救出編3(中)

救出編3(中)


「ここがカヨコの心の中なのね…」

光が収まった後、辺りを見渡すと目の前には白黒の淡白な空間が広がっていた

空には昔私が書いた一日一惡の文字やムツキが作ったビックリ箱、ハルカが育てていた雑草やカヨコがよく使っているイヤホンなど様々な物が浮かんでいる

地面に白い光のカーペットのような物が続いているのでとりあえずその上を進んで行く事にする

そうして歩いていたらやがて小さな人影が見えて来た

「あっ、いたよアルちゃん!」

ムツキが指差す方向を見てみるとカヨコが蹲っているのが見えた

「カヨコ!」

私達は駆け寄る

「えっ、社長…?ムツキ、ハルカまで…なんで…」

私達に気がついたカヨコは顔を上げてこちらを見て来た

その様子からは先程の様な違和感は感じない

「遅くなってごめんなさい、あなたを迎えに来たの。帰りましょう。カヨコ」

笑顔を作りながら優しくカヨコにそう話し掛ける

しかしカヨコの表情は変わらず曇ったままだった

「……ごめん、社長…無理だよ…私が今更便利屋に戻るなんて…」

後悔や絶望、不安や心配など様々な感情を抱え込んだ様な表情をしながらこちらにそう話すカヨコ

出来る限り傷つけない様に気をつけながら、また話しをする

「どうして?理由を聞かせて貰える?」

「だって…私は、便利屋にふさわしくない…あんな男に媚び振って…社長達にあんな態度とっちゃって…」

ああ、そう言う事か

優しいカヨコの事だ

きっと自分が罪を犯したと、私達を傷つけたのだと勘違いしているのだろう

こんなになるまで助けられなかった私が全部悪いのに

「カヨコは悪くないわ!今まで助けられなかった私が全部悪いんだから!それぐらい全然気にしないから大丈夫よ!カヨコが戻ってくれれば私はそれでいいの!」

「私もなんとも思ってないから!だからほらっ!一緒に帰ろう!」

「私もです!だから顔を上げてください!」

「君から貰った猫缶が今まで食べてきた中で一番美味しかったんだ!一緒に帰ってまたご馳走してくれよ!」

全員で説得するが、カヨコの表情は曇っていく一方だった

そして泣きそうになりながら内心を吐露して来た

「でも…!私、怖いの…!また男の人に無理矢理酷い目にあわされるんじゃ無いかって考えると…」

体を震わせながら吐き出す様にそう話すカヨコ

その様子からどれだけカヨコが追い詰められているのが理解できる

それもその筈だ

あれだけ屑供に心も体も犯され、痛めつけられて来たのだ。平気でいられる方がおかしい

恐らく心にトラウマを植え付けられているのだろう

それならばと私は決意しながら口を開く

「わかった、ここから出たらキヴォトスの全ての男を皆殺しにしましょう」

一番手っ取り早いトラウマの治し方

要はトラウマの対象となる物を全て壊してしまえばいいのだ

人間、物質、幽霊、不死者、神、空間、概念

どんな奴でも殺してしまえばそれで終わりだ

死んだ物に対しては恐怖心も感じずらくなる筈

それでカヨコが少しでも元気になってくれるのであれば私は幾らでも罪を犯そう

「なっ、なに言ってるの社長…?そんな事、出来る訳…」

「出来る、断言できる。私一人でキヴォトスの生物全員殺せるわ」

私の発言を聞いて戸惑っているカヨコ

恐らく私の事を信用できないのだろう

確かに口だけだったらなんでも言える

それならばと私はその証拠となる物を用意する

「ほら!見て頂戴、こんなに凄い物まで手に入れたのよ」

そう言って私は異次元ボックスから様々な武器や装置を取り出して説明する


聖槍ロンギヌス、聖剣エクスカリバー、ジャスティティア、笑顔、黄昏、失楽園、次元圧縮装置、世界破壊爆弾、システム:シルフV2、ノーム/ガイアGH、ウンディーネレーザー穿式、サラマンダー終式カノン、ワールドブレイカー…


どれも世界を滅ぼせる程の力を込めた一級品だ

これならばカヨコも納得してくれるだろうと思ったが、それでもまだカヨコの表情は変わらないままだった

「だったら…」

ジャスティティアを手に持ち私の頭に向かって思いっきり突き刺す

頭骨がひび割れ、ヘイローが砕け、剣が頭を貫通して辺りに肉片が飛び散る

「なにしてるのアルちゃん!?」

「社長!?」

「アル様!?」

三人とも相当焦った様子で私を見て来る

突然私が自殺している様に見えて驚いているのだろう

「カヨコ、これを見て頂戴」

口が裂けていて声が出せないので空間を支配し空気を振動させて話しをする

次は腹を切り裂き内面を見せつける

そのまま心臓を握り、引きちぎりながら体外に出して笑みを浮かべる

「どう?凄いでしょう!訓練したおかげで内臓が無くても生きていける様になったの!」

どうだ

これならば私の凄さをわかってくれただろう

そう期待を込めつつカヨコ達の方を見てみたら三人ともドン引きしていた

ムツキでさえ顔を引き攣らせながら苦笑いしている

どうして…?

あの子達は凄いって褒めてくれたのに…


私は若干焦りつつも心臓を押し戻し、肉片を回収し、ヘイローを修復した後、体を元の形に戻しながら次の手を打つ事にする

そうだ、あの子達を紹介すれば私の事を理解してくれるかもしれない

「紹介するわ!私が異世界、そしてキヴォトスを荒らし回った時に一緒に戦ってくれた仲間達を!」

私の体からドロドロとした液体が吹き出る

ビチャビチャと音を立てながら地面に滴り、やがて二つの形を作っていく

一つは、体は全身真っ黒で、それでいて目は緑色をしていて可愛らしくも美しい少女を形取ったスライム

もう一つは綺麗なピンク色をしていて、頭からは可愛いらしいアホ毛が生えていて、まるで少女の様な見た目をしている先程とは違った可愛さ全振りのスライムが私の両隣に現れた

「にゅふふ〜外に出るなんて久しぶりだね〜」

「わ、あわわ…」

ゆっくりと背伸びをするシヨ

私の足に体を絡めながら後ろに隠れるラブ

「こっちのピンク色の方がラブ、こっちの黒色の方がシヨ。二人ともとっても強いのよ」

「よろしくね〜便利屋のみんな〜」

「よ、よろしくお願いしますっ!」

カヨコ達の前にズルズルと移動し手を振りながら挨拶するシヨ

それに合わせる様にラブも急いで礼をしながら挨拶をする

するとシヨがムツキの近くにまたズルズルと移動し親しげに話し掛けた

「君がムツキちゃんかな〜?」

「えっ、あっ、うん…」

シヨが放つ独特の雰囲気や威圧感に毛落とされながらボソボソと喋るムツキ

「良かったぁ〜にゅふふ〜アルから聞いた話通りの見た目だね〜とっても可愛くって素敵だよぉ〜〜〜」

「ありがとう…えっと…シヨちゃんはアルちゃんとよく話してたの?」

ニコニコしながら話すシヨに対してムツキも少しずつ慣れてきた様で段々と声のトーンが上がっている

「まあねぇ〜一時期は毎日一緒に遊んだり話してたよぉ〜最近はほぼずっと合体してるからあんまり話してないけどねぇ〜〜」

「そうなんだ…」

「アルちゃんすっごく自慢してたよぉ〜〜君達は最高の部下だった。君達と一緒にいたときが一番楽しかった。幸せだったてねぇ〜〜〜」

「ちょっと!あまり恥ずかしい事言わないで頂戴!」

それを聞いて少し楽しいそうに笑い安心するムツキとハルカ

「そっか、そんなに私達を…くふふっ!嬉しいね」

カヨコの心の中に入って以来、初めてムツキとハルカが笑っていた

先程までの緊張した雰囲気が穏やかな物に変わっていく

心なしかカヨコも表情が柔らかくなっている気がする

シヨとラブの説明をするのなら今しかないだろう

そう考えて私は口を開く

「それじゃあこれからこの子達の説明をしていくわね」

「ラブは人間、機械…まぁ大体なんでも感染させる事が出来るの、それで一度感染させたら感染した対象をいつでもどこでも好きな時に眷属にする事が出来るの。感染した対象からまた更に感染させる事も出来るわ。眷属にした相手は意のままに操る事も出来る。

その気になればキヴォトスを一瞬で滅す事だって可能よ。

おまけに攻撃を喰らえば喰らう程強くなる。だからタイマンでもデカグラマトン位だったら余裕で勝てるわ。というか勝てたわ。凄いでしょう?」

「えへへっ、褒めてくれてる…嬉しい…」

ラブの触り心地の良い頭を撫でながら私は紹介する

照れながらスリスリと体を擦り付けてくるラブ

その様子を見て顔を綻ばせながらも、

シヨがラブに嫉妬して頬を膨らませていて今にもちょっかいを掛けそうなのでシヨの紹介をする

「シヨはラブみたいに感染させたりするのは出来ないけど、その分純粋に強いわ。素のスペックだけで星を一瞬で滅ぼせるの。

攻撃だけじゃなくて、ありとあらゆる干渉を吸収して強くなる事が出来るし…

トリニティを襲撃した時は大活躍だったわね」

「にゅふふ、あの時は楽しかったね〜」

さっきまでの不機嫌そうな表情が嘘の様に晴れやかな笑顔を見せるシヨ

「えっとアルちゃん?なんでこれまでその子達を出さなかったの?」

カヨコが絶句している中、ムツキが話し掛けてきた

「力が制御出来ないのよ。ラブは戦闘形態になったら辺り一体感染させちゃうし、シヨは攻撃する時に加減を間違えてあなた達に当てちゃうかも知れないし…」

二人とも多次元解釈バリアなど易々と貫通できる程の力を持っている

万が一の時の事を考えると怖くなり外に出してあげられなかった

「そっかぁ…」

諦めた様にそう呟くムツキ

カヨコがなんかすごくラブとシヨを怖がっている様な気がする

こんなに可愛くて良い子なのに…

仕方ないのでシヨ達とまた合体する事にする

「ラブ、シヨ…悪いのだけど私の中に戻ってくれないかしら?」

「えぇ〜…んー、まぁいいか〜次はもっと話そうね〜ムツキちゃん〜」

「うん!またね!」

ラブとシヨと合体し終えた後、私はカヨコに話し掛ける

「どう、カヨコ?これで今の私の強さを理解してもらえたかしら?」

「う、うん…それはわかったけど…本当に、私なんかが…」

「カヨコ、貴方は世界で一番大切な私の社員であり家族よ。自分を卑下しないで」

「うん…」

苦しそうに頷くカヨコ

この調子だとまだ戻ってはくれなさそうだ

「カヨコ、あなたに見せたい物があるの」

私は異次元ボックスからカヨコが好きだった思い出の品を取り出していく

「社長…!?なに、えっ?」

「ほっ、ほらカヨコ!見て頂戴、貴方が好きだったバンドのチケットよ」

まず取り出したのは私が買い占めたチケット約一万枚

新しい社員達に買い占めさせた物だ

これだけあればカヨコも満足するだろう

「あ、アル様…どうやってこれだけの数を…?」

地面に散らばるチケットを心配そうにハルカが聞いてくる

「ああ、もしかしてお金の心配をしているのかしら?それだったら大丈夫よ」

異次元ボックスに手を突っ込み大量の札束を取り出す

取り出す際、帯封をわざと外してアピールする様に札をばら撒く

空中に大量の札がヒラヒラと舞い散り地面に散らばる

使わないと思い十億程しか持ってきていなかったが、それでもインパクトといては十分だろう

「なっ…!?」

驚きの余り固まるカヨコ達

どうやらからりビックリしているようだ

「ごめんなさい、要らないと思ってこれぐらいしか持って来て無かったの。もちろん帰ったらもっとあるから安心して!」

「なんで…どうやって…」

「それはちょっと銀行を襲ったり会社潰したりして…」

「なにやってんの社長…!?」

カヨコ、ムツキとハルカまでもが驚いた表情をしながらこちらを見てくる

もしかして全部強盗で稼いだと思っているのだろうか

「いやいや、勘違いしないで頂戴!もちろん銀行強盗だけで全部手に入れた訳じゃ無いわよ!

あなた達がいなくなった後、新しい部下達と一緒に真っ当に働いてみんなで稼いだんだから!」

「そうなんだ…ならまだ安心出来る…それにしたって凄いね。社長とその新しく入って来た人達。こんなに稼げるんだ…」

「脳味噌弄って洗脳してるから大体私の言う通りに動いてくれるのよ。ある程度体を改造させて貰ってるからみんな頭もいいし力も強いの」

「へぇー…うん?

いやちょっと待って脳味噌弄るってどう言う事!?何してるの!?」

私の言葉を聞いた瞬間さっきまで落ち込んでいたのが嘘の様に物凄い剣幕でカヨコは問い詰めて来た

カヨコだけで無くムツキまで問い詰めて来る

まずい、つい口を滑らせてしまった

カヨコが帰って来たら言うつもりだったのに…

今更嘘をついた所で騙せる気もしないので正直に答える

「事業が大きくなるにつれて私に逆らう奴らが増えて来たの。いちいち相手するのも面倒だから邪魔する奴らの脳の感情を司る部分を弄って私への忠誠心を上げて、強制的に部下にしてるの」

「なんで…どうやって…」

「デカグラマトンと百鬼夜行のでっかい犬、あと異世界の技術を使って…」

「……………」

頭を抑えて目を瞑るカヨコ

まずい、本当にまずい

カヨコが帰って来てくれないかも知れない

ただでさえ追い詰められていたのに私がトドメを刺している様な気がする

冷静に考えてみたら碌に部下を守れず人を傷つけて洗脳しまくってる私なんかに着いて来る訳が無い

もう恥も外聞もかなぐり捨ててカヨコを説得する

「きっ、聞いて頂戴カヨコ!」

なんとか今の私の良さをアピールして説得しなければ

「事務所に帰れば一生遊んで暮らせる分のお金があるわ。もう一つのラーメンを四人で食べたりする必要も無い、毎日好きな物を好きなだけ食べて、好きなだけ遊んで良いのよ…?」

今の私だったら金、権力、武力…そんな物、幾らでも用意できる

それを理解してくれればカヨコも戻って来てくれるだろう

「カヨコが好きなバンドのメンバーを招いて専属の社員にする事も出来るわよ!そしたら毎日ライブを楽しめるわ!最高級の設備、イヤホンも買ってあげる!」

カヨコの表情は相変わらず固いままだった

必死に説得する私に戸惑っている様に思える

「そうだ!カヨコ専用の大豪邸を建ててあげましょう!召使いもちゃんと用意するわ!

寝る時はふかふかモフモフのベットで好きなだけ寝ていいし、体を動かしたくなったら近くのスポーツセンター貸し切りにしてあげるから!

なんでもっ!なんでも用意するからっ!!!」

これだけ言ってもカヨコは表情を変えずただ黙って私の話を聞いてるだけだった

もうどうすればいいのかわからずカヨコの肩に手を置きながら消え入りそうな声で話してしまう

「私と一緒に居てくれるだけでいいの…

それだけで良いのよ…

もう働かなくて良いし、ずっと養うから…」

やめて

そんな目で私を見ないで

「だっ、大丈夫ですかアル様…?」

落ち込んでいる私を見て心配そうにハルカが話し掛けてくれた

カヨコばかり見ていて周りを確認していなかった

そうだ、ハルカにもムツキにも私がちゃんとアピールしなければ

「ハルカ、もちろんあなたにも私の全てを捧げるわ!嫌いな奴が居たら言ってくれればすぐ殺してあげる。トリニティを壊した後に綺麗なお花畑にするなんてどう!?」

「えっ、アル様…なに、言って…」

私はもうあの頃の自分とは違う

事業も成功して、沢山の人間を踏み潰し立派なアウトローにもなって、強くなって、人間である事でさえやめたのだ

前の金も力も権力も何も無い自分からここまで成長したのだ

「ムツキ、私と一緒なら好きなだけ遊べるわよ!もう私に逆らう奴なんてキヴォトスには先生しかいないから…

毎日男供を捕まえて殺戮ショーを開きましょう!きっと楽しい筈よ!」

「何言ってんのアルちゃん!?」

カヨコだけで無くムツキとハルカまで化け物を見る様な目で私を見て来る

どうして…私はただあなた達に喜んで欲しいだけなのに

「私、頑張ったのよ…?夢も自分も理想も先生からの信頼も何もかも捨てて…」

「書類を偽造して金を毟り取ったわ」

「罪の無い人の脳を弄って無理矢理洗脳して、働かせて、大勢の人を不幸にしたわ」

「連邦生徒会を襲撃した事もあったわ。キヴォトスで怪しい場所は大体襲撃したわね…」

これまで犯した罪を懺悔する様に言葉を吐き出していく

「なんで…そこまで…」

「あなた達を殺した奴らに復讐がしたかったから…復讐を終えたら、この真っ暗な闇から抜け出せる。楽になれる。また笑える。そう思っていたの」

もうカヨコ達はどこにもいない、こんな事をした所で意味なんて無いと思っていてもどうしても諦められなかった

毎日遺影に話しかけていたし、三人のぬいぐるみと人形を合計三百体程作って一人でおままごとをした事もあった

ラブとシヨを創ったのも寂しかったからだ

「お願い…!帰って来て…なんでもするから…

お金も地位も全部あげるから…お願いよ…」

泣きそうになりながらも必死に言葉を紡ぐがカヨコは困った顔をしているだけで反応してくれない

もう諦めるしか無いのか

そう絶望していた時に、黒猫が話しかけてきた

「アル、少し話をしてもいいかな」

「……なに?黒猫?」

憂鬱な気分になりながら低い声で私はそう聞き返す

「僕が隠し撮ったアルの頑張ってる姿を映像でみんなに見せてあげたいんだ。そうしたらカヨコの気が変わるかも知れないしね。アルが人に見せたく無い物まで映ってるけど見せていいかな?」

「えっ、なんなのそれ…まぁ良いわ。好きにして頂戴」

自分が盗撮されていた事実に驚きながらも、黒猫の提案を承諾する

もしかしたら黒猫の言う通りカヨコの気が変わるかもしれないからだ

「ありがとう、それじゃあ…」

前と同じ様に空間に画面が映し出される

少し画面が乱れ雑音がした後、私が異世界に迷い込んだ時の映像が映し出されていた

「…懐かしいわね」

黒い森の中、悍ましい雄叫びをあげながら自分を追ってくる化け物から必死に逃げ惑う私を見ながらそう呟く

「なにこれ…どこ行ってたのアルちゃん…?」

映像越しでも伝わる異様な禍々しい雰囲気に怯えているムツキが聞いてきた

「こことは遠く離れた別の次元にある場所…俗に言う異世界ね」

「なんで…そんな場所に?」

「あなた達が全員死んだと思い込んでた時、私の財布を盗んだ白い兎を追っていたらうっかり穴に落ちちゃって、気付いたらあそこにいたの」

「そうなんだ…」

私は話しながらあの不思議な出来事を思い返す

ただの小鳥でさえ平気で光速を超え、星一つ容易く堕とせる化け物が遊歩し殺しに掛かって来る殺すか殺されるかの修羅の世界

神々すら寄り付かぬ禁足地

黒い木がずっと生えてる事から黒い森と私は呼んでいる

よく黒い森の怪物達相手に何百回も殺されて心が折れそうになったり、一生懸命鍛えて強くなって逆に殺したりした物だ

最終的には何度も殺し合っていく内に友情が芽生えてあの化け物達とも仲良くなって友達になる事が出来たし、私も滅茶苦茶強くなる事が出来たから、今となってはいい思い出だ

それに、あの森にいた時だけは罪悪感を感じずに生きることが出来た

生きるのに手一杯で他の事など考える余裕が無かったからだ

しかしあの喋る白兎は一体なんだったのだろうか

もしかしたら黒猫と何か関係があるかも知れない

そう思っていた矢先、黒猫が衝撃的な事実をカミングアウトしてきた

「ちなみにその白い兎は僕が化けた姿なんだよね。アルが異世界に迷い込んだのは僕のせいなんだ。あの時はごめんね」

「へ?」

唐突にとんでもない事を言われて思わず固まってしまう

「どう言う事…?まさか、社長を殺そうとしたの…!?」

私が聞き返すより前にカヨコがそう黒猫を問い詰める

その言い方は明らかに怒りを含んでいた

もしかして私の為に怒ってくれているのだろうか

「違うよ!まずは映像を見てみてよ」

黒猫にそう言われ、一体落ち着き映像を見るカヨコ

映像には私が化け物から脳味噌を吸われながらも、反撃しその巨体を大剣で切り裂いて勝利している場面が映し出されていた

「えっ、なんで…ぅぇっ、頭取れて…」

心配そうに映像内の私を見るカヨコ達

恐らく私が死んでるのでは無いかと勘違いしているのだろう

「あの森ではどの生物も死なないのよ

死という概念が存在しない。不死身を殺す銃ですら殺せないの。

どれだけダメージを負っても直ぐに回復出来る。だから心配しなくても大丈夫よ」

「そうゆう問題じゃないでしょ…!社長…痛くなかったの?今は大丈夫なの?」

あぁ、やっぱりカヨコは優しい

こんな私を心から心配してくれている

「もの凄く痛かったし苦しかったけど大丈夫よ。これくらいあなた達が味わって来た苦痛に比べたらどうってことないでしょう?」

ふと映像を見てみると私の死亡シーンと戦闘勝利シーンがダイジェストで流れていた

四肢をもぎ取られた後、腸を引き摺り出され遊ばれたり、体の皮を全部剥がされたり、生きたまま怪物に飲み込まれて体中をドロドロに溶かされたり…


余りにグロかったり、見たら即死する等の認識汚染系の映像にはモザイクなど認知フィルターがかかっている


ある時は片目片腕をもぎ取られながらも、大剣を振るい星を軽く飲み込める程の巨大な怪物の体を真っ二つに切断しているシーンなど自分でも印象に残っている場面がしっかりと映されている

「どう考えても社長の方が酷い目に遭ってるでしょ!こんな…こんなっ!」

それを見て体を震わせながら絞り出す様に声を出すカヨコ

怒りの赴くまま黒猫を怒鳴りつける

「どうして社長をこんなひどい目に合わせたの!?」

黒猫の首根っこを掴みながら叫ぶカヨコ

首を絞められて苦しそうに呻きながらも黒猫は必死に答える

「君達を助けたかったんだ!その為にはアルには強くなって貰う必要があった!だから並行世界や別の時間軸を観測し、参考にしてアルが最高効率で強くなる方法を考えて編み出した!自分が最低な事をしてる自覚はあった!でも、僕はアルがまた笑顔で君達と笑いあってる姿が見たかったんだ!」

「社長は良いの…?自分の人生滅茶苦茶にされてるのに許せるの…?」

私はそう言われて返事に困ってしまう

許すも何も私と白兎…黒猫はもう和解していたのだ

次元を移動する能力を使いキヴォトスに戻った時に白兎が土下座しながら謝って来て、お詫びとして経営に関する本を百冊プレゼントしてくれたのだ

どの本も非常に理解し易く、それでいて有用な物だった

私が今ここまで成功したのは紛れもなく黒猫のお陰だろう

財布も返してもらったし黒い森とキヴォトスでは時間の流れが違うのでタイムロスも少なかった

本当にただ成長しただけなのだ

だから今となっては特に恨みも無い

「全然気にして無いわよ。むしろ私がここまで強くしてくれて感謝してる位よ

それに…黒い森にいる間黒猫は私をサポートしてくれてたのでしょう?」

私が化け物に全く歯が立たなくて困っている時、誰も使っていない隠れ家を発見し、そこで鍛える事が出来たのだ

私を追いかけて来た化け物もその隠れ家に入ったら必ず追跡するのを止め、立ち去って行くのだ

トレーニング設備も豊富で、自身を強化する為の素材、食料やシャワーなど大体の物が揃っていた

今思えばあんな所に安全な場所が都合の良く転がっている訳が無い

「えっ、どうしてわかったんだい…?バレない様に上手く立ち回ったのに…」

「バレるに決まってるでしょ…」

隠れ家だけで無く、色彩や恐怖、崇高の手に入れた方や扱い方を記した本

不死身になる方法、次元を削除したり移動する方法を記した本

私がキヴォトスに帰る最後らへんの日には世界を滅ぼせる程強くなる方法など馬鹿げた内容が書かれた本など、私をサポートする様な内容の本が毎日必ず目の前に転がって来ていたのだ

しかもどれもこれもとても理解し易く、まるで私だけの為に書かれた様な文脈で記されていた

きっと黒猫が一つ一つ書いてくれていたのだろう

幾ら私でも流石にあれだけ不自然な事が続けば疑念は抱く

「社長がそう言うなら…」

私が黒猫をフォローしたおかげがカヨコも落ち着いたようだ

Report Page