日常生活に支障はありません
※ほぼアホばっか
※小僧も伏黒も疲れてる
※伏黒の巻き込み事故:うん
「嘆くべきか狂うべきか、それが問題だ」
──「ハジレット」第3幕第1場より
その日もまた、コーポ伏黒の中心では3人の宿儺が睨み合っていた。
「負ける気がせんな。この体の反射神経を知らんわけではあるまい」
「これは心理戦だ戯け。小僧と伏黒恵の脳の性能差を見せてやろう」
「ハ、小童共が喚きよる。腕をあと1対生やしてから出直してこい」
「「「——最初はグー!」」」
ぽん、ぽん、おい手を2本も出すな、ぽん、魔虚羅の印は最強のグーじゃないぞ、ぽん。
同一人物のジャンケンは長引くのだろうか。あいこの掛け声が続く近くで、膝を抱えた虎杖と伏黒が並んで座っていた。
「なあ伏黒」
「なんだ」
「あいつらさ、この後俺にハメる順番を決めるためのイかせ競争の順番をジャンケンで決めてるわけじゃん。ならそのままジャンケン順がハメる順でいいだろ、なんでわざわざ俺が疲れるだけのステップを挟むわけ?」
「今更だろほっとけ。それよりここ最近酷すぎるぞ、言葉だけでイクってまともに生活できるのか」
「あ、それは大丈夫。ちょっと試しに『情けなく極めてみせろ』って言ってみて」
「…………」
「うわすっごい冷たい目…とにかく!宿儺以外に同じこと言われてもイったりしねぇから大丈夫だって!」
「宿儺に言われてイく時点で何もかも駄目だろ」
あと宿儺の言葉のみに反応するのはそうなるよう調教された成果だが、伏黒は友人への優しさと情けで指摘しない。虎杖のあまりのチョロさとノルマのように繰り返される即堕ち展開に真剣に友達付き合いを考えたこともあるが、いくら9割9分9厘チン負け済みでも大切な友人なので。だが俺が巻き込まれていることへの反応がどんどん薄くなっているのは許していない。今回も「お邪魔しまーす!」のノリで人の魂に押しかけてきたし。もういいけど。
虎杖が伏黒の持ちネタ「五条さんの狂った金銭感覚シリーズ」を聞きながら決着を待っていると宿儺達の方から野太い雄叫びが上がった。1回イくとイきやすくなるので後攻有利だが、今回は虎杖の姿の宿儺が1番手らしい。
「チッ、あそこでパーを出していれば…こうなったら小僧を深めにトばして、2番手以降では使い物にならなくさせるか」
「マジでやめてほしい」
「伏黒恵!今回もしっかり記録を頼むぞ、1音目を発声した瞬間から計測開始だ!」
「マジでやりたくねぇ」
文句を言いつつも悲しいかな抵抗しない方が早く終わることを知っている二人は少し間隔を開けて座り直し、伏黒は計測用のストップウォッチと対戦記録表を手に取った。
この競技では順番以外の条件をなるべく公平にするためレギュレーションが設定されている。最近は虎杖の開発が行き着くところまで行ってしまったので、体には触れず言葉責めだけで達するまでのタイムで勝敗を決めている。なお、虎杖側はイキ我慢はしてもいいがイキ申告は正直にすることが求められる。アホのオリンピック種目。
「フーー…っしゃ来い!」
頬を叩き妙に健康的な気合を入れ、自分の真横に陣取った宿儺からの言葉を待つ。
いつもの言葉責めのパターンとしては、過去のプレイ内容を思い出させるものや具体的な部位への刺激を想起させる内容が多い。
(こいつの場合、同じ体使ってるせい?特に契闊してヤられたこと喋る時とか、他二人に比べて妙に生々しいんだよな)
見た目は違えど同一人物だし記憶も共有しているはずなのに、こいつらの細かい違いはどこからくるのだろう。まずなんで分裂して生得領域に存在しているのかもよくわかっていないが。
他にはどんな違いがあったっけと考える。すぐ隣に座る宿儺の体温を肩にぼんやり感じていると、それとは離れた場所に小さな熱が灯ったことに気がついた。
(な、なんだ?わかんないけどこれ、マズい気がする…!)
具体的な言葉責めの内容を思い返していたわけではない。ただ大人しく宿儺が発する言葉を待つ中で、今まで繰り返してきた脳イキの記憶がふつふつと下腹部のあたりを暖めているのがわかる。多分これは意識とは関係がない。反射としか言いようのない、自分ではどうにもできないものだという予感と確信。
一度待ったをかけようかと悩んでいる間に、何を言うか決めたらしい宿儺が耳元に唇を寄せた。
「……、」
フ、と。
耳の産毛に湿った吐息が当たる感覚。それが引き金となり、腰のあたりに蟠っていた熱が背筋を駆け上った。
「ぁ、待ッ……イぅ、〜〜ッ♡♡」
「あ…?小僧、おい」
「なんで、やだ…っ♡イくッ♡ほ、イグッ…ォ゙♡♡イっ、てりゅ゙♡ア゙ァッ♡♡」
勝手に自分自身でキメた脳イキを、宿儺達に教え込まれたせいで隠さずにイキ申告してしまう。
ポカンと呆気に取られたようにこちらを伺う宿儺の顔を見て、小指の先ほどだけ残った頭のマトモな部分が「そう言う表情をしてると、自分と同じ顔だとよくわかるな」とどうでもいいことを考え逃避する。
下腹部から背筋を通り脳天までを、バチバチと弾けるほどの強い絶頂感が往復していく。トレンカを履いたつま先をキュウと縮めて、近くにいる宿儺の腕に縋りつき快感を必死で逃がすが体の震えが止まる気配はない。
(こりぇ、だめなやつ…♡気ぃ逸らしてもとまんない♡とめらんないッ♡♡俺の体なのに、言うこと聞いてくんない…♡勝手に脳イキしてる♡全身がアクメ専用になってりゅ…ッ♡♡)
「ォ゙…♡♡はァ、…♡ひ、ッ…♡…んぅ、ふ…っ♡♡」
「……小僧♡」
「ンギ、ォ゙、ア゙ッッ!?♡イ゙グッ♡ィ…!♡…ッッ!♡♡」
少しは波が治まりそうになったかと思えば、“そういう”意図をもった声色で耳に言葉と吐息を吹き込まれてまた絶頂に襲われる。
先ほどまでの戸惑いが嘘のようにニヤニヤとこちらの顔を覗き込む宿儺を視界に捉えながらどうにか連続アクメから逃れようとするが、一度火がついた脳は虎杖の意志とは関係なく快楽を追い求めてイキ続ける。申し訳程度に残っていたまともな思考が端の方から解けていくのがわかった。
「はぁ、ふ、ンフー…ッ♡ヒュー…ッ♡ン……♡ッ♡♡」
「ははっ♡何だお前、俺が何も言わないうちにイったのか♡なぁ…?♡」
「違、ンぃッ♡また…またっ、イきゅ、イ゙ッ♡ン、ンん〜〜ッ♡♡」
止まらない脳イキで馬鹿になってしまった頭ではもうどうにもできない。律儀にアクメ申告を続ける虎杖が気づいた時には、遠巻きに見ていたはずの残りの宿儺も揃って近くににじり寄ってきていた。
「ケヒッ、随分とひとりで楽しんでいるなぁ♡これでは俺たちの勝負にならんではないか♡」
「今日のところは勝敗はお預けだな。まぁいい、まずは何を考えながら極めたのか詳しく説明してもらおうか。なぁ小僧…?♡」
『そんなことどうでも良いからハメさせろ♡無様アクメ小僧でチンイラ限界だッ♡♡ホォ゙オ゙ッ♡』
「っ、あの、ほんと…勘弁して……♡」
さっきまでは悪趣味な競争に興じていたはずが、今度は仲良く虎杖の羞恥を煽る方向に結託したようだ。結局は中身が同じ人間なので興味の向く先も同じらしい。
可能な限り気配を消して距離をとった伏黒が、記録表に「測定不能」と書き殴り静かに目を閉じた。