教師と芸術家とその卵の出会い
ある日、917号機、もとい『ヒルデガルト』と共に絵の具等を買っていた時の事だった。
「……む?アレは……」
“……アレ?マエストロ?何故此処に?”
「先に言っておくが、今日は何も企んじゃいない。この子と共に買い物に来ただけだ」
“この子っていうのはそこにいるアリスのこと?”
「初めまして!私は917号機です!」
“初めまして。私はシャーレで先生をやっている者だよ。よろしくね”
「貴方がシャーレの先生でしたか!マエストロ先生から何度も聞いています。芸術の良き理解者であると!」
“……マエストロ先生?”
「……時間はあるか?少しお茶しよう。事情を話す良い機会だ。安心してくれ、ちゃんと奢る」
〜移動&説明後〜
“……そっか。じゃあ、今のところ邪険に扱ってないんだね?”
「私は黒服とは違う方法で『崇高』を目指している。アイツはアイツ、私は私のやり方がある。ただそれだけの事だ。お互いに止めようとはせん」
“でも、こういった公の場ではその子の事をなんて呼んでいるの?”
「……確かに、『ヒルデガルト』は秘密を隠したうえでの名前だ。なので……」
「『クイナ』と誤魔化しています!私も其のことについては承認済みです!」
“……なんか黒服とそこは同じだね。数字を名前にするところは”
「……致し方あるまい。(テレサ、カタリナ、テレーズの名前を使っては私が言い間違えてしまいそうだしな)……そちらはどうなのだ?」
“増産されたアリス達の保護に追われてる。こちらは1号を世話しているよ”
「……そうか。今回の件については公言しないでくれるか?」
“理由は?”
「……ヒルデガルトのことがバレてしまえば大きな批判を浴びるだろう。先日、この子の個展が開かれ、絵画の界隈に名が知られたばかりだ。先生、貴方も分かっていると思うが、最近の絵描きのAIの評価は二分だ。便利である反面、誰でも使える事が批判を浴びている。しかし、この子は『感性』を持って、芸術活動をしている。そこは他のAIと一線を画している。……この子の芸術活動を続けるためにも考えてはくれないか?」
“……分かった。公言はしない。でも、今から言う2人には伝えても良いかな?”
「……誰だ?」
“1人目はオリジナルのアリス。あの子は他の子の事を一番に考えてくれているから。2人目は2号。あの子は増産されたアリスの問題の解決を率先してこなしてるから。それに彼女に伝えておくと事情を把握して、味方してくれると思うから。良いかな?”
「……分かった。それで、この子の秘密が守られるのであればそれで良い」
“……最後に一つ、君に聞きたいことがある。大丈夫かな?”
「はい、何でしょう!」
“君は今幸せかな?”
「はい!とても幸せです!」
“なら、良かった。……今日はありがとう、マエストロ。この事を話してくれて”
「……いずれは貴下に話そうと思っていたが、なかなかタイミングが合わなくてな。本当に今日は話せて良かったと思うよ」
“でも、今後彼女にひどい事をしたら……”
「……するはずないだろう?あるとしても、彼女の背中に『聖徒の交わり』の背景を付け足すぐらいだ。アレはキヴォトス人並ではないが、耐久性を上げる事が出来るからな。……まぁ、今の所、ソレをする予定はないが」
“……嘘ではなさそうだね?ちゃんと守ってよ?”
「分かった。保障する」
“……まぁ、今日はそこのヒルデガルトに免じて、味方になった。けれど……”
「……次に会うのは『敵』か『味方』か……分からんが、また、いつか会おう、じゃあな」
“うん、それじゃ。君もまた会って、話そうね?”
「はい!また、何処かで会いましょう!」
〜別れて、買い物が終わった帰り道〜
「ふぅ……一時、どうなることかと思ったが、なんとかなったな、クイナ?」
「はい!何よりもシャーレの先生に会えた事が嬉しかったです!私の芸術活動を認めてくれたのですから!」
「……そうだな。これで、よっぽどの事がない限りは安全だな。バレる事はあるまい」
「所で、夕飯は何ですか?」
「……着いてからソレは決めよう、〈キョロキョロ〉……ヒルデガルト?」
「はい!分かりました!」
今日は彼の者に出会えて本当に良かったと私は改めて思うのであった。