日の出

日の出




さく、さくり。


ひどく冷たい明朝、新雪の上を男が歩いていた。


山の上に、日の出を見に行くのだ。


腰の袋には小刀と2日分ほどの食事と水、背中に弓矢を担ぎ、手に松明。


影が白い雪にくっきり写って映える。


念の為と食料を多めに持ったが、村までは三里。一と半刻しかかからない。


住処としている場所も、もちろんそれほど遠くではない。


しかし、男は蝦夷だ。


だがどうしたって、寒さと暗闇を侮ることはできない。


暗く、凍える冬の山の恐ろしさはその身で理解しているつもりゆえ、支度を怠るわけにはいかなかった。


冬の山は食事も少なく、本当に恐ろしい。


崖に落ちることなどあれば、数日は仲間に見つけてもらえない。


さく、さくり。


荷物が重しになるのだろう、沈みにくいようにかんじきをつけた靴でも少々歩きにくい。


動物たちが冬眠し、植物も雪に隠れる山は音がよく響く。


靴が雪を踏む、キュッ、キュッ、という音もしっかりと聞こえるものだ。


かじかむ指先に息を吹きつけて、再び歩き始める。


白い息を吐き出してもう一歩もう一歩と踏み出す。


山の上はもうすぐだ。数少ない娯楽を逃す手はない。


新年は確かに馳走が振る舞われるが、ときどき無性に美しい景色というのは見たくなるものなのだ。


さく、さくり。


ほう、と息をつく。


さく、さくり。


もう山頂が見え始めた。


さく、さくり。


よかった、無事につけそうだ。


さく、さく、聞こえていた人の足音が止まった。


ああ、日の出を拝んだら少しゆっくり帰ろう。


さく、さく、先客が見える。


おや、何か音が聞こえる。鹿でもいるのだろうか。


誰だ、なんだ、私は大人しく森にいるぞ。お前たちに何かしてなんかいないぞ。


止まった。やはり鹿だったのだろうか。できれば狩っておきたかったが、一人では鹿も持ち帰れない。


「ぁ、?」


人の声、倭人か?雪を踏む音がさながら裸足だ。


ぱっ、久しぶりに見た人間が振り向く。


「え、裸!?女か!?すま、すまん!!ぁ、これかぶれ!毛皮を着てきたんだ!!」


そいつは、誰かを慈しむような声で私に話しかけてきた。




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