昔の話②
善悪反転レインコードss※空白の一週間事件が起きる以前の雰囲気を自分なりにイメージしてみたssです。
※キャラ付けや関係性などは筆者個人の妄想に基づいています。また、独自の補完があったりします。
※まだ平和だった頃なので関係が良好です。
※特に事件とかは起こらず、オチもありません。
※反転保安部の面々が企業に所属している身の割にはフリーダムです。反転ヤコウの気苦労が絶えない感じになっています。
※公式のヤコウ編DLCや予約特典小説『超探偵のなり方 ヤコウ=フーリオの場合』などを意識した反転ヤコウの独白を含みます。
・
・
・
「あ、あぁ、通りすがりのお婆さんを、ね! よしよし、ゆっくりおいで。怪我だけはしないようにな、は、はははは……」
一人目。
「っ、どうした! そのチャンスは今追わなきゃならねぇかな? えっチャンスじゃなくてピンチ? 助けたい? 本当だよな? オレはその言葉を信じていいんだな!?」
二人目。
「そっか! 猫の保護シェルターでそんなことが! 大変だな! 本当にな!」
三人目。
「そうだよ! 今日だよ! 『幽体離脱』しないで自分の足で来なさい!!」
四人目。
斯くして、現地集合は大失敗に終わったのだった。
……なんてオチで綺麗さっぱり終わってくれるのは、映画や小説といった物語だけである。
現実は厳しい哉、エンドロール後も続くのだ。
「サプライズパーティーの計画を練ってるならオレのメンタルを守る為にもゲロってくれませんかね、ヨミー先生ぇ~…ッ」
「はァ?」
「すみません生意気言いました!!」
だが、続いた所で、絶賛大遅刻中の部下達を、現地改めヘルスマイル探偵事務所の応接室で、針の筵のような心地で待ち続ける地味な絵面が展開されるだけである。
実は部下達が各々巻き込まれた厄介事(実際には自ら進んで厄介事に突っ込んだのだが、それはさて置き)が、この後、大きな事件を解決する糸口になる——なんて劇場版のストーリーめいた壮大な展開には生憎とならない。
だから、描写が振り出しに戻って繰り返されるが、ヤコウはヘルスマイル探偵事務所の応接室で、針の筵のような心地で待ち続ける破目に陥っていた。
職場で一旦集まる方針だったら、第三者の面々に情けない姿を晒さずに済んだだろう。現地集合だと前日に言い渡していた、その結果がこの有様だった。
何らかの思惑でヤコウをハメようとしている、そんな悪意的な想像がなまじできないばかりに、じゃあ全部偶然かよ…とヤコウは非常に気が重かった。
一部署に過ぎないとは言え、世界に名だたる大企業に所属する身。世界探偵機構に登録された探偵との程々の繋がりは、今の所は妨害らしい妨害に晒されていない。
いっそ味方側にある程度取り込んでしまえという妥協的な打算が上層部にあるらしいと知った時は、一応は寛容さがあったのか…と謎の感動を覚えたものである。詐欺師の甘言に絆される被害者の心境とは斯様なのだろうか、なんて自問自答を挟みながら。
今回も、その一環……の、はずだった。
初っ端から出鼻を挫かれてしまった。
どうしてこうなった。
約束の時間から三十分を過ぎた頃、見兼ねたヨミーから「中で待ってろよ」と提案された。
同情以外にも、保安部の部長に近場をウロウロされる方が迷惑というぶっちゃけた実情もあっただろう。保安部は権威も権力もイマイチ微妙だけれど、知名度だけは妙に高いのだ。
「あいつら、マジでガチで遅刻してるんだな、ははは…」
「そうだな」
ヨミーは身も蓋も無い断言をしつつ、所長席の背凭れに体重を預けながら紅茶を啜る。香りには詳しくないので印象でしか語れないが、スーパーで購入できるティーバッグ辺りが妥当だろうに、所作のおかげで相応に値が高そうだと思わされる。
ヤコウはと言えば、肩身を狭くして身を縮めながら、保安部の部長としての体裁とか何とか色々と考えた末にソファーに腰掛けていた。曲がりなりにも部下達を抱える上司である以上、迂闊に見縊られる訳にはいかないのだ。
……既に手遅れ感があったとしても、だ。
ヤコウの為にと出された茶は飲んで良いものか、言葉の裏側を探るような魑魅魍魎の権力闘争の場でも無いのに、たったそれだけの事が悩ましい程度には、ヤコウの胃はキリキリと痛んでいた。
「……用件だけ伝えて、今日はさっさとお暇するよ。オレがここでずーっとソファーを暖めても何もなりゃしねぇ」
ハララ達にまた連絡しよう。集合場所をアマテラス本社に改める。遅刻が確定した三十分以上前の時点で、こうするべきだったかも知れない。
そう思って、ヤコウは再び携帯電話を使おうとした。
「何時に来るか、どの方角からか、5ポンド賭けたりしねぇのか?」
「5ポンド、ねぇ…」
の、だが。ヨミーから白けたように賭けの話を持ち出され、渋い顔で動きを止める。こちら側に非があっても、年下におちょくられるのは愉快とは言えない。
第一、ポンドとはこれ如何に。カナイ区で流通している通貨はシエンなのに、敢えてその通貨を口にするとは。
「雑にホームズから引用しないでくれよ。あいつらはガチョウじゃねぇんだ」
シャーロキシアンを自称する程のマニアでは無いが、有名な作品くらいなら読んだ経験のあるヤコウからすれば、賭けという共通点以外が希薄な、本当に雑な引用だと言わざるを得ない。
「元ネタが分かるのは相当だな」
「世界的に有名な探偵小説だろ? 何回か読んだことあるし、アニメ版だのドラマ版だのも放映されてるんだから、相当って程じゃないだろ」
「履修したが趣味じゃねぇ」
「……さいですか」
内容はさて置き、どうやらヨミーは興が乗っているらしい。相手をするべきだろうか。
壁に掛けられた時計を見上げて、掛かるであろう時間を推定で計算して、ちょっとぐらいなら付き合えるかな……と結論を出し、ヤコウは携帯電話を仕舞った。
「ホームズが好きなら、探偵になろうと思ったことはねぇのか?」
「急にどうした? ホームズ読んだ経験だけでなれたら、世の中の探偵はもうちょっと数が多いんじゃないかねぇ」
「動機としては成立するぞ。実際それで探偵になったヤツを何人か知ってる」
「そいつらはロマンチストだな。逆に聞くが、お前さんの探偵になった動機もそれか?」
「全然違ぇよ」
「…だろ? そういうもんだ。案外、関係ないんだよ」
仕事と趣味嗜好は全く別の話である。
少なくとも自分は、夢を叶えたがるような、ドラマティックな人生からは縁遠い。
ヤコウにも幼少期はあった。探偵団を結成するという、無邪気で腕白だった思い出もセット付きで。
けれども、それは探偵を志すきっかけと称するには弱かった。楽しく懐かしいばかりの、淡く儚い思い出でしかない。
決定打なんて、無かった。
高校生の頃のめぼしい記憶だって、バル——酒場と飲食店が雑に入り混じったような雰囲気だった——でアルバイトをして、酔っ払った客の仲裁と酒の作り方を適度に覚えたぐらいだ。
探偵の二文字なんて、更に超の一文字を足した存在の名を、たまにニュースで耳にする程度。実際の活躍を目にする機会に恵まれたならば、また違ったかも知れないが、実際にはただの平凡な学生生活を送っただけ。
事件とは程遠い平坦な日々の末、高校を卒業して、とりあえずの就職先としてアマテラス社に入社した。
ただ、それだけだ。そんなものである。
我ながら、振り返っていて、何ともまぁ、社会の歯車に組み込まれちまったものだと実感させられた。
扉が開く音がしたので、遂に誰か到着したのかと期待してバッと振り向いたら、全く知らない赤の他人。つまりは客だった。
保安部の部長の存在にギョッとする客に愛想笑いを浮かべながら、ヤコウは奥で待ってる等とそれらしい言い訳を付け、他の部屋へと逃げた。
まだハララ達は到着しない。何という事だ。遅くても昼までには終わる予定だったのに。ヤコウが居た堪れなさと戦っている間、今頃ハララ達は一体何と戦っているのか甚だ不思議だった。
始末書を書かせるのは確定として、内容も指導しなければ。悲しい程に暇な部署なので全員分付き合えるだろう。本当に悲しい気持ちになってきた。嗚呼、それに、ヨミーへのお詫びの菓子折りも用意せねば。
「な、なぁ、ヨミーって、好きな菓子のジャンルあったりする?」
「和洋中どれもイケると思いますよ。こじんまりとした高級品を時間かけて味わうのが好きな人ですね」
その際、部下の一人がヤコウを案内するという体で一緒について来たのだが、この隙にとヨミーの好みを簡易的にリサーチした。
「お気に入りのハイブランドの菓子は?」
「ゴジ・ラ・メゾン・ショコラの四粒入り税込み五千シエンです」
「ごっ……よ、四粒で……」
その結果、参考にできるわけねぇだろと質問した側なのに内心で悪態を零した。
値段自体には問題は無い。問題なのは量だ。たった四粒だと。その四粒が馬鹿デカい、なんて事はあるまい。
「……ヘ、ヘルスマイル探偵事務所の皆様方の胃にも届けたいし、お財布と要相談しつつ、それなりに物を贈っとくわ…」
内心での悪態はさて置き、何となく強そうな印象を受けるチョコレートメーカーだ。チョコレート好きのフブキなら知っていそうだ。彼女にも相談してみよう。
「そう気に病み過ぎることもありませんよ。所長の機嫌、凄く良かったですし」
「仲良く雑談してるように見えたかも知れないがね、こっちとしちゃ若者に上から目線で弄ばれてる心地だったよ…ッ」
「うちの所長はビジネスライクだと割り切ると本来は怖いですよ。警察に同じ対応をされたら今頃神経が百本ぐらいブチギレしてますし、それを思えば優しいですって」
「他人事だから諦めて済ませちゃってるだけだってー…社会人になってそんな扱い受けるとね、心が寒くなっちゃうのよ…」
上司が不在の場だからか、部下の口は軽かった。ヤコウの口もそれなりに軽いが、ヨミー相手よりも肩の力が抜けた雑談ができた。
ヨミーが本来仕事に厳しそうなのは理解できる。字が綺麗で当然、書類仕事ができて当たり前。漠然と思い描かれる、実際にはハードルの高い『普通』を本人は実行できるし、周囲にも求めたがるタイプだ。
そのヨミーから温情的な扱いを受けると、何と言うか、世界探偵機構の本部で変人に慣れたからと理由付けがあっても、悟りめいた諦念がありそうだな……と、それはそれでプライドが傷つくものだ。
「大丈夫ですって。面白い人達だと以前言っていましたから」
「……忌憚のない意見だねぇ」
「面白くなかったら、空気が読めない不愉快な奴らって腐してますよ」
「本当にないな! 忌憚が!」
随分とフォローしてくれる。別に邪推的に捉える必要も無いので、何だか知らんが親しまれているんだなぁ、ぐらいに思っておく事にした。
ヨミーもきっと同じ感情だろう、なんてフワフワとした想像に具体性を感じる事ができないのは、前述でも触れたが、彼が本来は仕事に厳しいタイプだと察知しているからだ。負けて閑職へ回されたとは言え、出世争いに身を投じていた時期もあったのだ。一応嗅覚はあるつもりだ。
役に立つなら多少の個性には目を瞑るだろうが、その意味でもヤコウ達は足切りされそうだ。現に、遅刻で未だ全員揃っていません、なんて未だ論外の状況にあるし。
やっぱり、他人事というのが良くも悪くも程良い関係性の維持に貢献しているのでは? と思われるのだが……考えても気が滅入るだけだ。程々の所で思考を止めておこう。
◆
保安部の面々が直面した事件(?)は各自の手で解決された。一部、事件と呼ぶ程壮大では無かったりするが、面倒なので一纏めに括っておく。
とは言え、遅刻したのだ。始末書は提出せねばならない。
流石にそこの所は皆、了承してくれたのだが、「そこの所だけ物分かりがいいのかよ……」とヤコウはそれはそれでがっくりと肩を落としたのだった。
あの後、フブキは無事に道に迷っていた老婆を自宅まで送り届ける事ができた。
なお、自宅は自宅でも老婆の娘夫婦の自宅で、そこで更に新たな厄介事に巻き込まれて、それも解決してきたらしい。
具体的に何があったのか、また後に情報を集める必要があるだろう。
ただ、フブキの言葉から拾える情報だけでも、何となく察しが付く。
お金に困っていただの、親切な人達が勧めてくる儲け話を最後には諦める選択をしただの。そういう話は案外ギリギリ合法のラインを守っていて訴えるにも訴えられないケースが多いので、自発的に諦めてくれたというオチにホッとした。
「まぁ、部長もご存じだったんですね! 今度一緒にショッピングに行かれませんか?」
「四粒入り五千シエンがデフォルトのお店は財布の中身が軽くぶっ飛んじまうよ、光合成で生きられる能力がなきゃやってらんないって」
「キャベツ太郎も、似たような値段だったと思いますが」
「桁が違う! 違うよ! たった二つでもえげつないんだよゼロの数の違いは!」
フブキに例のハイブランドについて尋ねてみたら、思った通り彼女は目をキラキラと輝かせた。
ギンマ地区に店舗を構えていると説明され、ついでにショッピングにも誘われたが、ヤコウは引き攣った笑みと共に丁重に辞退した。
車とリンゴよりは差額が少ないとは言え、前述の比喩が極端なだけで、高級菓子と駄菓子の差だってえげつないのだ。
言い訳がナンパから始まった時は流石のヤコウも瞬間湯沸かし器の如くキレそうになったが、だからこそ抑えられた自分の凄さに自画自賛したし、後に続いた話の内容的にキレなくて良かったと思い直した。
曰く、ガラの悪そうな男に絡まれている所に助けに入ったら、実はその男は半グレで、絡まれていた女は免許証等を押さえられていて詐欺の片棒を担がされる寸前だったそうだ。
消極的な性格だった女は警察にも相談できず、また口下手だったのが災いし、紛らわしい真似をして男をストーカー化させたと周囲に誤解されていて……。
「半日で解決できたのが凄いな!」
兎にも角にも、デスヒコは困っていた女を助ける事ができた。警察にもきちんと話を通したので、今後のケアも大丈夫のはずだ。
「だが申し訳無いがお前も平等に書いてもらう! 遅刻が問題ってだけだから、そこだけ書いてくれたらいいから~ッ!」
「明日、書くわ……」
「できれば今日中がいいかなぁ!?」
それは兎も角として、ナンパ自体は失敗したので、デスヒコはそれを引きずって酷く落ち込み、文字を書く手が一向に進まなかった。四人の中で一番遅い、と言うか始まってすらいなかった。
愛護団体VS愛護団体。同じ目的を持つ組織同士で、なぜ争いが生じるのか。
その説明は、一昔前まで遡り、愛護団体に纏わる制度も関係する。
一昔前、保護する数に合わせて補助金が出ていたが、意図的に繁殖させる等の意図から外れた問題が生じて取りやめになった。
その後、補助金の制度が打ち切られたばかりに、意図的に繁殖された動物達が殆ど野に放たれて野生化したという、脱力したくなるオチもセットだ。
「その問題の保護団体が名義を変えて活動を続けてたけど、また問題を起こしてたってわけね…」
「ああ、そうだ」
「…なぁ。事前に説明してくれたら、遅刻扱いで始末書を書かせられる嫌な後味にはならなかったんだぜ? 報連相をしてくれよ」
「また今度な」
「……頼むぜ、ほんと」
連絡に不備があったから遅刻扱いで罰さざるを得ないのであって、順序を守ってくれればフォローできる。
ヤコウは上司だから、それができる。
だから、それをさせてくれない部下達に思う所が非常にあるのだと文句を付けたくなる。
社会とは、順序を守っていれば結構認めてくれるのだ。逆に言えば、幾ら正しくとも、善くとも、順序を破っていると良くて賛否両論、大抵は批判されがちになる。
周囲からの評価なんて気にしないとか涼しい顔をされても、いやそういう問題じゃなくて……とヤコウはモヤモヤさせられるのだ。
「それはそうと、ハララ。そこはオレの席なんだがなぁ」
ついでに言えば、全くの別件でもモヤモヤさせられていた。
部長の席をハララに完全に陣取られているので、ヤコウは仕方なく始末書を書く部下達を順に見回っていた。
フブキ、デスヒコ、ハララの三人が、連絡の不備にさえ目を瞑れば人助けをしていた反動だろうか。
いや、反動って何だよ。来なくていいよそんなの。
「家から出るだけの簡単なミッションだと思ってたよ。どうして知らない人の家で寝泊まりしてるって情報を今ぶち込むんだ」
「今、聞かれましたから…」
「そうだな! 今質問したな!!」
ヴィヴィアが遭遇した事件は、半分以上が身から出た錆だった。
「外出が要許可制っておかしいだろ出社できねぇよ、遠回しにお前のクビを目論んでねぇかなそのオッサン! なんでそんなオッサンとルームシェアしてんの!!」
「…家賃も、食費も、あらゆる税金も、全て面倒を見ると…土下座、されまして…」
「そ、それで情が疼いたのか!?」
「鬱陶しかったので、首を縦に振りました…」
「ピクリとも疼いてないのに頷くんじゃないよ!」
いや、これは果たして事件だろうか。これから事件が起きそうなシチュエーション、が妥当な気がする。
呑気に暖炉の中で寝そべりながら、何を器用に始末書をさらさらっと書き終えようとしているのだ。ヤコウはそう叫びそうになるのを堪え、冷静になろうと努める。
始末書を提出させた後、ヴィヴィアをそのまま帰らせるのはマズい、とヤコウの脳内で危険信号が鳴り止まなかった。
「元の住所へ戻るんだよ! 手続きが面倒ならオレも手伝うから!」
「条件の一つとして、解約済みです」
「バカヤロウ! 退路を断たれてるじゃねーか! しょうがねぇオレの住所を貸す! だから出るぞ! いいな!?」
「……部長の、住所? 部長の、部屋?」
「最悪泊まってもいいから! 期待するんじゃねーぞ男の一人暮らしだからな!」
ヴィヴィアが驚いた顔で両目を見開く。ヤコウの過保護に驚いているのだろうが、ヤコウからすればヴィヴィアの危機感の薄さが酷過ぎて、斯様な些事を気にするどろでは無かった。
恋人との食事の約束が明日で良かったとヤコウは心底思った。今日だったら、泣く泣くレストランの予約をキャンセルし、恋人に謝り倒す破目になっていただろう。
閑職へ追いやられる以前から関係が継続している、得難い人なのだ。仕事と恋人、どっちが大事なのよ、と詰め寄るような人では無いが、徒に不満を溜めたくない。比較させられるようなシチュエーションも願い下げだ。
それでも、もしも、仕事と恋人、どちらかを選べと強いられたら。
細かな条件の変化によって選択は変わる。前述の例え話で、天秤が仕事へと傾いたのは、部下達が関与しているからだ。
だから。
仮に、部下達が関与していなかったら。
……その先の具体的な想像は、責任ある立場の者としては避けたい。
遅刻してきたハララ達の事を強く責められなくなる、という表現までが限度だ。
(終)