昔書いた200字以内SS
古いものですが※ロシナンテとセンゴクさんへお題は『これで全て終わり/抱きしめたら全て終わる/ぜんぶ、ぜんぶあげる』です。
【これで全て終わり】
「全て終わったぞ。ロシナンテ。これでもう、ドレスローザもなんとか元の国王に戻り、再び平和を取り戻すだろう。七武海の中でも若いオペオペの実の能力者――なぁ、お前はドレスローザの件を知っていたのか?お前は案外策士な奴だからなあ……」センゴクの呟きは、墓の前で風に溶けて吹かれていった。
【抱きしめたらすべて終わる】
「センゴク……」「すまん、おつるさん。暫く、二人きりにさせてくれんか」「人払いはしておくよ」「嗚呼ありがとう」奇抜なメイクも落とされ、見慣れた顔は微笑んでいる。これほど穏やかな死に顔はそうそう見れたものではない。「お前の正義は見つかったのか」14年育てた養い子は驚くほど軽かった。
【ぜんぶぜんぶあげる】
「センゴクさん、ありがとう――おれに正義を教えてくれて。センゴクさん、ごめんなさい。あなたの期待を裏切ってしまって。海兵としての、ドンキホーテ・ロシナンテはあなたのもんです……今から俺は、ただの『コラさん』になって、どんなになってでも、あの子を救ってみせます」
※海軍へお題は『満たされないことを覚悟していたのに/君がそれでいいなら、良いよ/幸せだよって言わせてあげたかった』です。
【満たされないことを覚悟していたのに】
「……泣きたいなら声を上げて泣けばいいだろう。らしくない」「わはは、阿呆、海賊が死んで泣く海兵があるか」「そんな面で言われても何の説得力もないぞガープ」「わしは海兵じゃ誇りがある。彼奴らが道を選んで――わしも覚悟をした。それだけじゃ」「それでもお前は、人の親だっただろうに」
【君がそれでいいなら、良いよ】
『センゴクさん、ごめんなさい。海軍を、貴方を裏切る形になっちまって。でもおれの正義の在り処を、漸く見つけられたんです。ドレスローザの件は必ず伝えます。ごめんなさい、帰ることができなくて……』「――お前がそう決めたならそれで良いさ。静かに眠れ、ロシナンテ」音貝に、元帥は一人呟いた。
【幸せだよって言わせてあげたかった】
「まさか私ら三人でこいつの墓参りに来る日がくるとはね……」「真っ先に死ぬのはセンゴクじゃと思うとったんじゃがな」「殺しても死なんような奴に言われると腹が立つな」「ゼファーの奴、幸せだったのかねえ」「それでもコイツはコイツの正義を貫いたのさ」「相変わらず、かっこ良えのうゼファーよ」
※コビメッポへお題は『「愛してる」だなんて、二度と言わない/ごめんね、唄うような幕切れ/誰の声も届かない』です。
【「愛してる」だなんて、二度と言わない】
「いやそのですねガープ中将。おれとしてはただ単に親友というか相棒というか、今まで一緒にやってきた上官に酒の勢いを借りて年忘れに礼を言ってやろうとしただけでして。驚いてすっ転んで海に落ちて海王類とドンパチするような照れ隠しとかほんっきで予想外でして、はい、もう二度と言いません」
【ごめんね、唄うような幕切れ】
「ごめんね」唄うように囁き、目を細めてにこりと笑い、そのまま瞳を閉じた。なんてあっけない幕切れだろう。この瞳は二度と開くことなく朝を迎えるのだ。そんなこと、許せない。ヘルメッポ少佐は腰の愛刀をスラリと抜いて大佐の鼻先に突き立てた。「コビー!始末書の山放って寝れると思うなよォー!」
――――――――
【看板①】
「ロシナンテ中佐!」「はっ!」上官に呼ばれて慌てて駆け寄る。途中で焼け落ちた何かに足を取られてすっ転んだ。「……看板……」足元を見れば、爆撃で焼け焦げた看板。それに足を取られたらしい。ブティックの文字がひん曲がって炭になっていた。この看板一つに店の夢が詰まっていたのだろうに。
【看板②】
「ロシナンテ准将!」
「頭ァ!」
今回の作戦で指揮下に入った新進気鋭の若手二人の悲鳴に慌てて立ち止まった。目の前には看板。間一髪だ。しかし今度は急ブレーキに足を滑らせて後ろからすっ転ぶ。
「だ、大丈夫ですか?」
頷く。慣れっこだ。
『急ごう』
メモを見せれば二人は頷いた。此れさえ終われば、あの子に逢える。
【看板③】
「ロシナンテ、頭を下げろ」
「はいっ」
唐突に告げられて海兵としての本能で命令に従う。頭上を看板が通り過ぎた。
「随分背が伸びたな、ロシナンテ」
「あれ?センゴクさんが縮んだんじゃ?」
「言いおるわ」
センゴクさんが苦笑する。
「能力を使えばまだわしの方が高いぞ」
変なところで負けず嫌いだ。
【看板④】
訪れた島は酷く荒廃していた。
「海賊だろう。海からの砲撃痕がある」
上官が痛ましげに村を見遣って呟いた。確かに砲撃が村を襲い、放火の痕がある。
「一体どこの海賊が――」
と呟きかけて茫然とした。きっと自分でなければ分かるまい。
「まさか、ドフィ」
信じたくはないが、落ちた羽を見てそう直感した。
【看板⑤】
『喫茶店“ロシィ”』
立ち寄った島の寂れた場末の看板にローはふと立ち止まった。
「船長?」
共にいたベポが首をかしげる。きぃきぃと軋んだ音で看板が揺れる。
「ベポ、腹減ってねえか」
「ちょっと!」
「茶でも飲んで行こうぜ」
そう言えばベポは目を丸くした。らしくない事言っている自覚はあるさ。
【看板⑥】
「父上母上!あれは何だえ?」
「あれかい?あれは――」
「ロシィはそんな事も知らないのかえ?」
「兄上は知ってるの?」
「人間屋(ヒューマンショップ)の看板だえ、下々民よりも下層のドレイが売ってる所だえ。父上、僕もドレイが欲しいえ」
「あ、ああ……家に奴隷は要らないよ、ドフィ」
「何で?」
「同じ人なんだよ、彼らも」
【看板⑦】
「兄上、兄上!」
「何だえロシィ」
「見て、ごみ山に看板落ちてたえ!」
「看板?何をしてるんだえ、そんな無駄なことしてる暇があれば、飯でも探さんかえ」
「……うん、でもこれ、八百屋さんだえ、ぼく初めて見たえ」
「……野菜でも落ちてればもってくるえ、役立たず!」
「ご、ごめんなさい兄上……」
【コビー大佐とヘルメッポ少佐/『一番厄介な存在』】
「普通気づかないでしょう!」「ひゃひゃひゃ。俺に隠し事できると思うんじゃねえよ」「で、でも、この書類だけでも」「大佐殿じゃなくても出来る仕事ですねえ」「元帥への報告」「俺がやっておきますので、いい加減に寝ろバカコビー!」「……本当に、君が一番厄介だよ、少佐」「ありがとよ大佐」
【コビメッポ/『手繰り寄せた糸の先』】
「ヘルメッポさぁぁん!」
雑用だった頃の様に落ち着きのない悲鳴が上がる。
「ムリですよ絶対ムリ!ムリムリムリ!僕をなめるな!ムリと言ったらムリなんだ!」
何時しか言わなくなった口癖がコビーの口を吐いて出る。荒れ狂う嵐の音。高波に攫われた副官が糸のように細いロープに縋り付いている。離せば海の中に去りゆくのみだ。
「ヘルメッポさんっっ!!」
波間から、正義のコートと中身が引きあがられる。
「君がいなけりゃ僕は高みに行けない!」
息も絶え絶えの親友にコビーは泣きながら抱きついた。
【ヘルメッポ/『小さい子をあやすためにたどたどしく童謡を歌う』】
「ゆぅ、りかごーのうぅたをかぁなりやぁが……」
「あいつは一体何をしてるんだ?」
「しー、ボガードさん。ララバイ少将のお子さんなんです。ヘルメッポさんに懐いちゃって。子供を無下にできなくて寝かしつけてる所です、ふふっ似合わないなぁ」
「成る程。なら暫く放っておこうか」
「お願いします」
ドンキホーテ兄弟へのお題
【奇跡がおきたらいいのに】
「そしたらお前の声も戻るんじゃねえか?」『かもな』「もう十何年聞いてねえかな、ロシィよ」『16ねんくらいか?』「もうそんなになるか。ロシィ、俺の覚えてるお前の声はまだガキだぜ」けらけらと兄が笑う。奇跡が起こるなら、『俺が声を失った』あの事件を止めてくれやしねえか、兄上よ。
【(無防備すぎるよ)】
「ロシィ、暫く寝るからラオGが来たら起こせ」『解った』俺は頷いて椅子に腰掛ける。暫くすれば健やかな寝息が聞こえた。その夢は穏やかなものだろうか。そうであれば良い。そう願いつつ晒された首を見る。今殺せばドフィの野望は止まるのだろうか。(無防備すぎるよ)その引き金は引けぬまま
【バニラアイスのあまさで】
「ロシィ、ロシィ。転けたら痛いえ。兄上の手に捕まるえ」差し出された手を縋って綺麗な庭を歩んでいく。咲き乱れる花々の匂いに頬が緩んだ。先を行く兄を追い、無邪気に駆け回る。父と母が四阿で微笑んでいた――そんな夢を見て吐き気がした。バニラアイスよりも甘い甘い俺の覚悟はまだ決まらない。
【ドンキホーテ・ロシナンテ/『知らないフリをするのにもう疲れてしまった』】
「お願いです。センゴクさん」
「……だが、ロシナンテ」
「もう、知らない振りを続けるのに、疲れました。出来ないんです。どんなに厭うてもあいつは俺の血の繋がった兄だ。そのことから俺は一生逃げられない」
「ロシナンテ……」
「任務を下さい。ドンキホーテ海賊団への潜入任務を!」