旨く纏まらなかったけど肉付けしてみた

旨く纏まらなかったけど肉付けしてみた


おにいちゃんが居なくなってから、私は何もできなくなった。きつくても楽しかったダンスレッスンも苦手だけどやり続ける事に意味があった歌の練習も、傍にあったあの暖かな視線を感じれなくなった、それだけで意味があるはずだったものから無意味なものに思えてしまうほど変わってしまった。そして今日も始まる、聞こえる、私を苛む私たちの声が、きこえるんだ。


『休むな、動け。ああ、そうなんだ…唯一残ったアクアとの繋がりさえ捨てちゃうんだぁ』

『せんせが作ってくれた環境だったのに結局一人でやりはじめたよね、本当に勝手』


分かってる、分かってるよ。恩知らずだったことなんて分かってる、自分の目的もあったはずなのに、私の願いを叶えてくれたこと、私を優先していてくれたこと、そんなこと分かってる、分かってたつもりだった…のに。私はそれを当たり前の事だといつの間にか享受してたんだ、本当に酷い妹だと思う。


「何だか疲れちゃったな」


頭に反響する悪意しかない言葉たち、おにいちゃんが居なくなってから変わってしまった世間の視線や憐みの声、友人たちの本当に心配してくれている声も今の私には何の気休めにもならない。そばにおにいちゃんが居ない、事務所にも居ない、学校にも居ない、家にも居ない、部屋にも、居ない。だからこそ今の私には自室ですら安息の場所はない、別室から毎晩のように聞こえてくるすすり泣くミヤコさんの声も毎日のように家にまでくる先輩もメムもただ居ないだけのはずのおにいちゃんの写真を見て泣いてる。


「なんで、皆して嘘吐くんだろ…おにいちゃんが死んだなんて、そんなことあるはずないのにね。あのシスコンのおにいちゃんが私を置いて居なくなるなんて、あるはずがないんだから…そうだ!おにいちゃんなら私が飛び降りようとすれば絶対来てくれるよ!だっておにいちゃんなんだもん!」


赤の他人だったあかねちゃんを助けたんだし、妹である私だって助けてくれるよね。だっておにいちゃんは私のこと大切にしてくれてたんだからきっと来てくれるよね?歩道橋の欄干って案外上りにくいんだよね、そりゃそうか…これ、落下させないためのものだもんね…そんな馬鹿な事を考えて欄干によじ登り、案外良い景色だななんて思っちゃったけど…すぐ会えるよね。


「あかねちゃんの時と同じだもん…だから来てくれるよね、おにいちゃん…」


ほら、やっぱりみんなは噓つきだ。だっておにいちゃんは何時だって私のヒーロー…なん…だから…、なんで…あか、ねちゃんが…ここにいるの。アクアは!おにいちゃんはどこにいるの?!なんでおにいちゃんはきてくれないの…なんで…。


「ルビーちゃん、もうやめようよ」

「やめるって、なんのこと?」

「アクアくんを看取ったのは他ならないルビーちゃんなんだから」

「だったら!それが分かってるなら!!なんで私を助けたの!あかねちゃんだってわかるでしょ!私は…私はアクアに会いたいんだ!」

「そんなの私だって会いたい!ちゃんと今でも好きだって言いたかった!なのに私が駆け付けた頃にはもう全部終わってた…、アクアくんは…ルビーちゃんの腕の中で、冷たく…なってた…」

「だったら、私の気持ちだって分かるでしょ!?私だって沢山伝えたいことがあった!家族じゃないとか言ってごめんって謝りたかった!もっともっと大好きだって伝えたかった!!言い切れないぐらいのありがとうを言いたかった!…先輩を助けるための行動をお金儲けのためだなんて言ったことも謝りたかった…私は…おにいちゃんに貰ってばかりだったのに…何も返せてないのに…いなくならないでよ…」


私たちは、歩道橋の上で大喧嘩をした。ただのルビーとただのあかねで、おにいちゃんの事が好きだったただの二人の少女として喧嘩した。涙で顔をぐしゃぐしゃにしてアイドルとしても女優としても涙で台無しになってる顔で口論を続けた、変な話だよね。一時期はおねえちゃんって呼んでた人にこんなことを言うだなんて、本当に変な話、一頻り続いた口論も終わり、私たちは少し冷静になれて。


「ルビーちゃん、今日ここに来れた理由はね。アクアくんに言われてたからなの」

「おにいちゃんに…?」

「もしものことがあったらあいつを支えてやってくれって、酷いよね。それ別れた彼女に頼むこと?!ってちょっと思ったんだけど、やっぱり惚れた弱みだよね…」

「おにいちゃんは私の事もあかねちゃんのことも理解してたんだね、…あかねちゃんはこれからどうするの…?」

「………復讐するよ、すごく大きい相手だけど絶対に」


「私はこの業界に復讐する、例え誰に恨まれようと誰に蔑まれても私は私の大好きな人を死なせた、この業界に復讐しようと思うんだ」


「だからね、ルビーちゃん…もしよかったら協力して?」


あかねちゃんの瞳に黒い星が宿ってるように見えて、お姉ちゃんは強いんだなぁ、なんて思ったりもして…そうだよね、お姉ちゃんは女優で私はアイドル、きっとおにいちゃんはこんなこと望まないだろうけど。私たちは頷きあう、たとえこれから先どんなにつらくても、どんなに苦しくても、目的のために私たちは全てをだます。


「おにいちゃんの居ない世界なんてどうでもいい、だからあかねちゃん」


そう笑いあい誓う。


「「こんな世界壊してしまおう」」


だってこれは私たちの奪われた人に対する復讐なのだから。


他人だった少女たちは誓う。

二つの星がただ一人の仇のために瞳と心に闇を宿した、そんな日

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