救済の代償

救済の代償


「……さて、今日も行くとするか」

白山紫は日課でとある山に向かっていた。何故行くか?そこには自分の友達の呪霊?とかなんとか言っていた暴猫がいるからである。過去はよく警戒されて大暴れされた者だが長い交流の果てにようやく心を開かせる事ができた。

今日は彼女…石川桜との婚姻の予定の知らせを彼にしに来たのだ。


「おーい!いるか…!?」


紫は足を止めた、彼が感じたのは強烈な匂い…

それも普段の中では料理ぐらいにしか感じた事の無い匂い



血の匂いだ



(まさか…アイツに何かあったのか!?)


紫は走って暴猫の所に向おうとした…だが…その必要は無かった

紫は暴猫の姿を発見した


「暴猫!無事だった…の…か…?」


その言葉は最後まで出る事は無かった

目の前にある光景を信じる事が出来なかったのだろう


紫の目の前に広がっていたのは食い荒らされた石川桜の死体とその死体を貪り食う虎柄のよく見た猫の姿であった


「暴…猫…? それは…なん…だ…?」


「…えっ? 何かって…どう見てもお前の大切な人だろ?」


暴猫はまるで他人事、そして当たり前の事をいうかのように返事をした。


「なぁ…冗談だよな…? そうだと言ってくれ…!!」


「あんまり食事中に話しかけるな…俺…じゃなかった儂は食事中に話しかけられるのんまり好きじゃねぇ…そうだ! 折角だしお前も食うか?」


そう言うと彼はブチっと桜の首を捻じ切りこちらに差し出してくる


「うっ! う…え…」


紫はそれを見て嘔吐した、だが目の前の存在はそれを見て顔を歪めたかと思うと…

紫の顔面を思いっきり殴り飛ばした、その衝撃で紫の片方の目が潰れる


「あ…ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!」


「食事中に吐くんじゃねぇよ!!食欲失せるだろ…全く…」


猫は桜の死体からいくつかの肉を千切り取る


「ほら…吐いたなら腹減っただろ、これやるよ」


「むぐっ!?う…あ…やめ…!」


猫は紫の口にちぎり取った桜の死体を押し込んでいく、少しずつ少しずつ、ちぎり取って丁寧に

そうしていると石川桜の死体は完全に無くなってしまった


「ぁ…あ…あ…」


「いやぁ…それにしても一人で二人分だからお得だったからな、お前もお得な気分に

なっただろ?」


「……え?」


紫の脳に最悪の発想が過ぎる、そういえば…彼女は妊娠していた…!?


「お…お前…!!!」


「いやー赤ん坊ってやっぱり結構美味いな」


その言葉と共に白山紫は猫に殴りかかるがあっさりと躱される


「待て…待て…!!!」


「それじゃ…いやー美味かった」


その言葉と共に猫は走り去っていく

その場には死体すら残らなかった事を示す血痕と蹲る白山紫であった



※※※


「どうしたんだその目!?」


紫は自分の村の元へ帰って治療を受けていた、村はかなり大きいしそこそこ有名なので早く見つかる

だが今回は村中が大騒ぎになっていた、何しろ村の少年が大怪我…そしてある事件によるものであった


「…何かあったんですか?」


「あぁ…それが…猿城の奴らに大切な村の家宝を全部盗まれたみたいなんだ!! それで村長が襲われて…目が覚めないんだ!!」


「…は?」


俺の…父さんが…? この髪と目でも優しく育ててくれた父さんが?


おそ…われ…た?


それに…猿城…


幼い頃に何度も面倒を見てもらった村の人間達に…?


「い…妹は…アイツは無事なんですか…!?」


「あぁ、なんとか村長さんが守ったらしい…ともかく俺達でせめてあの家宝だけは取り返してみせる…!!」


ある村人はそう言って出ていった




※※※


結論からいうと白山村、猿城村、両方に大損害を残す結果となった

何があったのか分からないが殴り合いに発展、結果として村はほとんど残らず残ったのは山奥の村の部分だけであった。


「……はは…は」


沢山の人が死んだ

どうしてこうなったんだ?

俺は…ただ…


「沢山の人の幸せが…見たかっただけなのに…」


何故だ?なんでアイツは桜を殺した?


なんで猿城村の人達は家宝を盗んだ?

そう思った時だった


背後からあるものが俺の背中を触った


「…なん…だ…!?」


目の前にあったのは地面から生える大量の触手とふよふよ浮く一つの白い球体…いや、俺には分かる


「桜と…俺の子供?」


触手は肯定するかのように頷いた。

蘇ったのか…!?


「あぁ…桜…桜…!!」


俺は触手に抱きついて大泣きした


「なぁ…俺は…何を間違えたんだ…!?」


その言葉に答えるかのように桜は俺の頭に触れてある言葉を流し込んだ


「悪だったから…? アイツが悪なのに救ったから…?」


…あぁ、確かにそうだ

悪だった、アイツは所詮どこまで行っても悪だったんだ…!!


それに暴猫だけじゃ無い…! 猿城の連中も悪に染まっていた…何故だ?何故人は悪を成すんだ?


…あぁ、そうか


「違いが…あるからか…!!」


そうだ、違いがあるから人間は悪というものに染まる、個性と欲望があるからいけないんだ


…だったらどうする?俺は何をすればいい?


…そうだ!!


「桜、人間から個性を排除しよう、そして悪を徹底的に消す…そうすればきっと見れるはずだ! 誰もが幸せな姿が…!!」



触手は賛同するかの如く手を握った


こうして俺達は…シラヤマの始まりが誕生した


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