救急懺悔室 IF
いつものように砂漠を歩く。みんなの思い出を背負って歩く。
いつものように『魔王』を倒して、いつものように『勇者』として感謝されて、
いつまでも、終わらない孤独な旅が続く。
そんな時、見覚えのない建物が見えた。
一見すると教会のようだが、チープな作りで、まるで予算が足りない舞台セットのようだった。
そんな教会の扉を開けてみると、中は意外と教会然としていた佇まいだった。
しかし、中には誰もおらず、ただ、妙な形の機械とボタンだけが置かれていた。
あのボタンを押せば、機械が動くのだろうか?ふと気になってボタンを押すと
「ここは、『救急懺悔室』。バッドエンドになってしまった生徒が、自分の何が悪かったのかを懺悔する場所である」
そんな懐かしいような声が聞こえた。
『自分の何が悪かったのかを懺悔する場所』、そんなことを急に言われてもよく解らない。
自分の何が悪かっただろう。…常にそんなことを頭の片隅で考えていたのだが、いつも答えにはたどり着かなかった。
ここで懺悔をすれば、何が悪かったのか解るのだろうか。
私は、妙な形の機械の前で懺悔をした。
「私はここまで、永い間独りで生きてきました。砂漠に潜む『魔王』を倒して、『勇者』として人々に感謝されました。ですが、いくら倒しても終わりが見えません。いったいどうすればいいのでしょうか?」
懺悔というより相談といったような内容だった。そして私は昔の知り合いが教えてくれた祈りのポーズを取った。
デレレーン
しかし
デレレーン
一つだけ分かっていることがある
デレレーン
絶対に赦されることはない
(流れ出すKyrie Eleison)
「?」
突如としてキリエが流れた。
「…ありえません」
永い旅の中でキリエの意味は知っていた。
自分に赦しなどありえないはずなのだ。なのに…
ウィーン
「!?」
突然、下から何かがせり上がってきた。
ウィン(停止)
せり上がってきたのは古くなっていた盾だった。
あの盾は…
「ミネ…師匠…」
忘れもしない。私に『救護の心得』を伝授してくれたミネ師匠の物だ。
その盾を前に、私は泣き出した。
「うわーん!!!ミネ師匠ごめんなさい!アリスは、アリスは…困っている皆を助けたくって!がむしゃらに、何をどうすればいいのかよく解らないまま!アビドスに突貫してしまい、結果、皆の命を犠牲にしてここまで生き残ってしまいましたぁあああ!ミネ師匠から、傷を治す順番を教わっていたはずなのに…『救護の心得』を教わっていたはずなのに…アリスは間違えてしまいましたぁああ!」
私は泣きながら、まるで母に縋るように盾に触れた。
その盾には文字が刻まれていた。
その文字を見て頭の中に思い出がよぎった。
『いいですかアリス?傷の知識も大事ですが、救護にとって一番大事なことをお教えします。いいですか…』
「『誰かを何が何でも助けたいと思うことが救護への第一歩』…」
その文字は、間違いなくミネ師匠のものだった。
『救護とは、救い護ると書きます。それすなわち、誰かを助けるということです。どんな結果になったとしても誰かを助けたいという気持ちに間違いはありません。後のことは助けた後に考えればいいのです!』
そうミネ師匠が言った後、周りから『団長のはやりすぎ』というツッコミが入って笑ったことをアリスは思い出した。
「グスッ、『どんな結果になったとしても誰かを助けたいという気持ちに間違いはない』ですか」
今の私に必要な言葉をミネ師匠は言っていた。私は涙を拭い、いつかのように明るい声で笑った。
「流石師匠です!」
気付いた時には建物も何もない砂漠の真ん中に立っていた。
あの建物はただの蜃気楼だったのか、あるいは『魔王』が私に幻を見せていたのかもしれない。
それでも、大切なことを思い出した。
助けたいという気持ちに間違いはない。ただ、足りなかっただけ。
なら今は足りなかった分、それがどれだけかかったとしても頑張るとしましょう!
そうしてアリスは自分の武器や皆の思い出、そして、傍に置かれていた盾を携えて、いつもの旅へ戻った。
いつの日か、足りないものが埋まるのを夢に見て。
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(SSまとめ)