救出編2
「やっぱり、そこにいたのね」
銃を構えながらヒナがこちらに鋭い視線を向ける
その口ぶりから察するに感で私達の居場所を突き止めたのだろう。相変わらずの化け物っぷりに冷や汗が流れる
「陸八魔アル、1256番、そして…猫?」
「やあヒナ、久しぶりだね。僕の事は覚えているかい?」
「猫が喋ってる…?」
(よし、今の内に…)
困惑している様子のヒナを私は撃ち抜こうとするが黒猫に止められる
『ちょっと待ってくれアル。少しだけヒナと話をさせてくれないかい?』
『ええ!?今すぐ倒しておかないと厄介な事になるわよ!こうしてる間にも敵がどんどん集まってくるでしょうし…』
『その点は心配しなくていい、さっき探索魔法で調べてみたけどもう起きてる人間はヒナ以外にはいないから。ヒナも僕達が話し終わるのを待っててくれてる。まだ話し合いの余地がある。
僕がヒナを説得して仲間に引き入れれば戦わずに済むし戦力も得て一石二鳥だ』
ヒナに目を向けると確かに先程までの殺気は無くなっていて黒猫を興味深そうにみていた
確かに話し合いはできそうな雰囲気はするが、後々の事を考えるとリスクが高すぎる気がする
『私が倒した奴らもいずれ起きがってくるわ。それに、ハルカだけを助けているから向こうも私達が仲間を救助していると考えるはず。そうなるとムツキとカヨコが人質に取られる可能性もある。だからさっさとヒナを倒してムツキの救助に向かうのが最善だと思うけど…』
『そうだね、アルの方が正しいよ。合理的ではないのはわかってる』
『だったら…』
『前ヒナにゲヘナのパーティが開かれる時、餌を貰って良くして貰った事思い出してね。その時の恩を返してあげたいし、何より風気委員みんなの為、人の為に動いてる姿が気に入ってたんだ。
僕の個人的な感情だよ、ヒナを助けたいんだ。少しだけ付き合ってくれないかい?』
『わ、私はアル様の判断に従います…』
『…いいわ、付き合うわよ。これまで散々助けてもらっているもの。これぐらいどうって事ないわ』
『ありがとう。それじゃあそろそろ地面に下ろしてくれないかな?』
『えっ?あ、ごめんなさい』
私は抱えたままだった黒猫とハルカを下ろす
地面に足がついた黒猫は少し前に立ち、ヒナに話かける
「長々と話しちゃってごめんね。わざわざ待っててくれてありがとう」
「…本当に喋れるのね。不思議…」
まじまじと黒猫を見つめながら呟くヒナ。喋る猫なんて生まれてから見た事がないから初めて黒猫と会った時の私のように驚いているのだろう
「僕は普通の猫と違って喋れるんだ。黒猫って呼んでね。ちょっと僕と話をしてくれないかい?」
「良いわ、私も猫…黒猫を傷つけたくは無い物」
「良かった、じゃあ早速なんだけど僕達と一緒にここをぶっ壊した後脱出しない?僕達だったらその改造されまくった身体もすぐ元に戻す事だって出来るんだ。その首輪に縛られる必要も無くなるよ」
「嫌に決まってるでしょ、ご主人様に逆らうなんて死んでも嫌よ」
「ご主人…えっ?」
ヒナの発言に黒猫の動きが固まる。
私とハルカも驚いて思わず後退りしてしまう。
いきなり殺気が増したのもあるが、なにより身体を改造されていたとしてもあのヒナの口から"ご主人様"なんて単語を発するとは思っていなかったからだ
そんなドン引きしている私達を無視してヒナは話し続ける
「やっぱりあなた達はここを襲いに来てたのね、黒猫には悪いけどアル達は捕まえた後娼婦にするしか_」
「待ってよ!なんだよご主人様って、前に偵察に来たときはそんなんじゃ無かったじゃないか!」
「前までの私は愚かだったわ、自分が人間だと思い上がりお客様どころかご主人様にまで反抗して…今思い出しても恥ずかしいわね」
当たり前の様に自身を人間扱いしない発言をするヒナにますます私達は嫌悪感を抱く
「君は人間だろ…ヒナ…」
「ご主人様がそう決めたのよ?ご主人様が決めた事を否定するつもりなの?あと私はヒナじゃなくて1896番よ
…というかさっきから気になっていたけど1256番はなんで脱獄してるの?さっさと部屋に戻りなさいよ」
まるでハルカを物扱いするような言い草に私は怒りを抱く
「ハルカを番号呼ばわりしないで頂戴、私の大切な社員であり人間なんだから」
「1256番はご主人様の所有物よ、貴方が勝手に決めないで。1256番もそう思うでしょう?」
威圧感を含むヒナの視線がハルカに向けられるが物怖じせずにハルカは言い返す
「ふざけた事言わないで下さい!私はアル様の物です!たとえ何があってもアル様についていきます!」
「お客様相手に喜んで腰振ってた奴が今更何を言ってるの?」
「ッ!そ、それは…」
「いい加減にしなさいよ!それ以上ハルカを傷つけるのなら私が相手をするわよ!」
「待って待って落ち着いて!まだ話は終わってないよ!」
言い争いがヒートアップして互いに銃を構えた私とヒナを黒猫が仲裁する
「こんな頭のおかしい奴を説得するなんて無理よ!」
「確かに無理かも知れないけど諦めるのはやるだっけやってからでいいじゃないか!あと5分もすれば話終わるからそれまでは辛抱してくないかい?」
黒猫の必死な姿を見て少しだけ落ち着いた私は少し考えた後承諾する
「………わかったわ」
「ありがとう…じゃあヒナ、この動画を見てくれ」
黒猫前に私に見せた時と同じ様に空中に画面を表示する
「これは…?」
「ヒナがここに捕まってからの先生の様子を撮った物だよ。先生がどれだけ悲しんで頑張ったかを見たら君も気が_」
「私にあんなクズの動画なんか見せないで」
「く、クズ…?ヒナ、先生のこと今なんて…」
前までのヒナだったら絶対に言わない発言を耳にして、私も黒猫も思わずこれは現実なのかと疑ってしまう
「生徒に手を出す事も出来ないクズと言ったのよ。ご主人様の邪魔ばかりする癖に女一人も孕ませる事も出来ないなんて男として終わってるわ」
「お、おぉぉぉ…」
黒猫を見ると白目を剥きながら呻き声を上げていた
「だだだ大丈夫ですか黒猫さん!?」
「もう無理よ!説得は諦めましょう!」
「い、いやまだだ。まだ全部試した訳じゃない…これを見てくれ…ヒナ…」
「まだやるの!?」
困惑する私とハルカを置いて黒猫はまた新しい映像をヒナに見せていた
「一体今度はなんなの?流石に飽きて来たわよ…」
「最後、これが最後だから!もうこれで終わるから!…今のゲヘナの状況を確認できる動画だよ。頼むから少しくらい見てくれよ…」
「…確かにアコ達が今何をしてるのかは気になるわね。最近外出て無かったし…少し見ましょうか」
「よし!それじゃあ早速流していくね!」
黒猫の流した映像はヒナが失踪した後、ゲヘナがどんな末路を辿ったのかをダイジェストで見せていく
ヒナがいなくなってから発狂し犯人探しの為に全勢力に喧嘩を売るアコ、治安維持の為に休み無しで働き過労の余り倒れたイオリとチナツ
各地で暴動やテロが起きたが、ヒナがいない風気委員会では全く対処出来無かった為、そのまま放置されてしまい、その結果温泉開発部や美食研究会などのテロリストによって公共施設や食品店は爆撃されインフラが破壊された
定期的に出てくる死体、罪を犯しても誰にも罰せられないという腐り果てた現状
最早法律は機能していないのでゲヘナにいるほぼ全員が盗みや強盗、挙げ句の果てには殺人にまで手を染め始めた
今やかつてのアリウス自治区よりも酷い有様になったゲヘナの様子は映像で見ていても悲惨さが伝わってくる
「風気委員会の子達だけじゃなくみんなが君が帰って来るのを待ってるよ。辛いとは思うけれどもう一度風気委員長として働いてくれよ。もうみんなが苦しむ姿を見たくないんだ」
「ここまで酷い有様になっているなんて…可哀想ね」
「!そうだろう!だから_」
これまでとは違いヒナがいい反応をしてくれたので黒猫が喜んでいた
「やっぱりキヴォトスはご主人様によって支配されるべきよ」
「………え?」
興奮してパタパタと振っていた尻尾が一気に垂れ下がる
「ご主人様が全生徒を管理していればこんな事にはならなかったはずよ。私達はご主人様のお役に立てて幸せだし、ご主人様とお客様も満足出来ていい事しか無いわ。
それにしても先生も頼りにならないわね、まぁ大人なのに童貞の時点でたかが知れてるけど…」
さも当然かの様に先生を愚弄するヒナ
その様子からもう先生や仲間の為、正義の為に戦っていた彼女は何処にもいないんだと嫌でも察してしまう
「わァ………ぁ…」
「黒猫!」
黒猫がまた白目を剥き、声にならない悲鳴をあげる。これまでとは違い呼びかけにも全く反応しない事から深刻さが理解できる
そんな黒猫を置いてヒナは私達に話しかけてきた
「陸八魔アル、私と一緒にここで働かない?その身体だったらご主人もお客様も満足出来るでしょうし毎日セックス出来て楽しいわよ」
唐突に馬鹿みたいな提案をしてきた
こんな酷い有様をみて承諾するとでも本気で思っているのかと疑いながらもキッパリと返事をし断る
「興味無いわ、男に無理矢理犯されるのなんて絶対御免よ。私はハルカ達とまた一緒に過ごしたいだけでそれ以外はどうでもいいの。邪魔をしないで欲しいわ」
「そう、残念ね。でも1256番…いえ、ハルカはそれでいいの?」
「いいに決まってます!私もアル様とずっと一緒にいたいです!」
「なんで?あれだけ楽しそうにお客様の相手をしてたじゃない。喜んでお客様のチンポにしゃぶりついて…私、あなたの事少しだけだけど尊敬してたのよ。嬢の中でもフェラであれだけお客様を満足させれるのはあなただけだった。
遅漏で有名だったお客様を10秒でイカせたって聞いた時はびっくりしたわ…本当に戻るつもりは無いの?」
「あれは…!確かに少しは気持ち良かったですけど…暴力ばかりで睡眠も碌に取らせず勝手に私の身体を改造して支配しようとする酷い人ばっかりのこの場所ではもう働きたくありません!」
「あなたはそれで良いのかも知れないけどあなたのご主人様はどうなの?どれだけ取り繕っても顔も知らない男相手とセックスして喜んでいた事実は消えないわよ」
「あ、アル様…」
心配そうな顔でハルカは私を見て来る
きっとハルカの事だから自分が見捨てられるのでは無いかと考えているのだろう
そんな不安な気持ちを吹き飛ばす様に、私は優しく微笑み、話しかける
「ハルカは私の大切な社員であり家族よ。例えどんな姿になっても、どんなに酷い事をしても、何があっても見捨てたりなんかしないわ」
「アル様!アル様ぁ!私…おかしくなって…ごめんなさい…」
「ハルカがどれだけ酷い目にあっていたのかは黒猫に聞いてるわ。
あれだけ身体を改造されて毎日地獄の様な日々を送っていたら誰だって、私だって壊れるわよ。大丈夫。よく頑張ったわね」
私は優しくハルカの頭に手を置き安心させるように撫でる
「ありがとうございます!ありがとうございます!アル様!」
泣きじゃくりながら私に感謝するハルカ
そんな私達を見つめながらヒナは戦闘の準備を整えていく
「そう、なら戦うしか無いわね。でもいいの?この地下空間には私以外にも私と006番が捕まえて来たキヴォトスの強者達がいるのよ。仮に私を倒したとしてもいずれ何処かで捕まると思うけど…」
「全員返り討ちにするから問題ないわ、というかさっきからなんでこんなに話してるの?黒猫と話終わったのならもう交渉する必要もないでしょうに…私と戦うのが怖くなったのかしら?」
「別に怖くは無いのだけれど…黒猫を傷つけるのが嫌なのよ」
「そう、それなら…ハルカ!」
「は、はい!なんでしょうか?」
「脱獄してからの初任務よ!そこで放心してる黒猫を守りなさい!」
私はハルカに銃を手渡しそう言い放つ
「わかりました!で、でも一緒に戦わなくて良いんですか…?」
「大丈夫よ、私がどれだけ強くなったのか見せてあげるわ」
社長として、大切な部下を守るためにハルカの前に立つ
「随分と舐められた物ね、私だって006番に改造してもらったお陰で前よりも強くなったのよ。今だったらあの小鳥遊ホシノにだって勝てるわ」
「子供を喜んで犯すクズをご主人様と呼び、先生への想いも捨てたあなたに負けるわけないでしょう」
私は堂々とそうヒナに言い放つ
「っ!いいわ…ご主人様をクズ呼ばわりした事を後悔させてあげる!」
次の瞬間ヒナの銃から夥しい量の弾丸が発射された
確かに006番によって改造された銃から放たれる弾丸は凄まじく、前までの私だったら即戦闘不能になっていただろう
だか自身の神秘もまともに付与されていない弾丸など今の私にとってはただの鉄屑同然
飛んで来る弾丸を全て叩き落としながら、私はヒナを仕留める準備をする
脊髄から特殊な血清を作りだし、全身に行き渡らせ、身体能力を上昇させる
ヒナの銃が弾切れし、バックステップを取りながら距離を取ろうとした所を見計らい、深く踏み込んだ後、ヒナに急接近して顔面を思いっきり殴りつける
ミサイルよりも早く放たれた私の拳にヒナは全く反応出来ず、受け身も取れずに地面に叩きつけられ気絶した
ヒナのヘイローが消えている事を確認した私は自信満々にハルカに語りかける
「どう?見たでしょう?今の私の強さを!」
「さ、流石ですアル様!あの風気委員長を一撃で倒すなんて…凄いですっ!」
「ふふっ、そうでしょう!私、ここまで強くなったのよ!だから…」
ハルカの尊敬に満ちた眼差しが暖かく胸に染みる
それと同時にハルカが失踪する時の頼られなかった事を思い出し不安になりハルカに忠告する
「だから、もう勝手に居なくなったりしたら駄目よ?なんでも私に頼りにしなさい。今の私だったらお金はいくらでも用意出来るし、ハルカの為だったらどんな事だってしてあげれるから…これからはずっと一緒にいてくれる?」
「もちろんですっ!私の全部をアル様に捧げます!」
「ありがとう。嬉しいわ…本当に…」
二人で抱き合いながら喜びを噛み締めていたら地面から呻き声が聞こえてきた
「う…うぐっ…ご、ご主人様…」
「あら、もう意識が回復しかけてる…」
「どうしますか?私が気絶させましょうか?」
「いえ、私がやるわ。だから少し離れて頂戴」
ハルカが私から距離を取ったのを確認すると私はヒナの顔面を勢いよく踏みつけた後、柔術とCQCを応用して手足の関節を全て折る
ヒナはまた呻き声を上げた後、動かなくなった
気絶しただけで死んではいないが、暫くまともに動けないだろう
そうこうしていると後ろから黒猫が声を掛けてきた
「随分とアウトローらしくなったね…アル…」
「あっ、黒猫!元に戻ったのね!良かったわ!」
「真っ当な愛を見て脳が回復したのさ…迷惑かけてごめんね」
「全然大丈夫よ!ハルカの顔色も良くなった事だし、このままムツキも助けに行きましょう!」
「私もお供します!」
「そうだね、それじゃあ今度こそ先に進もっか。僕のせいで時間をかけちゃったから走りながら移動しようか」
私とハルカは忙しいつつ黒猫と共に足を進める
そしてまた暫くの間歩いていくと何やら怪しげな研究所みたいな場所に着いた
先程見た人の入ったカプセルが大量に並んでいて気味が悪い
「ここにムツキがいるの?」
「うん、そうなんだけど…困ったな…」
黒猫の視線の先を見て見ると一箇所だけ不自然な程人が集まっていた
それだけで無く、その他の場所も合計で50名程の戦闘員が集まっている
「見てわかる通りあの人だかりの中のカプセルにムツキがいる。多分僕が時間を取っちゃったせいで警備が強化されてる見たい。ごめん」
「ど、どうしましょうアル様?」
「あれくらいだったら全然問題無いわ」
手に青い光を収束させ一気に解き放つ
「分析、圧縮、展開」
次の瞬間、カプセルを避けて空間に斬撃の雨が敵き降り注ぎ敵を切り刻む
斬撃に当たった敵は全員倒れ伏し動かなくなった
「よし、これで先に進めるわね」
「強くなったなあアル…」
「カッコいいですアル様…!」
そしてさっきまで人だかりが場所に足を進めようとした時、散らばっていた奴らが一斉にこちらに向かってきた
「おい、なんだ!922番の周りに配置されていた戦闘員が全員やられているぞ!」
「でも敵なんて何処にも居ませんよ、位置がわかってから動いたほうが…!」
「俺達が警備しているのに922番が脱走したなんて上に知られたらとんでもない事になっちまう…だから取り敢えず922番の周りを囲え!そうすれば脱走されてもすぐ気づける!」
「わ、わかりました!」
バタバタと音を立てながら敵が近づいて来る
「ここまで数が多いと面倒ね…」
「あ、アル様!私が相手をします!その間に室長を…ムツキを助けてあげてください!」
「ハルカ…!でも一人にするなんて…」
ハルカの偽造死体を発見した時の事がフラッシュバックする
私が側にいてあげなかったから、
私が一人させたから、
心配、後悔、怒り。そんな負の感情が一気に蘇ってくる
もう手加減なんてやめて襲いかかって来る奴ら全員殺そうかと考えていた時、黒猫に声をかけられた
「大丈夫、僕も一緒にハルカと戦うからさ。こう見えて結構強いんだよ、僕」
「でも…でもっ!」
もう二度とあんな気持ちにはなりたく無い
なにより、ハルカに苦しんで欲しく無いという気持ちが湧き上がる
そんな私に黒猫は諭すように話し掛ける
「ハルカはアルの事を心から信じてるよ。だからアルもハルカを信じてやりなよ。心配なのはわかるけどさ」
黒猫の言う通りだった
一方的に感情を押し付けるのはでは無く、互いに信頼する方がいいに決まってる
社員を信じなくて何が社長か
「…わかったわ、でもあなた達に何かあったらすぐ飛んでいくから!」
「大丈夫、ピンチになったら報告するさ。だからアルはムツキを助けてあげて」
私に話した後、黒猫とハルカは敵陣に突っ込んでいった
まだ心配だが、ハルカ達を信じて地面に横たわっている屑どもを蹴り飛ばしながらムツキのいるカプセルに向かう
「ムツキ…!」
やはりムツキはカプセルの中に入れられていた
少し話しかけて見たが反応が無いので、近くにある機械を掴みハッキングする
昔身体に吸収したデカグラマトンの遺物を使い脳から直接電波を送りムツキに関する情報を集めていく
ふと気になる心を抑えられずハルカ達を見てみると…
「死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください死んでください」
「しゃぁー!クーネル・エンゲイザー!」
「うわぁ!一体どこから!ぐぇっ」
「あああ俺の右腕がっ!肺がっ、凍って…!ごふっ」
…めちゃくちゃに無双していた
初めて一緒に戦うと言うのに完璧に連携を取って敵を薙ぎ倒していく
これなら私が参戦しなくても大丈夫だろう
気持ちを完全に切り替えて作業を進める
そして30秒ほど経過した頃、ムツキをカプセルから助け出すことが出来た
カプセルから解放され地面に落ちてくるムツキを抱きしめて受け止める
「ムツキ!大丈夫!?」
必死に呼びかけるが反応しない
やはり首輪を外した後、ソウルを入れないと駄目みたいだ
「全部片付けました!」
「探索魔法で探したけどもう戦える奴は誰もいないね。みんな、お疲れ様」
一旦ハルカ達と一緒に戦おうとしたがもう終わったらしい
それならと急いで黒猫に話し掛ける
「早く!早くハルカを助けた時みたいにムツキを助けて頂戴!」
「わかったから、焦らないで」
黒猫は異次元ボックスからソウルとミニチュアアヴァンギャルド君を取り出した
「この倒れてる女の子をさっきと同じ様に精神を首輪から肉体へ移した後治療してあげて」
「了解しました。作業が完了するまで暫くお待ち下さい」
黒猫の命令に従いミニチュアアヴァンギャルド君は作業を進めていく
そして10秒も経たない内に作業終了の合図をだした
「ピピ、治療が完了しました」
「え、もう終わったの…?」
「ほ、本当に大丈夫なんでしょうか…?」
「首輪外れてるし多分大丈夫。じゃあ早速ソウル入れていくから。ムツキが見て喜びそうな物を取ってきてくれ」
「わかったわ」
ハルカの時と同じ様に異次元ボックスからムツキとの思い出の品を取り出していく
今回取り出したのは昔ムツキが愛用していたビックリ箱と先生と遊ぶ時に使った激辛チョコだ
「準備完了したわ」
「よし、じゃあ入れるね」
ムツキの胸の中にソウルが入っていくがハルカの時とは違って目が覚めない
「ハルカ、アル。ムツキを呼びかけであげて」
「わかったわ」
「わかりました」
私とハルカはムツキに顔を向け、話し掛ける
「ムツキ…今まで助けられ無くてごめんなさい。ハルカと一緒に助けに来たわ。早く目を覚まして、さっさとこんな所脱出した後、私達と外で楽しい事をたくさんしましょう。またムツキの素敵なイタズラで私達を驚かせて、からかって頂戴」
「私もまた一緒に遊びたいです…!お願いですから目を覚まして下さい!」
私とハルカでムツキに語りかけ続ける
そうしているとムツキの眉がピクリと動いた
「ぅ、ぁ…アル…ちゃん…?」
「ムツキ!私よ!遅くなってごめんなさい!ハルカと一緒に助けに来たわ!」
「アルちゃん…ハルカちゃん…!」
ムツキが目を覚ました瞬間、私達に泣きながら抱きついて来た
「ぐずっ、怖かった、怖かったよぉぉ!」
「ムツキ…もう大丈夫よ。私達が来たから安心しなさい」
「うん…うん!」
ぼろぼろと涙を流しながらムツキは私とハルカを強く抱きしめる
それに応えるように私もハルカもムツキを抱きしめる
とても長い時間がかかったけど今、確かにムツキを助け出す事が出来た