れに最悪を振り撒いた。時に裏切られ、時に助けられた彼女達はいつしか道に迷っていた。

ウタは海兵時代の座学で習った事を思い出し空を仰ぐ。清々しい程に晴れ渡った夜空は星々の輝きに照らされ幻想的な光景を映し出す。もし、その星々が導き手であったのならば彼女達の行く道も照らされるのだろう。

「何もわからないや。」

思考の渦の中、ふと言葉が溢れる。その事にウタが気付いたのは同行者の不思議そうに覗き込む顔を見た時だった。

「わかんなくなっちゃったなって。私の歌声でみんなを幸せにする夢も。強くなってシャンクス達を捕まえる目標も。」

自嘲気味に出た言葉は、彼女の本音であった。誰も信じられなくなった世界の中で、その同行者だけが彼女が縋れる唯一の相手だった。

神は彼女から夢を奪った。目標を奪った。それでも彼女が壊れなかったのは同行者が彼女を支え続けていたからだ。

けれども、彼女は道に迷っていた。

夢を失い、目標を失い、同行者を巻き込みその未来まで奪った。彼女の中で燃えていた火は沈黙し道導は消失した。全てを無くした彼女を生かすのは、同行者の熱だけであった。

「海兵の時に習ったでしょ?空の星は行くべき道を教えてくれるって。でも、いくら空を眺めても何処に行けば良いのかわからないなって。」

ウタの独白に、同行者は心底不思議そうな顔をしていた。同行者は行く道を自分で決める人間だからこそ、星の導きという言葉に何も思わないのかも知らない。もっとも、星が喋ると思ってるのかもしれないが。

同行者は口を開きウタの手を引き道を行く。道を見失い足を止めたウタの引き連れ、道なき道を切り開いていく。

同行者は言った。ウタは月のようだと。いつ見ても綺麗で色んな星の中で1番大きく光り輝いていると。だから他の星はウタに目が眩んで話しかけれないのだと。

とてもメルヘンチックであり、今までの同行者からはとても想像出来ないような言葉だった。

同行者は続けるように色んな星を指差して知り合いの名前を呼んでいく。あの星はあいつのようだと。あの星はあの人みたいだと。夜空に浮かぶ星の世界を、同行者は人の世界と重ねていく。それは同行者の価値観が大いに含まれた見方ではあるが、故にその本質を大きくついてるような気がした。

「ならルフィは太陽だね。いつもみんなを照らして、ポカポカ暖かい。簡単に曇りなんて晴らしちゃう太陽。月が太陽の光を反射して輝くみたいに、私もルフィが居なきゃ輝けない。」

ウタがそういうと同行者は不服そうな顔をして文句を言った。おれが太陽だとウタと一緒に居られないじゃないかと。太陽と月なんてロマンティックな関係じゃないかとウタは思ったが、同行者としては常に一緒という部分の方が大事らしい。

その後、同行者は何度目かもわからない愛の言葉をウタに投げかける。一緒に居たいのだと。側に居てほしいのだと。強くウタを抱きしめながら主張する。

光り輝く星々と月の下紡がれる愛の告白。女の子なら一度は考えたであろう状況にウタの顔は熱を帯びる。

だから離れないでくれと縋るように言う同行者に、ウタは同じ言葉で返す。

世界でたった2人だけの関係。仲間はおらず世界は敵であり時に環境さえも牙を剥く。ゆえに2人きり。唯一信じられるパートナー。

道に迷った2人はその在り方さえも歪ませ、先の見えない闇の中を進む。夜空に浮かぶポラリスは彼女達を照らし星々は彼女達に道を示す。だが、歪み迷った彼女達はその光に気付けない。

歪み迷った彼女達は、それでも道なき道を行く。その先に何が待つのかもわからずに。

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