星と月

星と月


とある夜のお話…

ホシノ「ほい、今日の訓練おーしまいっ」

ミヤコ「…」

ホシノ「どしたのさミヤコちゃん?割と今日はいい線いってたよ。ビルをおじさんに向けて倒してくるなんてびっくりしちゃったな~」

ミヤコ「…その倒したビルを片手で掴んで武器として使用した人に言われても嬉しくありません」

ホシノ「いや~、おじさんもね。土壇場だったんだけどうまくいったよ~。これも『砂糖』のおかげかね~。ミヤコちゃんも『砂糖』どう?」

ミヤコ「…摂取するとお思いでしたら、『砂糖』で考えまで甘くなったんじゃありませんか?」

ホシノ「おぉ、言うようになったじゃん。おじさんブートキャンプに慣れてきたかな~」

ミヤコ「…」

ホシノ「…正直に聞くけどさ」

ミヤコ「…なんでしょう?」

ホシノ「今のRABBITの皆と任務に行くのと、おじさんとの訓練、どっちが気が休まる?」

ミヤコ「…それは」

ホシノ「まぁぶっちゃけ一番休まるのは料理中だとは思うよ~。けど今のミヤコちゃんのルーティーンだと、絶対選ぶのはそれになるから、今回の選択肢からは外すね」

ミヤコ「…」

ホシノ「話を戻すね~。正気じゃないRABBITの皆と任務に行ってRABBITの皆も含めて薬で狂った人たちの様子を見るのと、自分で言うのもなんだけど狂ったように強い相手からしごきを受ける…どっちもつらいよね~」

ミヤコ「……」

ホシノ「でも得るものは違うよ。強い相手との戦闘は大なり小なり得るものがある。少なくとも砂漠で速く動けるようになるのは特殊部隊からみても嬉しいことじゃないの?」

ミヤコ「…はい」

ホシノ「でも、正気じゃない人たちとの任務は何も得るものが無い。言うこと聞かない動物の世話を任されて、たまに動物に怪我をさせられて、その動物に対する苦手意識を積み重ねるようなものだよ」

ミヤコ「………」

ホシノ「今でも任務のどさくさに紛れて撃たれたり、爆発の巻き添えになったりするんでしょ~。おじさんだったらそんな動物捨てちゃうな~」

ミヤコ「…!」

ホシノ「だからさミヤコちゃん。小隊の皆捨ててさ…」

ミヤコ「…本当ですか?」

ホシノ「ん?」

ミヤコ「……なんとなくですけど、今のはウソだと私は思いました」

ホシノ「…どれの事?」

ミヤコ「…言うことを聞かない動物は捨てると言ったところです」

ホシノ「…本当だよ~。言うこと聞かない動物は捨てるよ~。餌代だってタダじゃないしさ~」

ミヤコ「じゃあなんで対策委員会の皆さんは捨てないんですか」

ホシノ「!?…対策委員会のみんなを動物扱いなんてひどいね~」

ミヤコ「対策委員会の皆さんは、今のホシノさんの言うことは聞きません。だからホシノさんの料理は食べず餓死寸前となり、私に料理の任務が与えられました。そして、シロコさんには逃げられてしまい、今は協力して逃げるのを防ぐために別の場所に監禁しています」

ホシノ「…脅威になるからに決まってるじゃん」

ミヤコ「違います」

ホシノ「…」

ミヤコ「忘れられないからです。こんな関係になる前の楽しかった思い出が…その思い出があるから、みんなを捨てられないんです」

ホシノ「……」

ミヤコ「私も同じです。こうなる前の楽しかった思い出が、辛くてもみんなで分け合って慰め合った思い出が、私を縛り付けて繋ぎとめてるんです。だから、どれだけ辛くてもRABBIT小隊の皆といます。いつの日かまた、楽しい思い出を積み上げられるように…」

ホシノ「……お人好しだね」

ミヤコ「私がお人好しなら、ホシノさんも意外とお人好しだと思います。思い出の人たちには薬を盛りませんからね」

ホシノ「……うへぇ~。買い被りすぎだよぉ。うーん、やっぱビルを武器にするなんて無茶をするもんじゃないね。らしくない話をしちゃった」

ミヤコ「…そうでしょうか。そちらの方が素のような気がします」

ホシノ「…うん、ミヤコちゃんに言い負かされるなんて、今日は本当に疲れてるんだね。戻って『甘いもの』食ーべよっ」タッタッタッ

ミヤコ「…普段なら、『いつの日かが来るといいね~』ぐらいは言うと思いますから、よっぽどなんでしょうね」


…これは、他愛もない会話の一つ。

闇も砂もなくなった今、覚えているものは星と月しかいない、夜(狂気)の中の、小さな思い出(正気)。


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