新人歓迎会(仮)
カラーズトラップでカイドウの攻撃を何とか躱したマリアンヌ。
しかし非能力者でそのような芸当をする彼女を黒ひげが見逃すはずがなかった。
パレットを壊され戦う手段を封じられた彼女は、3Mを優に超える巨漢船長たちに囲まれ黒ひげの船へと連行されるのだった。
「…何をさせる気なの?」
「ゼハハハ!そう固くなるんじゃねえよ!新たな船員のために宴を開くだけさ!」
「わ、私は船に乗るつもりは…」
「──じゃあ今死ぬか?」
『四皇』からの鋭い殺気に身を縮こませるマリアンヌ。
此処に居る誰かの機嫌を損ねればあっさりと殺されるだろう。
「なぁに簡単さ。俺と十人の船長たちに挨拶してくれればいい」
最初から拒否権など無い。そして船上で逃げられるはずもない。
元より笑う事は少なかったが、それでもと無理やりに頬を上げて笑顔を作ると、
渡されたジョッキとビール瓶を手にトコトコと覆面をした大男のもとへ向かう。
「一番船船長のバージェスさん。今日から宜しくお願いします」
「おう!宜しくな!…しかし小せぇな、ちゃんと飯食ってんのか?」
彼のジョッキに酒を注ぎ、返しに自分のものにも注いでもらう。
お互いの杯を鳴らすと同時に一気に喉へ流し込んだ。
(…おいしくない…)
元々ほとんど酒を飲まない彼女にとってビールは苦い飲み物でしかない。
アルコールに強くもないので、飲み切るころには顔が赤味を帯びていた。
「うぅ…」
「ウィッハハ!頑張ったな!適当になんか食っとけよ!」
皿に盛られた料理と水で気を落ち着かせ、次の船長のもとに向かう。
これをあと十回もこなすかと思うと気が滅入るばかりであった。
※※※
「…アナタの能力自体は非常に興味深いのですが、この状態ではマトモに話せそうもありませんねぇ」
五番船船長ラフィットとの乾杯を終えた時点で、既にマリアンヌの意識は混濁していた。
顔は真っ赤になっており真っすぐに歩くことさえ出来ていない。
それでも殺される恐怖から、酒を零す粗相だけはしなかったが。
「次は私なんだけど、まぁ無理にお酒を飲む必要もないわ。甘いので良いかしら」
「…ひゃい……あぃがとう……ございます」
手渡されたグラスに口を付ける。
どうやらミルクベースの飲み物のようで、仄かにチョコレートの香りがする。
安心して飲み干すマリアンヌだったが、すぐに体に異変が起こった。
「あ……ひっ…!?」
視界が真っ赤になり手足の先が無くなったように錯覚する。
顔は異常なくらいに熱いのに冷汗が止まらない。
彼女はふらふらと甲板の端まで歩き、必死に手すりを握りしめる。
小刻みに荒い息を吐き、込み上げるものに耐えようとしていたが、一分と経たずに胃の内容物を床にぶちまける事となった。
「あーあー。汚ったないわねぇ」
「そーらそんな強いの飲ませたら当たり前ニャ」
「おい~!!早く俺のとこ来てお酌せんでええのんか~~♡」
デボンの部下が汚れを流すついでに水をぶっかけるが反応はなく、
逆に水を吸った服の重さに耐えられズルズルと床に崩れ落ちた。
「あらら…見てらんないねぇ」
十番船の船長と思われる男が少女の体を持ち上げ、舌を詰まらせないよう横向きに抱きかかえる。
彼女はひゅうひゅうとか細い息を続けていたが、やがて意識を失い完全に動かなくなった。
「…で、どうすんだいこの子?殺すのかい?」
「ゼハハハハハ!ハナから行けるとは思っちゃいねえよ!デボン、こいつの首いるか?」
「好みじゃないから要らないわねぇ」
他の船長たちも大して気にはしていない。
「好きにしていいさ。殺したい奴がいりゃ殺りゃあいい」
「そ、じゃ遠慮なく」
男は海面を凍らせて自分の船へと少女を連れて行くと、自室のベッドに彼女の体を横たえた。
相棒のペンギンに牛乳を持ってくるように頼みこれからの事を思案する。
眠っている少女は海軍時代からの賞金首ではあるが、到底この船のノリに付いてこれるようには見えなかった。
さりとて、下手に逃がせば自分が黒ひげに疑われる原因になりかねない。
「いっそ本当に殺すか?……それもメンドくせぇよなぁ…」
結局『起きてから考える』以外の結論は出ず、男はダラりと背もたれに体を預けるのだった。