散歩と心地よい風と

散歩と心地よい風と


どこかの小さな島で何て事無い散歩をしているIFローとクルーの何て事無い話です。


暖かな日差しの下、青みがかった黒い髪の隻腕の男が歩いている。


彼は平行世界から来た『トラファルガー・ロー』。

初めて彼を見たこちらの世界のトラファルガー・ローや彼の率いるハートの海賊団のクルーは言葉を失っていた。

13年の長い期間をかけ、恩人の本懐を遂げたこちらの世界とは違い、彼はその戦いで敗北を期し、恩人の仇たる男『ドンキホーテ・ドフラミンゴ』によってあらゆる物を失った。


仲間も、同盟相手も、自分自身も。


地獄のような日々の中で偶然手にした世界を渡る古代兵器『ヘルメス』によって、これまた偶然やって来たこの世界で、もう一人の自分達の手によって元の自分を取り戻していった。

健を傷つけられて杖が無ければ歩く事もままならなかった脚も、今は覚束なくとも杖無しで歩けるようになった。

スープですら上手く食べられなかった食事も、今は皆と同じ食事がとれるようになった。

地の底まで落ちて消えかけていた彼自身の意思も、今はしっかりとしている。


「別世界のとは言え、我ながら凄い手腕だな。」


そんな独り言を呟きながら原っぱを歩く。

今ハートの海賊団は数日前に停泊した島で合流した麦わらの一味と共に『ヘルメス』や平行世界に関する情報交換を行っていた。向こうの船には流石世界政府に狙われるような考古学者がいる為に多くの情報を得られた。

その後、彼はリハビリを兼ねてこちらの世界のペンギンとシャチと共に島の散策に訪れていた。


「良い天気ですねローさん!」


ペンギンが声を掛ければ「あぁ。」と小さく返事する。

心地良い風が吹いて落ちていた烏の濡羽色の羽根を二人の足元まで運んでくる。


「綺麗な形の羽根ですね。」

「何かこういうの拾いたくなりません?」

「雑菌が凄いから止めておけ。」

「分かってますよ。」


二人と他愛ない話で笑い合う。元の世界にいた時には出来なかった事だ。否、出来なくなってしまった事だ。

雲一つ無い空を見上げてローは小さく笑う。


「結構歩いたな。」

「ですね、ローさんがこんなに歩けるようになって俺…俺ぇ!グズッ。」

「何で泣くんだよ!」

「う゛れ゛じい゛がら゛でず!!」


鼻水まで垂らして泣くペンギンとシャチに呆れながら笑うロー。特にペンギンの泣きようは凄かったが、思えばこの世界で一番最初に彼を見付けたのはペンギンだった。その凄惨な姿を一番最初に見たのはペンギンだった。だからこそ彼の回復を一番喜んだのだと理解する。


「そろそろ帰るか。」

「そうでずね…」

「う゛ず」


鼻をすすりながら二人が返事をする。

遠くで鳥の羽の音が聞こえる。

焦る必要も無い、ゆっくりとのんびりと船へと帰る為に歩く。風に髪を揺らしながら。








バサバサと頭上を鳥が飛ぶ音が聞こえる。

フッと大きな影が三人に掛かる。

ハラハラと羽根が落ちて来る。

その羽根の色は……





ピンク色。




悪寒が走ってローは直ぐに空を見上げた。








『怪鳥』がそこに居た……






イトイトで羽を生やして飛べる概念をお借りしました。

ファーコートを羽織ってないのは、IFミンゴがファーコートを解いて翼にしているので羽織ってないです。また翼を解いてファーコートに戻したりすると思います。

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