救出編3 後編

救出編3 後編


「あっ、そろそろ別の映像に切り替わるよ」

そう言って黒猫は映像を別の物に切り替えた

新しく出て来た映像には一人で泣いている私が映し出されていた

周囲の建物は全て崩れており、ガラスや瓦礫の破片が辺り一体に飛び散っている

これは_

「これはアルが初めて人を時の映像だね。これを見ればどうしてたのでアルが今みたいになったのかだいたいわかる筈だよ」

黒猫がそう言い終わった瞬間に映像が流れて始めた

『ぐすっ…ごめんなさい…ごめんなさい…私のせいで…』

足元に置いてある一人の人間だった物に対して必死に謝る私が映っている

その見た目は骨と肉がぐちゃぐちゃになっていて人間本来持っている肌色では無く赤と白、固体では無く液体

「なに…あれ…」

映っている肉塊を見ながらカヨコ達がそう呟く

このまま訳がわからないまま映像を見させられても退屈なだけだろう

疑問を解消するべく私は答えようとするが、それよりも早く先に黒猫が返事をした

「原型留めて無くて誰だかわからないと思うけどあれはアルが殺しちゃった人間だよ」

「社長…なんで人殺しなんかやったの…?」

「アルは別に殺すつもりじゃ無かったんだよね。ただ腕を振り上げただけさ。それだけでこんな大惨事になったんだ」

「えっ…」

驚愕した顔で画面を見つめるカヨコ達

粉々になって吹き飛ばされている戦車や高層ビル、百メートルを超える程の大きな地割れ

どう考えても人間が引き起せる物とは思えないだろう

「約一年半…アルは黒い森で強くなり続けたんだ。

星を軽く壊せる化け物相手に何百回も殺されても尚折れずに努力し続けた。

その結果簡単に人を殺せる様になった。

だから戦闘では常に力をセーブしていたんだ」

「じゃあ今までアルちゃんはずっと手加減してたって事…?」

「そうだね、全力出してたら今頃僕達もああなってたよ」

肉塊を指差しながらそう説明する黒猫

それを聞いてまた怖がられるのでは無いかと思ったが、カヨコ達ももう慣れた様で大して驚かなかった

「でもあの時アルはあの肉塊になってる子に対してかなり怒ってたんだ。

だから、殺すつもりが無かったのに間違って殺してしまったんだよ。

何せあの子はハルカを虐めていた屑だからね」

「えっ、そうなんですか…?」

「うん、イズミって名前なんだけど覚えてるかな?」

「っ!勿論!覚えてます!」

昔ハルカを虐めていたグループの主犯格

ハルカに対する虐めの八割はこいつによる物だった

「自分の何よりも大切な部下をいたぶってゲラゲラ笑ってた奴が英雄気取りで、まるで正義のヒーローみたいな雰囲気だしながら自分を捕まえようとして来たんだ。そりゃ怒りも湧くでしょ」

そう言われて納得した様に頷くカヨコ達

人を殺してるのに理由も糞も無いと思うのだが黙っておく

そんな話をしていると何やら映像の中の私が肉塊に手を突っ込みいじり始めた

「…何をしてるの社長は?」

「あの子を頑張って生き返らせないが色々試してるんだよ。ほら、段々体が回復していってるでしょ?」

言われた通りグチャグチャになっていて液体みたいだった体が徐々に人の形に近づいている

骨や肉の位置もあるべき位置に戻っているし、皮膚も再生していて誰だか判別がつくぐらいには回復している

『よしっ!これならっ…!』

人を殺したと言う事実から目を背ける為、希望を胸に抱いてあの時の自分は必死に手を動かしていた

あの時はまだ純粋に目の前の人間を助けたいと、まるで子供の様な感情にも振り回されていた気もする

もう既に散々人を騙し裏切り傷つけた癖にまだ心の何処かでは甘さが残っていたのだ

『必ず…!助けるからっ…!』

この後何が起こるか知っている私からすればその姿は滑稽でしかない

自嘲のあまり思わず笑ってしまいそうになるのを必死に堪える

『体は治ったから後はこうして…よし!』

どうやら治療を終えた様だ

原型を留めて無かった体は完全に修復されていて傷一つ付いていない

『お願い!返事をしてっ!』

体を揺さぶりながら大声で話し掛ける

私の手で揺らされた体が大きく揺れていた

『ん…んん…』

そして私が頬をペチペチと叩き始めた時、小さく呻き声を挙げながらイズミがゆっくりと目を覚ました

『っ!良かったっ…!大丈夫!?喋れる!?』

まるで縋るようにそう話す私

それに対してイズミは目をパチクリさせて辺りを見渡した後、勢いよく返事をして来た

『大丈夫ですアル様!私はこの通りピンピンしています!!!』

『よかっ__えっ?』

突然様付けで呼ばれた事に困惑する私

それもそのはず、先程までイズミは私に対して暴言を吐き散らしながら詰め寄って来ていたのだ

まるで人が変わった様に突然態度が変わり、ビックリしてしまう

状況が飲み込めて無い私に追い討ちを掛けるが如くイズミは話し掛けてくる

『先程はアル様に対してとんだご無礼を働いてしまい申し訳ございませんでした!なんなりとお申し付けください!このイズミ、命を賭けて償います!』

『へ?え?へ?』

まるで狂信者の如くそう話すイズミに私は戸惑いと恐怖心を抱いてしまっていた

「なにあれ…?なにがどうなってるの…?」

カヨコが困惑しながらそう私に問いかけて来た

私はつい映像に夢中になってしまっていた意識を現実に戻し、返事に迷いながらも言葉を返す

「…何故だかわからないけど私が治療した生物はあんな感じで私に異常な程の忠誠心を抱く様になるの」

「なんで…」

「…わからないのよ。本当に。なんか脳に作用してる事以外全部わからないの」

またも重たい空気が流れて全員が沈黙してしまう

「あくまでこれは僕の考察なんだけどアルがやったのは蘇生じゃ無くて変異なんじゃないかな?」

「どういう事?変異って一体…?」

「ほら、アルが黒い森にいた時戦った相手ってだいたい体を強制的に変異させて眷属にしたりそのまま呪い殺したりしてきたじゃないか」

確かにそうだった

感染系相手には三回程私も殺されているので印象に残っている

一度見たら全身が目玉まみれになって死ぬ、空気を吸っただけでドロドロのスライムに変異させられる、胞子にぶつかったら体が木に変異して即死する…黒い森ではそんな攻撃をよく目にしたものだ

「基本的に黒い森の連中は誰かを助ける、蘇生するなんて優しい事はしない。誰かを助ける暇があったら殺すし、蘇生するのなら眷属にして使い潰すのがセオリーだ」

「まぁ…そうね」

今はみんなだいぶ丸くなっているが確かに昔はそうだった

私が一回全員殺すまでは同士討ち、騙し討ちなどいつも互いに争い、潰し合っていた

「そうだろう。だからアルはイズミを蘇生しようとした時、そいつらをイメージして治療したんじゃ無いかな。自分がよく見た物を無意識の内に再現しちゃったんじゃない?人を蘇生させるやり方は僕は教えて無いからね」

イズミを蘇生する時は確かにあの子達のやり方を真似ていた

なんで私にあれ程の忠誠心を抱くのかわかってなかったが今理解する事が出来た

「なんで蘇生方法を社長に教えて上げ無かったの…?」

カヨコが不思議そうにそう黒猫に問う

言われてみればそうだ

手加減の上手いやり方を書いてある本はあったが、誰かを助けたり、幸せにする様な技を記す本は一つも無かった

「さっきも言ったけど何よりもまずは強くなって欲しかったんだ。最高効率で強くなるのに人を思いやる優しい技なんて不要だからそういうのは本に書いて無いよ」

「…そう、わかった」

カヨコが目を瞑りながらそう言って話しは終わった

ふと映像に見てみるといつも間にかかなり進んでいた

『えっと…つまり…あなたは私の部下になりたいの…?』

『はい!一生懸命、私の全てを賭けてご期待に応えて見せます!奴隷でもなんでも良いんです!要らないと思ったら言って下されば直ぐに死にます!ですからアル様の下で働かせて下さい!』

『……』

映像内の私は黙り込んで考えていた

突然色々な事が起こって状況が飲み込めていないのだ

『それじゃあこれから質問をするからそれに答えて頂戴。話はそれからよ』

『…!わかりました!』

『あなたは本当にイズミなの?ハルカを虐めてた事…覚えてる?』

『はい。私は正真正銘イズミです。ハルカ様を虐めていた事も覚えています。あの時は本当に申し訳ございませんでした!』

その言葉を聞き映像内の私とハルカ達は大きく驚いた

最後まで決して自分の非を認めなかったあのイズミが土下座し、地面に頭を擦り付けながら謝っていたのだ

動揺を押し殺しつつ、次の質問をする

『どうして急に私と働きたいなんて言い出したの?あなた、あれだけ私の事嫌っていたじゃない』

『今までの私は愚かでした。アル様を逆恨みし、アル様の溢れ出るカリスマに嫉妬し、それでいて指名手配されているアル様を見下して…

人以下、そこらに落ちている生ゴミよりも劣るそんな私をアル様は生き返らせてくれたのです!

今の私には感謝の念しかありません!』

『そ、そう…わかったわ…それじゃあ最後の質問なんだけど…』

少し間を置き改めてイズミに向き合った後、話をする

『本当に私なんかと一緒に働くつもりなの?

正直に言うと私、あなたの事は大っ嫌いよ

幾ら生まれ変わって別人みたいになってもハルカを虐めた事は絶対に許さないわ

仮に部下になったらゴミの様に扱って、死ぬまで使い潰すわよ

睡眠も食事も碌に取らせないでずっと働かせるわ

それでも良いの?』

一応、演技の可能性もあるので厳しい事を言う

これでもついてくるのなら、信頼してもいいだろう

『良いです!全然問題無いです!アル様の下で働けるのであればそれ以上は何もいりません!』

『そう、なら良いわ。あなたを新たな私の部下として迎えてあげる』

『!!!ありがとうございますっ!アル様っ!』

喜びの余り泣きながら感謝してくるイズミ

喜んでいるイズミとは対照的に、私の心は酷く憂鬱な気分になっていた

前のイズミでは絶対にしないその行動を見て、私が人を殺した、人の人生を終わらせたという自覚を、責任を感じていた

罪悪感の余り吐き出しそうになるのを必死に抑えながら平常を装って話していく

『あぁ、言っておくけど裏切ったりしたら死ぬより酷い目に合わせるから』

『裏切るなんて…そんな事しません!』

『本当?人殺しの屑相手に愛想を尽かして勝手にいなくなったりしない?無能だからって失望して離れていったりしない?』

一人でいなくなったハルカとムツキを思い返しながら私はそう忠告する

幾らイズミといえども、もう部下に見捨てられるのは嫌だ

『何があっても絶対に離れないです!約束します!

もし信用できないのであれば体内にマイクロチップを埋め込みます!

人殺しかどうかなんて関係無いです!

アル様に逆らった私…屑なんて人間じゃありません!アル様と便利屋の方々以外の人間なんて等しくゴミ以下です!』

それを聞いて私は一瞬呆然とした後、突然狂ったように笑いだした

『ふふっ、ふふふふふ!!あははははははっ!

人間じゃない…良い響きね!

そうよ!腕振り上げただけで死ぬ様な奴らが私と同じ種族な訳がないじゃない!

この世に人間は私だけ!それで良いじゃない!あはははっ!』

『さぁ着いて来なさいイズミ!まずは私の部下として相応しくなれる様しっかり教育してあげる!』

『はいっ!ありがとうございますっ!』

爽やかな笑顔で便利屋の事務所へ転移する私とイズミを映した後、プツンという音と共にそのまま映像が途切れた

辺りは静けさに包まれており、思わず気まずくなってしまう

そうこうしているとカヨコが話かけてきた

「…社長、質問してもいい?」

「良いわよ、なんでも答えるわ」

「…社長は一体どれだけ罪を犯したの?

辛いとは思うけど、全部話して欲しい」

「銀行強盗23回、会社潰し56社、警察潰し7回、シャーレ等大組織への殴り込み20回、82人を殺害、5043人を洗脳したわ」

「それだけやって心は痛まなかったの?社長がそんな事…」

「もちろん最初は痛んだわよ。でも段々と慣れていくの」

「一度人を殺したりすると次も、そのまた次も…って、そうね…困難に直面した時に殺すという選択が日常的に入って来るの

どんな面倒な奴でも殺してしまえばそれで終わりだから」

カヨコは私の言葉を聞いた後、少し悲しそうな顔しながらまた聞いてくる

「なんで…最後笑ってたの?イズミを助けてた時はあんなに悲しそうな顔してたのに…」

「…なんか、もう色々吹っ切れたのよ。罪に向き合うのが余りも辛くて」

ふと見てみるとカヨコだけで無くムツキとハルカまでもが私の話をいつに無く真剣に聞いていた

「情け無い話よ、私は、人を殺した。取り返しのつかない事をしたという事実を受け止められなかったの。襲ってくる恐怖、不安、罪悪感を受け入れず、私自身を飲み込んだの」

「…アルちゃんはそれで良かったの?」

「今は後悔してないわ。こうしてまたあなた達と話せてるから…」

「…そっか」

ぽつりとそう呟くムツキ

その表情は同情と後悔など色々な感情が入り混じった複雑な顔をしていた

「…そろそろ別の映像に切り替わるよ」

私達が話終えるとすぐさま次の映像が流れて来た

映像には私が雪の上で横たわっているのが映されている

『死にたい…死にたいのに、死ねない…』

雪が降りしきる中、私の声が虚しく空に吸い込まれる

「社長…今度はなにをしてるの…?」

「見ての通り、自殺しようとしてるの。まあ結局出来なかったけど」

「なんで…?さっきはあんなに楽しそうにしてたのに…」

「限界が来たのよ。

周りの奴は人間じゃない、自分は間違っていない

そう思い込んで偽りの狂気で自分を騙し続けた。

それでも心はどんどん荒んでいった。

日々増えていく社員達は皆キラキラした綺麗な目をしながら私に期待してくれていた。

それに応えない訳にはいかなかった。

勝手に洗脳したのだからせめて期待してる分くらいは応えてあげなきゃ。

そう思っていたの」

「社長…」

同情した様な目で私を見るカヨコ

そんな目を向けられたら罪悪感が湧く

部下の為とか言ってるが結局は全部私の自己満足でしか無い

私の行った悪行が返って来てるだけで自業自得なのだ

「いや…あの子達の為だけじゃない。

私の為でもあったわ

アウトローになったら………

世界一のアウトローになったら欲しい物全てが手に入る

あなた達の様な人間に出会えると思ってたの…」

「だから私はどれだけ苦しくても進み続けた

そして私は世界一のアウトローになった

期待してた通り、あなた達より強くて賢くて性格もいい素晴らしい子に出会えたわ

でも、駄目だった

私の空っぽな心は少しも満たされなかった

少しも楽しくなかった

カヨコじゃなきゃ、ムツキじゃなきゃ、ハルカじゃなきゃ駄目なの

私の心を満たして、幸せにしてくれるのはあなた達しかいないの」

「それに気がついた瞬間、全部が馬鹿らしくなったの

自分の信念を捨てて、人を傷つけ、洗脳して、挙句の果てには殺してまで得たかったのはこんな物だったのか?

あの日夢見た景色はこんなにも虚しい物だったのか?

そう思うと生きる気力が湧いてこなくなったの

なにもしたくない、誰とも話したく無い

死にたい

ただ死にたい

もう部下からの期待なんてどうでもいい

ただ楽になりたかったの」

静まり帰った空間に私の声だけが響く

「改めて思うと最低ね、私

勝手に殺して、洗脳した挙句責任も取らずに一人で楽になろうとするなんて…」

ふと見てみるとカヨコは泣きそうな顔をしていた

いや、カヨコだけじゃなくムツキとハルカも泣きそうになっていた

本当に優しいなぁ…

こんな私にすら同情してくれるなんて…

そう嬉しく思っていたら画面から声が流れて来た

『神様…私はただカヨコと、ムツキと、ハルカと、もう一度会って話したいだけなんです』

『たった一瞬でも良いんです。一秒でも良いんです。だからどうか、お願いします』

誰もいない、どこまでも真っ白な空を見上げてそう呟く私

当然だれも居ないのに返事が返ってくる訳も無くただただ沈黙が辺りを支配していた

真っ黒な死んだ目ををしながらピタリと動きを止め、ただ雪の上で横たわっていた

そうしてじっとしている事約五分、

突然私は大声を上げながらのたうち回った


『やだやだやだやだ!やーーーーーーーだーーーーーーーーーーーーーっ!

なんでなんでなんでなんでなんでなんで!!なんで会えないのーーーーーー!

会いたいいいいいいいいいっっっっっ』

ゴロゴロと雪の上を転がりながら一人で暴れる私

この時の私は寂しさのあまり発狂してしまっていたのだ

『はやくカヨコに会ってたくさんおはなししたいのーーーー!

ムツキといっしょにいたずらしてあかいおはなさかせたいのーーー!

はるかとつちにあっていりまじりたいのーーーっっっ!

 ぇ゛ ぁ゛  ぁ゛  ア   ア ア 』

突然、私の体異常な程膨らんだかと思ったらそのまま弾け飛んで映像は終了した

「……」

恥ずかしさの余りカヨコ達の方を向けない

こんな惨めな姿を見せてなんになると言うのか

そう思って黒猫を問いただしてしまう

「あとどれくらいでこの映像は終わるの?もうこれ以上無様な姿は見せたく無いのだけど…」

「次で最後だからそれまで頑張って耐えてくれよ、ほら、もう始まるよ」

先程とは違いすぐ映像が再開した

映像には血まみれの風呂に浸かり呻き声を上げている私が映っていた

体には無数の穴が空いており、そこにチューブを繋ぎ拷問用の毒を入れていた

夥しい量のチューブに繋がれながら私は苦痛に顔を歪める

『痛い…苦しい…』

「えっ、こんな所まで撮られてたの…?」

「うん。ごめんね、

でも最近のは撮れてないから安心して

この時は結界とか張って無かったからまだ撮影したり覗き見出来たんだよ…今やったら逆探された後晒し首にされるだろうけどね」

「流石にそんな事しないわよ…」

黒猫と話終えた瞬間、映像内の私が喋り始めた

確かこの時は史上最悪のアウトローとして世間から周知され、最も私が畏れられていた時だった

『カヨコ…見てる?私…あなた達の分まで苦しむね』

この時の私は自作の拷問装置で自分を痛めつけるのが趣味になっていたのだ

苦しめば苦しむ程、私が行った罪が赦される様な気がして、自分を包む苦痛を愛おしく感じていたのだ

今思えば一番この時がとち狂っていたと思う

『っ゛ぁ゛!? ふーっ!よし…これで1000回目…』

電撃、熱、毒…

この世のありとあらゆる苦痛を味わった後、

私はカヨコ達が写っている写真立てを見ながら一人で喋っていた

『いつか…いつか死ぬ事が出来たら…あなた達にもう一回…会えるのかしら…?』

黒い涙を流しながら私はそう呟く

無意味だとわかっていても口を止める事は出来なかった

『ふふっ…馬鹿ね…人殺しておいて天国に行ける訳無いじゃない…地獄で受ける苦痛と今私が味わってる苦痛…どっちの方が苦しいのかしらね…?』

寂しさを紛らわす為、返事もしない写真に向かってずっと喋っている

そうして三分程度喋った後、私はいつも通り思い出に耽っていた

『楽しかったなぁ…あのときは…』

依頼をこなそうと突っ走る私に突っ込みを入れてくれたカヨコ

いつも私に悪戯を仕掛けてくれたムツキ

先陣を切って戦ってくれたハルカ

どれもこれも大切な、素晴らしい思い出だった

『なんで…私は…いつまで経っても諦められないんでしょうね…情け無い…』

そう自分の事を惨めに思って薄く笑っていた時、部屋の扉がノックされた

コンコンという音と共に少女の声が私がいる部屋に響き渡る

『アル様〜?』

『っ!ちょっと待って頂戴!今出るから…』

急いで体につけているチューブを全て取り外し、体を治した後、すぐ扉をすり抜けて外に出る

目の前にはピンク髪の幼い少女がいた

倒れている所を助けてあげてそのまま部下にした子だ

名前はネルコと言い、主に戦闘に関する業務を担当している

『っ!なにっ!?どうしたの…?』

ついさっきまで自分を痛めつけていた事を悟られない様、平静を装いながら話しかける

『昨日ヨモギ先輩にプリンを渡したんですけど…実は賞味期限切れてて、先輩、今凄くお腹壊してるんです…』

バツが悪そうにそう話すネルコ

『ええっ!?どうして確認しなかったの?』

『一応確認したんですけど…賞味期限まで後3日だと思ってたら一年前の3日後だったんです…

私がプリン食べてたら先輩が羨ましそうにチラチラ見てきたから…あんまり確認せずに渡しちゃいました』

申し訳無さそうにしながらネルコはそう伝えてくる

『なるほど…えっ、ネルコは大丈夫なの…?』

『私はお腹強いんで大丈夫です』

『凄いわね…』

ネルコのお腹の強さに驚いていたらネルコが私に抱きつきながら話して来た

『あの…!もしよかったら一緒に謝ってくれませんか!一人だと怖くて…』

一瞬自立させる為、一人で謝らせようと考えたが、わざわざ私を頼りにしてくれたネルコにそんな態度を取るのは余りにも可哀想なので私も謝りに行く事にする

『わかったわ。一緒に謝ってあげる』

『やった…!ありがとうございますっ!アル様っ!』

心の底から嬉しそうに笑顔を浮かべながらネルコは飛び跳ねている

『別に良いわよ。間違いだとしても悪い事をしたら謝るなんで偉いじゃないの。

でも、次からちゃんと気をつけなきゃダメよ?』

『はい!気をつけます!』

『よし、それじゃあ行きましょうか!』

元気に返事をするネルコを見て優しく微笑みながら私はヨモギの元へと向かう

『またね、カヨコ…』

最後にそう誰にも聞こえない程小さな声で呟く私を映し映像は終わった


「………」

私はただ黙るしか無かった

こんな物を見せられてどうしろと言うのだ

私への印象が下がる様な物ばっかりじゃないか

いくらカヨコが優しくても流石にこれは許容出来ないだろう

きっとカヨコは私の事を気持ち悪い、アウトローというよりただの屑と内心思っているだろう

そう思っていたら何やら泣き声が聞こえて来た

「ひぐっ…社長…」

「…?」

真横からなにやら泣き声が聞こえて来たので、疑問に思いカヨコを見ていると大泣きしていた

手で押さえているのにも関わらず地面にまで涙が溢れ落ちており、どれだけ泣いていたのか察する事ができる

よく見るとカヨコだけでなくムツキとハルカも泣いていた

「???えっ、カヨコ…?ムツキ、ハルカまで…なんで泣いてるの?」

本当に訳がわからずそう聞いてしまう

さっきの映像に泣く様な場面があるとは思えない

「あんなに殺されて、一人で苦しんで、狂って…可哀想なのに…

それなのに、それでも社長は人に優しくする事が出来るんだって思うと…」

別にそんなに同情されたり悲しむ程の過去では無いと思うが…

「ぐすっ、ごめん…ごめんね社長…碌に事情も知らない癖にひどい事言っちゃって…」

「???いや、全然大丈夫よ。全部私が原因だし…」

酷い事とは何の事かわからないけど取り敢えずカヨコ達を慰めようとする

「違う!私があの時捕まらなかったら…私が社長の側にいたら…

きっと社長は今も楽しく過ごせた…私が…私のせいで…」

「それを言ったら私だって…ごめんアルちゃん…」

「ごごごごめなさい!私だって捕まってしまって…」

「ちょっと待ちなさい!なんであなた達が謝るのよ!?」

一斉に謝ってくるカヨコ達にどうして良いのか分からず叫んでしまう

「別に君達が謝る必要は無いよ、仕方がなかったじゃないか」

私がどう話せば良いのかわからず困っていた時黒猫が話して来た

この嫌な雰囲気を変えてくれるのかと期待してしまう

「一番責められるべきなのは僕だよ

僕は君達と違って頑張る事すらしてなかったんだ

もっと僕が早く動いていたらこうはならなかった筈さ

やれたのにやらなかった僕が一番の戦犯だよ」

黒猫、あなたもなの…

もうこれ以上誰が悪いなんて話はしたくないので違う話題に切り替えようとする

(……私に同情してくれてる今だったら一緒に帰って来てくれるんじゃない?)

そう思い、希望を抱いてカヨコに話す

「カヨコ…よかったら帰って来てくれない?」

お願いだから帰ってきて

そう強く思いながらカヨコに話す

「うん…!私、帰るよ!だから、ずっと一緒にいさせて…!」

泣きながらそうカヨコが頷いてくれた

その言葉を聞いた途端に私は大声を上げながら喜び飛び跳ねていた

「っーーー!やったっ!!ありがとう!!!カヨコ!!!!!」

やった!カヨコがついて来てくれる…!

喜びの余りカヨコに抱きついてしまう

あとは現実世界に帰れば良いだけだ

それさえ出来れば全員助けられる

そう考えて黒猫を見ると黒猫も察してくれたようで帰る準備をすぐに整えてくれた

「良し!それじゃあ僕に触って、そしたら元の世界に戻れるから」

「わかったわ………ありがとう」

黒猫の言う通り私達は黒猫の背に触れるとまた眩い光に体が包まれた



「カヨコっ!!!」

一番早く目覚めた私はすぐさまカヨコの元へと駆け寄る

すると、カヨコも小さく呻き声を上げた後、目を覚まし、私に返事をしてくれた

「ただいま、社長…遅くなってごめん」

「良いのよ!良かった…本当に良かった……!!」

勢いよくカヨコに抱きついて

服にしわが出来る程強く抱きしめてしまう

心臓の鼓動、筋肉の動きを素粒子レベルで確め、あの時のカヨコと同じ事を確認する

本当に戻って来てくれたのだ

嬉しい

心臓が張り裂け頭が破裂しそうな程喜びが私を満たしていた

「…っ…んん」

小さく呻き声を上げた後、ムツキとハルカも目を覚ました

名残惜しいが一旦カヨコから離れてムツキとハルカの元へと向かう

「ムツキ!ハルカ!大丈夫!?」

「うん!大丈夫だよ!」

「私も大丈夫です!」

良かった…

みんな無事に帰って来れたらしい

黒猫も喜びの余り叫びながら高速回転している

「やった…遂に…」

ようやく全員助け出す事が出来た

またみんなとこうやって話せている

私の努力は決して無駄じゃなかった

そう思うと嬉しすぎて不思議と涙が出てしまう

「っ!?アルちゃん大丈夫!?」

声を上げて泣いている私に心配し、駆け寄るムツキ達

私を心配してくれるその様子を見て更に泣いてしまう

「ぐっ…んっ…ごめんなさい…嬉しすぎてつい…」

「泣きたかったらどれだけでも、いつでも泣いて良いんだよ…社長は、あんなに頑張ってくれたんだから…」

「ぅっ、ぐずっ…ありがっ…ひぐっ!」

カヨコが優しく私を慰めてくれているのに声が裏返って返事が出来ない

そんな様子を見てムツキが抱きついて来てくれた

「え〜い!」

後ろから腰に抱きついて私を慰めてくれる

後に続くようにカヨコ、ハルカと私に抱きついて来たので、私は全身で彼女達を受け止める

涙と鼻水でカヨコの着ている服が濡れてしまっているが、カヨコは気にせず優しく私に笑いかけてくれていた

ああ、久しぶりに暖かさを感じる

本当に懐かしい…

ドス黒く濁り汚れた魂が白く洗い流されていく

リーダー、アウトロー、社長としての皮が削れ、ただ一人の子供としての内面が外に漏れ出す

殺していた感情がどんどん蘇り、あの頃の私に戻ってしまう

何千、何万回と夢みた景色がそこにあった

「ありがとう…本当に…」

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