斬鉄と烏

斬鉄と烏


凪誠士郎。変なやつだとは思っていたが、もしかして宇宙人なのかもしれない。


フランスVSイングランドは凛の活躍により圧倒的な勝利を見せた。個人的には不満の残る試合ではあるが、ひとまずそれはそれである。烏旅人は軽く腕と脚を伸ばしながらフランス寮に戻ろうとしていたが、ふとチームメイトと対戦相手の会話が聞こえてきて歩調を緩めた。

「凪、なんだか逞しくなったんじゃないか?きんきんこつこつだな」

「もしかして筋骨隆々のこと?最近鍛えてるからね……次は凛にも勝ちたいな」

そういえば最初期に同じチームだったと聞いたことがある。凪と斬鉄の会話だった。天然ボケと面倒臭がり。相性が悪いように思えたが、存外仲は良いらしい。

はー、今はライバルなことわかっとんのかなこいつら。ようやるわ。無意識のうちに情報を得ようと聞き耳を立ててしまうのは性格だが、特に興味を引く話題でないことがわかりさっさと立ち去ろうとした。……が。

「そういえば、前に言っていたユキミヤ?はどうなったんだ?休みの間に帰ったんだろ?」

「ああ、ユッキーなら…」

「雪宮?雪宮って宮崎の、空忍高の雪宮剣優か?」

思わず口を挟んでしまった。ふたりが少しだけ驚いたようにこちらを見る。しまったと思ったがもう遅い上、気になる話題なことは間違いなかったので、烏はこの勢いのまま話を続けることにした。

「なんでそこで雪宮の名前が出てくんねん。あいつ絶対来る思てたのにブルーロック来てへんねんよな。なんなん、知り合いなんか?」

同世代の有望選手くらいざっくりとは把握している。いま話題に出た男は、自分と同レベルにサッカーが上手かったはずだ。確かに、ブルーロックに入る少し前くらいからとんと話を聞かなくなってはいたが……その雪宮の名前がどうして今ここで?

「烏、ユッキーの知り合いなの?ユッキーならうちにいるよ」

「は?」

「雪宮は凪が飼ってる花の名前なんだ」

「……ん?」

植物に名前を?いや、それ自体はおかしな話ではないが、人名のしかも名字?わけがわからない。

混乱はしたものの、どうやら思い違いだったらしい。凪の飼っている(この表現もなんだかおかしいが)植物が、たまたま同じ名前なだけだったようだと、烏は呆れて話を切り上げようとした。

「あー、すまん。全然ちゃう話やったな、ほな…」

「ほら、ユッキー。今朝もばあやさんから写真きたんだ」

どこからか取り出したスマホを弄って、凪がこちらに画面を向ける。

映っていたのは、サッカー誌で見たことのある雪宮そのものだった。窓辺で微笑んでピースまでしている。

「本人やんけ!!!!?????」

烏の大声が廊下に響く。

「おい、いきなり大声出すのは行儀が悪いぞ」

斬鉄のちょっとズレた発言が、誰にも届かずに溶けていった。

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