『新時代』
フーシャ村。
9歳の私がここに置いてかれてから10年。
今となってはもう一つの故郷とも言えるここから、明日私は海に出る。
「………」
「おーいウター!ここ来てたんだな!」
突如外から声をかけられる。見れば、明日ともに海に出る幼馴染のルフィが手を伸ばしていた。
「ルフィ、明日朝早いのに寝なくていいの?」
「大丈夫だ!懐かしいなぁここ!」
そういって彼が登ってくる。
へなちょこな伸ばし方しか出来なかったのが昨日のように感じるのに、
すっかり彼は自分の力を使いこなせているようだ。
ここは昔、ルフィとあってすぐのときに連れてきてもらった思い出の風車だった。
あの日この島に来たときは、まさかこんなに縁深い場所になるなどとは思っていなかった。
「そうねぇ…昔あんたに連れられてここに来たっけ。」
「そうそう!…で、なにやってたんだ?」
「……これ。」
彼に今書き進めていたものを見せる。
「?なんだこれ、歌か?」
「そ、せっかくの船出なんだし、記念して何か歌いたいなって!もうすぐ完成するよ!」
「へー、楽しみだなぁ!」
「ふふん…あと、これ。覚えてる?」
そういって、横においておいた水色のアームカバーを見せる。
「ん?…あ、それおれの描いた!」
「そ、私達の「新時代」のマーク…いつかシャンクスと会ったらそこから先は分かれることになるけど、そのときはどっちが新時代を作れるかの勝負よ!」
私は赤髪海賊団音楽家のウタ。
船長として自分で船出をするルフィとは、いつか船を分かれることになる。
ルフィがシャンクスの傘下になればずっと一緒なのかもしれないが、残念ながらその気はさらさらないらしい。
「勝負か!おもしれぇ!また俺が勝つぞ!」
「残念、勝つのは私よ。昼間のチキンレースに続いて連勝してやるんだから!」
昼間、村での最後の勝負。
結局いつもどおりジュースに目をくらませたルフィがふっ飛ばされての負け。
いつまでも変わらない光景に、村の人達も私も大笑いしてしまった。
「お前あれはズルだったろ!」
「出たー!負け惜しみ〜!…さて。これでよしっと。」
「お、出来たのか?」
「うん!私達の「新時代」の曲!…せっかくだし、リハーサル付き合ってよ!」
「いいのか!?やったー!」
「ふふっ…それじゃ…」
明日からの冒険の日々に踊る胸に従って綴ったこれは、
今までにない神曲だろう。
きっと苦しいことも辛いこともあるだろうが、それ以上に楽しくて痛快な冒険が待っている。
その先にある「新時代」を夢見ながら、出来たばかりの歌を歌い始めた。
『新時代はこの未来だ
世界中全部変えてしまえば 変えてしまえば
果てしない音楽がもっと届くように
夢は見ないわ キミが話した』
『ボクを信じて』
『東の海の辺境にてひっそりと生まれたその歌は、後に大海賊として世界に名をはせる二人の少年と少女を象徴する曲、
「新時代」として世界に広まることになる』
………翌日、意気揚々と歌った結果船出した後…
「ウタ、アレ歌ってくれよ!俺たちの航海を祝ってよ!」
「海賊になってから記念すべき最初に歌う曲ね!新時代は〜♪この未来だ〜♪」
〜5分後
「「zzz…」」
このあと、渦に巻き込まれて樽詰になることを、まだ私達は知らなかった。