旅は道連れ

旅は道連れ



「ねぇ、ゾロくん…」

ほんとうにこっちでいいのかな…

なんて。

おれよりほんの少し低い、まん丸な頭が重たげに、不安げにこちらを見上げる。

その手を引っ張りながら「だいじょうぶだろ。」とおれは更に足を進めた。


#旅は道連れ


こいつとの出会いは、どことも知れない浜辺だった。


重そうな仮面をつけたガキが転がってるから揺り起こし、道を聞いたのが数時間前。

どうやらおれとおんなじく、いつのまにかあの浜辺にいたのだと言うサンジを伴って森に入ったのが1時間前。


ぐぅぅ、と盛大に腹が鳴く。


どうやらおれたちは、迷子になったらしい。


***


適当にあったキノコに手を伸ばしたら「だ、ダメだよ‼︎‼︎」と強く止められた。

どうやらおれが食おうとしたそれには毒があるらしい。


「詳しいんだな、食べものに。」と言えば「…本にのってたから。」と答えが返ってくる。


「…なあ、それ外さないのか?」


「これなら食べれるやつだよ」とサンジが差し出してきたきのみを丸齧りして。

重そうな鉄仮面になんとなく手を伸ばせばビクリと身を竦めたサンジが一歩下がるから。

なんとなく行き場を失った手で咄嗟に小川を指差して、「それじゃ、水も飲めないだろ。」と告げる。

「えっと」だの「でも」だのと口籠るサンジに「なんか理由でもあんのか?」と言えば、うろうろと視線を彷徨わせた彼は、意を決したように、でもとっても小さな声で「これ、外したら、お父さんに怒られるから…」なんて言うから。


「なんだそれ。

子どもにそんなん付けるとーちゃんおかしいだろ

そんなのどんな悪いことしたってしねェよ」


からり、と落ちた言葉に、仮面の奥のサンジの目が溢れそうなくらいに開かれたのが見えた。


***


まるで傷ついたみたいに。


思い切り目を開いて固まってしまったサンジを見て、ついこの間くいなから言われた言葉を思い出した。


『いい?ゾロ。あんたは思ったことをそのまんま言っちゃうからデリカシーがないのよ。

最強の剣士は、剣以外では人を無闇に傷つけないんだから。

もっと強くなりたいんだったら、誰かに何かを言うまえに、3秒でいいから考えてみなさい。「こんな言葉を言われたらどう思うだろう」って。

それだけで、人は誰かを傷つけるのを減らせるの!』


そう言った後、「なぁんて。この言葉もお父さんの受け売りなんだけどね。」と笑うくいなを思い出す。


(おれ、コイツを傷つけちまったのかな…?)


彼女の言葉を思い出しながら、サンジを見る。


俯いたサンジの顔は、いつも以上に見えない。


「…これは。」


「これは、おれが、弱いから。」

だから、お父さんがつけたんだ。


ぽつり、落とされた言葉が地面を濡らす。

ソレを見て、なんだかぐわっとハラが熱くなった。


「じゃあ、お前はそれされて嬉しいのかよ」


ちくり、と低い声がでた。


「…嬉しくはない…嫌だけど、でも」

「でもじゃねー!人の嫌がることはしちゃいけないんだぞ!おれがお前のとーちゃん叱ってやるから大丈夫だ!」


ハラの底に溜まる熱いソレを、だばっと吐き出すみたいに叫べば、ぱちり、と瞬いたサンジと目が合う。


「…ゾロくんが、お父さんを怒ってくれるの?」

おれのために?

「そうだ!」

おれが、サンジの為にお前のとーちゃん叱ってやる!


ドン、とおれは自分の胸を叩いて言ってやる。

「おれのために、怒ってくれるんだ。」と。

つぶやいたサンジはきっと、自分がつぶやいたことにも、それがおれに聞こえてることにも気づいていない。


『いいですか?ゾロ。

誰かが自分の為に怒ってくれるのは、貴方が大切にされてる証拠です。

貴方は、誰かのために怒れる人になりなさい。』


先生の言葉を思い出す。

おれより少し小さなコイツを大切にしたいと思ったから。

おれはサンジのとーちゃんに怒ってやろうと決めたんだ。


***


きのみを齧りながら、どうにかサンジに水だけでも飲ませてやれないかと考えていたら。


がさり、と茂みから大人が出てきた。

思わず身構えて、サンジの前に飛び出す。


「君たち、どうしてこんなところに居るんだい?」

親御さんは?と首を傾げる大人からは、悪い感じはしない。


ゆっくり警戒を解いて、気づいたら浜辺に居たことを話す。

途中迷子になったことなんかは、ちょっぴり省こうとしたのにサンジが丁寧に説明してしまったからちょっとだけ不満はあるけれど、トニーと名乗った大人はおれたちの話を否定せず、ふんふんと頷いてくれた。


そしてトニーの案内でおれたちはようやく村にたどり着いた。


青く晴れていたはずの空は陽が落ちて暗くなっている。


幸いにも機械いじりが得意だと言うトニーの家で、ゆっくりとサンジの仮面が外されていく。



初めて見た、サンジの顔。


「…お前、眉毛ぐるぐるなんだな。」


沈黙。

その一瞬間後、「あはは!」と弾けるような笑い声があたりに響く。

笑い声の出どころは、キラキラの金髪。

ーーー鉄仮面を外したサンジその人だった。


「ゾロくん、おれの顔初めて見た感想がそれなの‼︎」

なんて。


出会ってからずっと、不安そうな声しか出さなかったサンジが、笑っている。


くるりと巻いた眉をへにょりと下げて。

心底楽しそうに笑うサンジの笑顔は、時間ハズレの青空でぺかぺかひかる太陽に良く似ていた。


#旅は道連れ きみは晴れ

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