断章:結
「・・・ヤバい?これ」
「・・・うーん、ヤバいね」
暗い工場のような場所で結界が貼られている部屋に閉じこもっていたのは六月と夢馬。
何故このような事になったのかは少し前に遡る・・・
※※※
「あー今日もようやく学校終わったー・・・」
桜宮六月はいつも通り中学校から帰宅しようとしていた。
「・・・なんか、人少ないような・・・気のせいかな」
いつも彼女が使っている通路にはもっと人がいたはずだが今回は何故か人が全くいなかった。
(・・・そういえば最近女子高生が突然失踪したりするみたいだけど・・・まさかね・・・)
六月は気のせいだと思ってその通路を進んだ。
・・・そしてそれが最大の誤りであった。
「・・・!?モガ!んー!!!」
突如背後からタオルのような物で口を抑えつけられる、タオルには睡眠薬が染み付いていたのか六月は意識を失う。
「・・・・・・!」
そして下手人の男は六月の意識が失われたのを確認すると指を鳴らす、そしてそれと同時に空間に開いた穴に入っていった。
※※※
「うん!今日もロリ達は平和だなぁ!」
巨竜は日課の幼女達への観・・・パトロールを行っていた。
「・・・ん?あれは・・・六月?」
巨竜の目に入ったのは意識を失い見知らぬ男にどこかに連れられている六月であった。
「・・・!これはどう考えてもヤバいよね・・・!」
そうと決まれば迷っている余裕は無い、巨竜は爆速で穴に飛び込んでいった。
※※※
「おぉ!今回も中々じゃねぇか!!」
男が六月を連れて入った先には9人くらいの男が呪具や武器を構えて取り囲むようにして立っていた。
「それじゃあ早速その女を・・・」
「その女をどうするって?」
「・・・!?なんだこい」
その言葉と共に穴から出てきた緑の物体が六月を抱えた男に体当たりをして男を飛ばす。
六月は離され落下し目が覚める。
「・・・え!?何これ・・・!?誘拐!?」
「そうみたいだよ、全く・・・変な人には着いて行ったらダメじゃないか」
「着いて行ってない!!」
(・・・とはいえこれヤバいんだよなぁ)
巨竜は周りをじっと見渡す、男達は呪具を構えて自分達を包囲していた。
(・・・多分僕みたいに乱入者が現れる事は想定済みか・・・六月ちゃんを守りながら戦うのはかなり難しい、それに・・・)
巨竜は端の方にチラッと目をやる。
・・・そこには服を裂かれて異臭だらけの女子高生の死体があった
(・・・相当胸糞悪い・・・それに気の短い集団のようだね)
六月も死体には気づいてないがこの状況のヤバさを理解したのか顔が青ざめている。
「・・・それで、どうする化け物?お前が何者かは知らねえがこの状況でやり合うか?」
「・・・いや、やめておくよ」
巨竜は両手を上げた。
「・・・・・・」
六月も共に両手を上げる。
「・・・よし、それじゃあ質問だ、お前らに家族か仲間はいるか?」
「・・・・・私達に仲間や家族はいな」
「いるよ、猫天与って奴が、電話番号は・・・」
六月は驚いたような目で巨竜を見る。
(・・・あっぶなぁ!人質の価値が無いって分かったらここで殺されてたよ絶対!)
巨竜は冷や汗をかいていた。
「・・・何?猫天与?猫天与だと!?」
男達が猫天与の名前を聞いた途端に騒めきだす。
「兄貴!こりゃあ願っても無い事態ですよ!!」
「あぁ、たっぷりとアイツにはアイツらの分のお礼参りもしないとなぁ!」
男達の不愉快な笑い声が工場中に響き渡る。
(なんでアイツは生きてるだけで敵を作りまくるんだろう・・・?)
※※※
後処理と外でとある話をしていた時、その電話は鳴った。
「ん?・・・あぁ六月の番号だ」
「六月ちゃんもうスマホ持ってるんか、現代って進んどるな・・・」
猫天与はいつも通り着信に出た。
『・・・猫天与か?』
「「!?」」
猫天与は咄嗟にスマホをスピーカーに切り替える
「・・・そうだが、何の用だ?・・・第一誰だお前は?」
『・・・ククク、アーハッハッハッハ!!!やはりそうか!覚えていないのか!貴様にとって俺達は覚える価値も無いって訳か!!』
「・・・御託はいい、要件はなんだ」
電話越しの男は嘲るように笑いながら答える。
『決まってるだろう?・・・お前の大事な女と・・・後変なトカゲを預かった、返して欲しければ・・・おっと、この電話を聞いている人物も誰にも知らせず鎌瀬工場にお前一人で来い、金はいらん、これは縛りだ、そこで俺達がお前に要を済ましたら返してやる』
「・・・いいだろう」
「クク・・・大した判断だ」
その言葉と共に電話は切られた。
「・・・こりゃマズイな」
「誰がどう見ても誘拐やんけ!!そして目的が金じゃ無くてお前って・・・間違いなく復讐やないか!」
後処理は見るからに慌てていた。
「・・・時間がねぇ、俺はもう出かける」
「・・・その前に聞きたいんやけどいいか?」
慌てていた後処理は真面目な顔をする。
「・・・なんだ?」
「お前が六月ちゃんに今でも執着してたんはなんでや?」
「・・・・・・・・・」
※※※
六月と巨竜は格納庫に放り込まれていた。
(・・・とりあえず僕がいる限りアイツらは積極的に六月を襲ってこないはず)
「・・・はぁ、どうしようか巨竜」
「えーと・・・これをこうして・・・」
巨竜は鱗を一枚剥がすと床に叩きつける。
鱗は粉々に砕け散った。
「・・・何してるの?」
「ん?逆転のキッカケ」
※※※
「・・・こ、この信号が送られてきたって事はぁ・・・」
盗賊の隣の一軒家、変牛はパソコンを見ながら顔を青ざめていた。
「き・・・緊急事態ですぅ!みんな早くきてくださぁぁぁぁい!!!」
※※※
「・・・どこだ、約束通り来てやったぞ!」
人型の猫天与は工場に入って大声で叫ぶ。
「ククク・・・姿を変えて撹乱でもするつもりだったか? まさかこんなにあっさりと姿を表すとはなぁ!!」
暗闇から現れたのは猫天与を取り込むようにして現れる呪詛師達であった。
「・・・六月は返してもらう」
「いいぜ・・・!返してやるよぉ!」
呪詛師達は呪具や武器を構える。
「ただし俺達の報復をしっかり受けてもらってからなぁ!」
「・・・縛りだ、俺が抵抗しなきゃ六月には手を出さないって事でいいな?」
「あぁ、いいぜぇ・・・もっとも生きていられたらなぁ!!」
男達の不愉快な笑い声が辺りに響き渡るのだった。
※※※
「・・・おいこいつ・・・本当に生き物なのか?」
猫天与は両腕と両足がちぎり取れていた、全身には痣ができ左目は潰されている。
そして身体が銃弾で蜂の巣になっていた。
「・・・・・・」
猫天与は多少表情が物理的に歪んでいる物のその目はしっかりと奥の扉を見ていた。
「なんなんだ・・・なんなんだよこいつは・・・!!」
※※※
・・・お前があの時俺はお前をアイツの代用品にしてるんじゃ無いかって言われた時俺は否定をする事が出来なかった。
・・・態々ずっと探してきた理由はそうだったからな。
そうだよ、俺は六月を出雲の代用品にしようとしてた。
・・・あぁ、でも
違ったんだ
お前は出雲でもツキでも無いってすぐわかってしまったんだ。
一緒に暮らしてる訳だしな。
・・・確かに見た目や趣味はそっくりだけどな、価値観とか、言動とか、似てない事の方が圧倒的に多いんだよ。
だからそうだよ六月
お前はアイツの代わりになんてなれない。
・・・それなのに
「お、おいこいつまだ動こうとしてるぞ」
「ひ、怯むんじゃねぇ!どうせ何もできやしねぇ!」
それでも俺は
お前に会いたい
「・・・そろそろ、六月を返してもらうぞ・・・!」
「くそっ!!!・・・遊びは終わりだ!」
男が猫天与の頭に銃を突きつける。
「死ねぇ!!クソ猫ぉ!!!」
銃声が鳴り響き血が飛び散った。
※※※
「・・・ヨウ?」
六月が不安そうに呟いた。
「ん?どしたの六月ちゃん」
「ヨウが・・・ヨウが危ない!!」
六月は扉へと走って近づきガンガンと叩く。
「え!?ちょっとどうしたの六月ちゃ」
「うるせぇぞ!!」
扉が突然開いたかと思うと呪詛師が呪具で六月を殴ろうとし・・・
「ぐっ・・・!」
割って入った巨竜の頭部に直撃した。
「・・・!巨竜!」
六月が巨竜に駆け寄ろうとするが男に腕を掴まれる
「逃がさねぇぞ・・・少し・・・痛い目見なきゃわからねえみたいだなぁ!!!」
「!!」
呪詛師が呪具を振り上げようとし・・・
そして背後からいつの間にか近づいてきたもう一人の男に殴られ六月を殴ろうとしていた男は気絶をした。
「・・・え?」
「ふぅ・・・騒ぎがあったのでわかりやすかったですぅ・・・」
殴った男は自分の顔に手を当てる、すると被り物かのように顔が剥がれた。
「へ・・・変牛!!」
「よく頑張りましたねぇ、六月ちゃん」
※※※
「酒波・・・・・・!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
ある所は大量の酒に飲み込まれ。
※※※
「尾多吼剣術・・・尾多芸!!」
「ぐおおおおおおお!!!」
ある所は口に咥えた刀にて衣服ごと細切れにされ・・・
※※※
「コケコッコオオオオオオオオオオオ!!!!!」
「噛みつきー!!」
「グアアアアアアアアアアアアア!!!!」
ある所は脳に爆音を流させながら犬に噛まれた。
※※※
「いてええええええええええええ!!!」
「ヒャハハハハハハハハハハ!!!!大ピンチじゃねえか猫ぉ!!」
銃声を持った男の腕に毒兎が狙撃をして男の銃を撃ち落としていた。
「・・・テ」
「遅い」
男が武器を構えようとした瞬間に空鼠が呪詛師の腹部に突っ込み正拳突きを放つ。
「グギッ!!」
「グアアアアアアア!!!」
呪詛師は複数の仲間を巻き込み壁に激突、壁はその衝撃で一部が倒壊した。
「ヒャハハハハハハハハハハ!!!!!」
そしてバイクに乗った毒兎が狙撃をし呪詛師を遠距離から狩っていく。
「ヨウ・・・!」
奥の扉から六月が出てきてヨウに向かって走る。
「させる」
「そのセリフはこっちだ!!」
「グエッ!!!」
六月を妨害しようとした呪詛師は上から着陸した夢馬の下敷きになった。
「むつ・・・!?」
何かを言おうとする猫天与の口を六月は唇で塞ぎ・・・
「・・・さぁ、思う存分やって!!」
「え!?ちょ!?ニャァ!?」
達磨状態の猫天与の残った一人の呪詛師に向かってぶん投げた。
猫天与は両腕両足が生えると猫の姿に戻り着地をする。
「ち、チクショぉおおおおおお!!!!」
呪詛師は自棄になって猫天与に突撃する。
「・・・・・・・・・」
そして猫天与は・・・
その男の股間部分を爪で串刺しにした。
文字にならない悲鳴を呪詛師上げる。
だが猫天与は一切の容赦なくその隙をつき目玉を爪で引っ掻く、激痛に悶えている男の脊髄を殴打した。
これが普段の戦闘では相手が呪霊だったり近づかなかったり味方の訓練相手だから基本的に発揮しない猫天与の殺人殺法・・・相手を再起不能に叩き込む格闘術である。
「ヒェッ・・・」
「うむ、しっかり前より上達してるな」
「あ、あれ教えたの空鼠なんだ・・・」
六月は少し引いた。
※※※
「はぁ・・・はぁ・・・くそ・・・まだだ・・・!」
呪詛師の残党が工場を一人悲しく逃げ回っていた。
「覚えてろ・・・今度は・・・!」
そんな事を言ってたら呪詛師は壁のような物に激突する。
「あ!?こんな所に壁なんて・・・」
「へえ?今度はどうするって?」
「・・・え?」
呪詛師が最後に見たのは自分よりも遥かに大きい竜であった。
※※※
「お疲れ様や、皆」
外に出ると後処理が車の中で待っていた。
「やっぱり中に入りさえしなきゃ縛りを破る事にはならかったか」
「いやぁ・・・アイツら馬鹿で助かったでホンマ、それに猫天与の知り合い達にも居場所筒抜けやったし」
そう言って後処理は帳を消した。
「いやーまさかあの後空鼠から連絡来た時はビビったで、とりあえず後の処理は俺に任せてな・・・はぁ面倒や・・・」
後処理はため息をついた
「・・・む?そういえば猫殿、目は治っても目の傷は治らなかったのでござるか?」
猫天与の左眼には縦に傷が引かれていた。
「そうだな、まぁ目は悪くなって無いし気にする事じゃないだろ」
『・・・おい六月、猫天与に思いを言わなくていいのか?これ程のチャンスは多分は多分無いぞ?』
夢馬が六月に小声で囁いていた。
『うっ、いやでもやっぱり私が・・・』
『自分の欲には正直になれ、特にそれが抑えると生きづらいなら尚更だ』
『そ、空鼠・・・』
三人がコソコソ話をしている時であった。
「あー六月、話したい事があるんだが・・・」
「え?ヨウ?」
人型になったヨウが気まずそうに六月に話しかけた。
「え!?何!?僕にも教えて」「あー占犬、少し散歩でもしよっか」「散歩!?やったー!」「若いっていいわね・・・」「はー複雑やわー」
気がつくと後処理と獣将達はいなくなっていた。
「・・・六月、前にお前が言った通りだよ、俺がお前を探してたのはアイツの代わりを探してたからだ」
「・・・・・・そっか」
「・・・でもお前、アイツにもツキにも似てるようで似てなかったしお前とアイツを重ねる事は無理だった」
「私は唯一無二だからね! ・・・空鼠達がそう教えてくれたから」
六月は胸を張ってふふんと言った。
「・・・けどまぁ・・・お前がそばにいるだけで楽しくて、お前と話すと笑顔になれて、お前が攫われたと知った時・・・死ぬかと思った」
「私が?」
「・・・今のは察しろよ」
猫天与はため息をついた。
「あーその・・・だから」
猫天与は六月に手を差し出した。
「・・・お前さえよければ・・・これからも俺の側にいてくれないか?」
「・・・えっ?」
六月はぽかーんとした表情を浮かべる。
「・・・それって・・・そういう事?」
「・・・ああもうそういう事だよ!お前と!これから先もずっと一緒にいたいって言ってるんだ!」
「・・・えっ!?えっ!?夢じゃないよね!?」
「・・・夢じゃねぇよ」
六月はすーはーと深呼吸をする。
「・・・私でよければ、これからもよろしくお願いします」
そう言って六月は手を取った。
「「「「「「「「「「「やったぁ!!!」」」」」」」」」」
獣将達と後処理が茂みから飛び出した。
「はっきり言って何故お前が六月と付き合えたのか全く分からないがおめでとう!そのまま六月を幸せにした後死んでくれ!」
「よかったね!六月泣かせたら差し違えてでも殺すし喧嘩しても殺すから!」
「とりあえず死んで生まれ変わって善人になってくださあい」
「祝われてる気が全くしねぇ!!」
女性陣の祝い?に猫天与は叫んだ。
「ペッ」
「はぁ・・・猫かぁ・・・」
「お前らはせめて一応祝福してる姿勢とれよ!!」
忍猪は唾を吐き巨竜は悪態をついた。
「ヒャハハハハハハハハハハ!!!まぁいいじゃねぇか!さてと・・・」
毒兎がバイクのスイッチを押すとバイクは大きなオープンカーに変形した
「ここはあのメガネザルに任せてさっさと帰ろうぜ!」
「ん?今あの糞兎俺の事メガネザルって言った?」
「ヒャハハハハハハハハハハ!!!メガネザルはメガネザルだろうが!!」
「このクソ毛玉がぁ!!」
馬鹿二人が争っている間に猫天与は運転席に乗り込んだ。
「・・・それじゃあ、帰るか」
猫天与はハンドルに手を掛ける。
そして12獣将達は次々と乗り込んでいった。
子
「さて・・・盗賊殿や伝書殿にも話しておかねばな」
丑
「いやでも話して大丈夫なんですかねぇ?特にあの盗賊って人なんかメンタル弱そうですしぃ」
寅
「まぁお父さんなら大丈夫だよ!」
卯
「まぁ親なんだからハブるのは違えだろ!ヒャハハハハハハハハハハ」
辰
「そうだね!とりあえず僕の活躍を知らせないと!」
巳
「でも今回は本当にお手柄よ巨竜ちゃん!」
午
「あぁ、本当にだ・・・六月、怖くなかったか?」
酉
「アイツら猫に去勢されてていいきみだよ!」
戌
「お腹すいた・・・帰ったら何か食べよう!」
亥
「・・・ところでこの時点でかなりぎゅうぎゅうなんでござるが!!」
「ぐおー!!せめぇ!」「おい踏むな!」「今殴ったの誰だぁ!!」「む?この感触はなんでござるか?」「それはダメですぅ!!」
酒蛇の頭に青筋が浮かぶ。
「何してんのよアンタは!!!」
「ブヒイイイイイイイイイッ!!!!」
忍猪は4321のテンポで外に投げ出された。
「それじゃあ行くぞー!」
猫天与はアクセルを踏んだ。
「ちょ!?待つでござるー!!」
そして忍猪はそれを走って追いかけた。
「・・・そういえば猫、まだ見つかってないのか?」
「ああ、ここまで見つからないのはハッキリ言って異常だ」
「・・・むぅ、一体どうなっているんだ?」