旅行相談

旅行相談



「ねえ、類と旅行するならどこがいいと思う?」

珍しく真面目な顔してやって来たと思ったら、微塵も興味を感じないことを尋ねてきた同期に冷めた視線を遣る。何かあったのかと身構えた此方が馬鹿だった。

「先ず何があったのか聞かせろ、悟。話はそれからだ」

腕を組んで話を聞く体勢をとる学長に、驚きの感情を込めた目を向ける。

今日は患者もおらず退屈だったので学長室に来ていたのが、この男にとっては好都合だったのかもしれない。学長も学長で呪骸を作っているだけだったので忙しくないと判断したのだろう。

「先ずことの発端はあるテレビ番組だったんですよ」

神妙な顔で話始める同期に、諦めて話を聞くことにする。どの道やることがないのだから暇潰しにはなるだろう。

「類がテレビ観るなんて珍しいなーくらいにしか思ってなかったんです・・・類がその番組——旅行お勧めスポット紹介番組観ながら『偶には普通に旅行行きたいですね』なんて言うまでは・・・!」

わかってはいたことだが死ぬほどどうでもいい。危うく「くっだらなっ」と言うところだった。

「ふむ、それでどうしたんだ」

相槌を打ちながら続きを促す学長。寄りかかった船といったところだろうか。

「なら二人で旅行しようと思って類にどこ行きたいか訊いたんですよ。そしたらなんて言ったと思います?」

類は五条と違って真面目だからあまり具体的に思いつかない。果たして類はなんと答えたのか。

「『じゃあ太宰府天満宮行きたいです。御先祖様の眠られた地ですし、御参りしていきたいですね』って答えたんですよ!?」

うーん、類らしい答えだった。少なくとも五条が期待していたような返答ではなかったのはわかる。

「類が望むなら太宰府天満宮行けばいいじゃん。五条は弟と旅行できるし類は御参りできる、一石二鳥でしょ」

「そうだけどそうじゃないんだよ硝子〜!」

うざいなコイツ。弟関係になると途端に面倒くさくなるのだコイツは。普段から面倒くさいが輪をかけて面倒になるのである。

そのとき、暫く黙っていた学長が口を開いた。

「・・・・・・それなら太宰府天満宮へ行った後に温泉にでも泊まったらどうだ。九州なら別府温泉が有名だろう、二人で羽を伸ばせばいい。お前も類も普段から忙しいしな」

それを聞いて天啓を得たとばかりに立ち上がると、五条は普段は見せない満面の笑みを浮かべた。

「さっすが学長〜!よし、その予定で予約してくるよ〜!」

るんるんで学長室を去っていった五条の後ろ姿を見送る。

「アイツ任務はどうするんでしょう」

「上に圧でもかけて、旅行の日程のときは自分と類に任務入れないようにするんだろう」

肩を竦める学長の隣で家入は思わず溜息をついた。任務の皺寄せが来るかもしれない後輩を頭に思い浮かべながら。

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