日常回
ガチムチダイナレスリング「あ」
「よ、よおパンクラ……」
寒さで体力を消耗してしまったのか夜中に異様な空腹感を覚え、何か食べようとキッチンへ向かったところでキングと出くわした。
味玉をつまみ食いしていた。
「それ、今晩に仕込んだやつで浸かり方浅いからまだ美味くないだろ」
「い、いやー……結構イケるぜ?」
「食い尽くすとコエロがキレるぞ、うどん作ろうと思うがお前も食うか?」
「食う食う! できたら肉うどんにしてくれ!」
「調子のいいやつめ……」
エプロンをつけてキッチンの中へ。
冷凍庫を漁るとちょうどよさそうな量の牛バラ肉のこま切れがあった。
少し脂っこくなりそうだがキング好みだろう。
水出しした昆布出汁のストックもあったので、それを鍋に沸かして一度火を止めてから鰹節を投入し、再び点火し弱火で3〜4分火入し旨味を抽出できたらざるで濾す。
だし汁を鍋に戻して火にかけみりん、酒、醤油を加えて牛肉を投入し、大量にでてくる灰汁を丁寧に掬い取る。
牛肉に火が通ったら斜め切りにしたネギと大きめに切った豆腐を投入して、火を弱めて豆腐が温まるまで煮込み続ける。
その間に別の鍋に湯を沸かし、冷凍うどんを茹でる。
茹で上げたうどんを湯切りし、丼に盛って先ほどの汁をかけ、とどめに温泉卵を乗せれば完成である。
「できたぞ」
「ありがとお母さん」
「俺はお前のお母さんじゃないわっ!!」
「ま、間違えただけだから……」
「その歳になってやるか普通!?」
本当に間違えたらしく顔を赤くしてもじもじするキング。
「いやお前の図体でされても反応に困る、伸びないうちにさっさと食え」
「お、おう」
「七味ここに置いとくからな」
「助かる、そんじゃいただきまーす」
「いただきます」
向かい合って座り行儀よく手を合わせ、早速いただくことにした。
うむ、手前味噌だがなかなか美味くできたものだ。
「うまっ!! パンクラの手料理うまっ!!」
「あいつの手伝いで何だかんだ俺の料理食わせてるだろ」
「これは俺だけのために作ってくれたパンクラの手料理じゃん?」
「自分用のついでだついで、気持ち悪い言い方はよせよ」
「でもよぉ、マジでこんな美味い肉うどん今まで食ったことねーぜ?」
「大阪名物の肉吸いのレシピを参考にしてうどん入れたやつだからな、いや肉吸いが肉うどんのうどん抜きみたいなものだから原点回帰か」
「なんでもいいけど美味いのは本当に本当だからな?」
「へいへい」
「雑っ! 反応が雑っ!! 褒めてるんだからもうちっとぐらい喜べやい」
「俺なんかあいつに比べりゃまだまだだよ」
「ご主人はご主人でまた別だろ、パンクラ自身の料理の腕前ってもう十分自慢できるレベルになってると思うぜ?」
「そうか?」
「そうそう、パンクラの味噌汁なら毎日飲みたいぜ!」
「いやだからもう割と飲んでるって俺の味噌汁」
「パンクラの味噌汁なら毎日飲みたいぜ!」
「気づいてたけど無視してんだよこの馬鹿」
「つれないやつ……」
「ほらさっさと全部食え、洗い物も全部済ませて片付けたいから」
「もうちょっとじっくり味わせてくれよ!?」
「因みに俺はもう食い終わった、先に片付けてるから後で食器だけ持ってこい」
「へーい」
そうして鍋や食器を洗っていると、自分の食器を下げてきたキングがやってくる。
「なんか手伝う?」
「じゃあ順番に布巾で拭いて片付けてくれ」
「りょーかい」
二人並んで雑談を交わしながら作業を続ける。
「また今度も何か作ってくれよー」
「機会があればな」
「しっかしパンクラのエプロン姿か……改めて見るとこう、なんかいいな!」
「ハァ、お前はすぐそうやって揶揄う」
「本心なんだけど……そういやパンクラは裸エプロンとかしないのか?」
「ブッ!? するわけないだろうが馬鹿ッ!!」
「でもご主人が裸エプロンみせたときはパンクラも喜んでくれたみたいだって言ってたし、パンクラ側からお返しでやったりしてないかなーとか」
「この馬鹿になんでもかんでも話すなよあの馬鹿……」
「あー! 赤くなってる! かーわいい❤️」
「しまいにゃしばくぞゴルァ!?」
何でもないいつもの、でも少しだけ特別な夜はこうして更けていったのだった。