救出劇
1東京近郊のとある場所。真っ白な空間の中央に一人佇む者がいた。御先燈火―――要人の警護に就いていた筈の妖狐の少女。その体は四肢を鎖で縛られ、その場から動けずにいる。鎖を引きちぎれる膂力がない以上、この場から動くことは出来ない。このような状態になったのは、ひとえにとある魔族の思い付きによるものだ。
「どう、気分は?」
燈火以外いない部屋に来訪者がやってくる。リリム・レヴィアタン。燈火をこの場に連れてきた張本人。魔族軍でも隔絶した力を持つ幹部の一人だ。そんな彼女は、燈火の様子を観察した後つまらなそうに溜息をついた。思った以上に耐えているのが気に入らないようだ。
「あら、媚薬を盛ってからそれなりに時間が経った筈なんだけど」
「この程度…何でもない…!」
「あらそう?」
リリムはおもむろに燈火の巫女服をずらした。外気に晒される二つの乳房。彼女はその先端にあるピンク色の突起に吸いつくと、ゆっくりと舐めはじめる。
「あ…うぁ…!」
温かな舌の感触に電流のような快感が広がる。媚薬により火照った体は、この様な刺激にすら過敏に反応してしまう程に敏感になっていた。突起をコロコロと舌で弄びながら、その都度ビクリと体を震わせる燈火の様子を眺めるリリム。ガクガクと震える燈火の大腿部には、局部を守る護符の中から零れた愛液による幾筋もの流れが出来ていた。
「ほら、体は正直ね♡こんなに濡れて…我慢なんてせずに身を任せた方が楽よ♡」
「だれ…が…貴様などッ…に…負ける物か…ッ…あ…」
「ほんと強情ね…」
リリムが燈火の顎を掴んで自分の眼前に近づける。この後はどう虐めてくれようかとリリムが思案し始めた時だった。派手な開閉音と共に、この空間の唯一の出入り口から3つの人影がなだれ込んできた。土御門宗也、賀茂千景、夜刀神志乃。燈火の仲間たちである。それを見たリリムは少し驚いたそぶりを見せる。
「あらら…良いところなのに。でも――」
リリムは腰の大剣を抜き放ち、その光る刀身を燈火の首に押し当てる。うかつに手を出せばこの女の命は無いというアピールだろう。それを目の当たりにした仲間の救出が目的の3人の動きが止まった。その隙に、リリムの魔術により魔族軍の雑兵が燈火を囲むように召喚される。敵の手元には人質があり、周囲には多数の雑兵。どう考えても不利な状況だ。が、事態は急転する。
「かかった…!」
「なっ!?」
突如としてリリムと敵兵の足元に妖術の陣が出現し、起爆を始めたのだ。その威力は周囲の雑兵の多くを消し飛ばし、燈火のそばにいたリリムを離れた場所にまで交代させる。爆破地点には土煙りが舞い、中の様子を伺い知ることはできなくなっている。その術式が燈火の物である事に気付いた三人は、瞬時に彼女の意図を察知し行動に移す。まず宗也と志乃が煙の中に突入する。無論それを阻止しようと雑兵も動き出すが―――
「行かせないよ!」
侵入者を阻む様に札が舞い、着実に敵の数を減らしていく。残った景が周囲の雑兵を纏めて相手取ったのだ。これで、リリム以外の敵は邪魔が出来なくなった。
「チィ…!時間を与えすぎたわね!」
数秒の硬直時間ののち、リリムは燈火の元に戻ろうとするが―――
「お前の相手は俺だ!!」
愛用の刀を構えた宗也がリリムの前に立ちふさがった。これで、人質は完全に敵の支配から逃れ―――
「燈火。今斬る」
燈火の元までたどり着いた志乃がその強靭な爪により彼女を拘束していた鎖を破壊する。晴れて鎖から解放された燈火は、志乃に手を引かれながら離脱。作戦が完了したのを察した宗也と千景も撤退を開始した。長く戦場で共同戦線を張った4人だからこその連携で、電撃の救出劇は幕を閉じたのだった。