新世界某島、会員制バーの一室
クラシカルな音楽が流れるムード溢れる一室
その中央で二人の人物がテーブルを挟んで向かい合っていた
一方はロックグラスを口元に運ぶ尊大な男、もう一方は一本数百万の高級酒を瓶のまま煽る隻眼の男
隻眼の男の傍には、三本の刀が置かれていた
尊大な男はロックグラスをテーブルに置くと、隻眼の男の方を向いた
「こうして来てくださったということは、私からの願いに承諾していただける、ということでよろしいでしょうか?」
男は口元に笑みを浮かべる
「あなたのお持ちになっている刀、和道一文字と秋水を私に譲っていただくという願いに。ロロノア・ゾロ様」
隻眼の男-ゾロ-は頷くことはなく、ただ黙って酒を飲む
しかし男はその不遜な態度を気にしなかった
何故なら、もうすぐ待ち望んでいた物が手に入るからだ
男がパチンと指をならすと、後ろに控えていた部下がアタッシュケースを二つテーブルに置く
どちらも中には札束が隙間無く並んでいる
「こちらが譲渡金、二本で二億ベリーになります。それでは、こちらの譲渡契約書にサインを」
男の部下が革張りの上等なバインダーに挟まれた紙と高級そうな万年筆をゾロの目の前に置いた
ゾロは変わらず酒をあおっていたが、瓶の中が空になったのを確認するとそれを勢いよく投げた
ヒュン!
男の顔スレスレで風切り音がおき、瓶は後ろの壁に当たって割れた
男の部下達が一斉に武器を構える
「これは、いったいどういう事なんだ?海賊狩り」
男はギロリとゾロを睨むが、ゾロは少しも怯まない
「さっきの酒、そこそこうまかったぜ。その礼に二つ教えてやる」
「?」
「一つ。てめェの手下は、ここにいる奴ら以外は全滅した」
淡々と告げるゾロの目は赤く光り、仲間達の状況を感知する
「二つ。てめェがどれだけ金を用意しようが、コイツらを譲る気はねェ」
そう言うと飛びかかってきた部下を最小限の動きで躱し、傍に置いてあった刀を取って構えた
数十秒後、ガチャリとドアが開いて外からスーツ姿のガイコツ-ブルック-が現れた
「ゾロさん、お迎えに来ました」
「よお、そっちは終わったか」
「はい」
ブルックがそう言うと、ゾロは部屋を出た
部屋に残されたのはうつ伏せに倒れる部下と、泡を吹いて気絶する男のみ
テーブルに置かれた譲渡契約書には一切手がつけられていなかった
男は刀剣コレクターを名乗っており、世界中から刀剣類をあつめていた
しかし彼が欲しているのは大業物と最上大業物のみで、良業物や数多の業物や無銘刀のことは「ゴミ」「存在する価値もない」と見なしていた
そんな奴から「あなたの刀を譲ってほしい。それ相応の金額は払う」と手紙を送られて、素直に承諾するゾロではなかった
もちろん、一味の誰もがそうだった
何より、麦わらの一味は既に別のある人物と“取引”していたからだ
「“曙”(あけぼの)。最上大業物の一本に、まさかこんな所でお目にかかれるなんて。私、おもわず目を疑いました。ガイコツだから目はないんですけども!ヨホホホホ!」
ブルックは笑いながら手にしたケースに視線を落とす
ゾロも歩きながらチラリとケースの方を見る
「あとは、コイツをあのジイサンに持っていくだけだな」
「ええ。その後は約束通りゾロさんの刀の研ぎ代がタダになって、ゾロさんはこの“曙”をじっくり見せてもらうんですね」
「ああ」
そう言って笑うゾロの目には期待の色があった
ゾロは興味こそあれ、位列には特に頓着しない
しかし、滅多に出会えるものでもない最上大業物にはやはり大いに関心があった
最上大業物、“曙”
とある武器屋の先祖が打ったとされる刀で、一説にはあの“鷹の目”ことジュラキュール・ミホークが所有する“夜”と関係があるとされる一本
期待に胸を膨らませながら歩く二人の頭上を、下弦の月が照らしていた
「あっゾロさん!そっちは今通った道です!」
「い"っ!」