救うに値う、愛を一つ

救うに値う、愛を一つ

伏黒恵双子妹主作者

※禪院家が鋭意壊滅中です        ※一方通行解釈で書いています      ※口岡明人くんをお借りしました     ※禪院晴さんも名前だけお借りしました  ※微グロ描写あります          ※この口岡くんは自己嫌悪塗れの15歳です ※セリフばっかり            ※可能なら昴のセリフは京都っぽい発音で再生してください















彩度のない、不気味な灰色の地下道に口岡と真希の靴音が響く。二人の間に会話はなかった。必要な言葉は既に交わしている。そもそも明人は、学校の先輩なんちう年上の異性と、続く会話が出来る質ではない。だから知った道らしい真希の後ろを、粛々と追うだけに徹していた。       やれることといえば、少しわざとらしく踵を鳴らすくらいだ。          角を曲がった先で、待ち伏せている野郎にわかるように。

「止まってくれます? おふたかた 」

ぜんぜん野郎じゃなかった。      なんなら見知った顔だった。いや、同じ顔はこの一年で見慣れるどころか、隣の人もそうなのだが。そういうことじゃなくて、一度、学校行事で顔を合わせた相手で。 高専の制服ではない、鮮やかな装いが、 暗く白い地下通路に甚だしく浮いていた。

悲痛な面持ちの彼女が目を伏せる。

「この先の呪具は全て移動させました」

「私に貴方を止める権限はありません   ですが、部外者の誘致は認められません」

僕とは会話をしないらしい。      掌印を結びつつ、彼女の言葉を反芻する。まず、そちら、というのは間違いなく僕を指している。次いで、呪具を移動させたという文言。もしこれが本当だろうが、管理できる蔵なんか限られているので一度は無視して忌庫を見に行くと事前に打ち合わせてある。               権限がないというのなら、押し通っても問題はない。ちらと真希さんの方を見やる。

真希さんの選択は、無視。       そのまま彼女の横を素通りしていった。 だろうなと思いつつ追従しようとして

控えめに、袖を引かれてしまった。

「貴方を、通すわけにはまいりません」

何に違和感を感じているのかわかった。 

目が合わないからだ。交流戦の頃みたいに開き直っていた時と全くの別人。    あんなに朗らかな笑顔で伏黒くんの背後霊をしていたのに。           呪術家系出身らしい我の強さと、のらくらとした危機回避能力が、禪院昴という術師の強かさだった筈だ。         交流戦で、特級呪霊と会敵、戦闘までした生徒で、唯一無傷の。

それが、 なんだこの、普通の少女のような顔は。 蒼白で、 悩ましげで、 引き結んだ唇まで戦慄かせて。

足を止めてしまった僕に、真希さんがこちらを見ずに言い捨てる。

「明人はここにいろ、あとは私一人でも   なんとかならぁ」

「でも」

「昴の仕事をやらせてやれ。  

 でなきゃ、飛ぶのは恵の手足だろ?」

人質。                

禪院晴の脅威を思えば、まずとらない方が不自然極まりない。          彼女の眉間に皺が寄る。正解らしい。  反論のための言葉が消えた。

彼女が、昴さんがここまで怯えるのは。

身勝手の代償が、最愛の喪失だけでは済まないから。

僕が絶句している間に真希さんはさっさと降りて行ってしまった。


とりあえずだ。

一旦、他所で陽動でもやってこよう。

「上、戻った方がいい?」

俯いたままの彼女に問えば、小さく頭を頷かせる。青い顔の昴さんに、言うべきことと言いたいことがまとまらない。    言わなければ、何も伝わらないのに。




薄緑に染め抜かれた袴が軽やかに踊る。 まぁ戦わざるを得ないとは思っていたし、思い切り敵地のど真ん中にのこのこやって来たのは僕らの側だ。

階段を登り切る前に、いかにもな坊主頭共からの奇襲を受けた。         まぁ、敵じゃないから構わないが。

襲いかかってきたのは12人。可能な限り速く沈めたはずだが、目を話した隙に昴さんの目に冷たい覚悟がチラついている。 

説得前に何か吹き込まれてしまった。  恐らく何某かの脅迫だろう。

探せ。できるだけ速く。        今の昴さんに、僕が言って響く言葉を。

転がっていた大刀を拾って、構えた。

彼女の術式反転は有用だ。呪術師、非術師問わず恒久的な呪力の剥奪ができる。  コロニー内で暴れて回っているだろうプレイヤー達を、ただの人間にできる。

違う、彼女の大事なものも、僕を攻撃する理由も、もうわかりきっているのに。

振り下ろされた大刀を躱す。    

彼女を拘束しているのは縛りだ。    僕の術式なら外部からだって縛りの解消もできなくはないだろう。

「そいつらのこと、守りたくて守ってる  わけじゃないだろ」

床に刺さった大刀を足場に跳ね、鉤爪を投げてくる。              これじゃない。鎖で弾く。 

「そいつらは伏黒くんのこと守らない!  むしろ傷つける敵だろう!?」

推定脇差の横薙ぎ。これじゃない。   後ろに下がって回避。制服の釦が飛んだ。

「本当にそれでいいのかよ!!!」  

脇差も投擲したうえで、タイミングを合わせて太刀で切りかかってくる。     

これでもない。横から太刀を叩き割る。

「君だって、助けに行きたい筈だろ?」

昴さんの顔に、やっと焦りが見えた。  折れた刀で上段突き。鎖で受け止める。

武器を手放した勢いと体重を乗せた金的。もう一歩下がる。下がりたくなかった。

「ここで時間を稼ぐのが、一番、みーくん  が傷付かなくて済むんだよ・・・ッ!」

蹴り上げた鎖鎌で僕の術式を絡め取った。術式を消す。昴さんが体勢を崩した。  

 踏み込まなくちゃ始まらない。

右腕を掴んで引き倒す。膝をつかせた。 胸ぐらを掴む。目を合わせる。     

確信した。揺れている。        今しかない。口撃を畳み掛ける。

「何度でも言うよ」         「君が伏黒くんを助けにいけばいい」 「五条悟がいないから? だったら尚更、  こんなところにいるべきじゃない」 「できることは手伝う。僕が君を助ける」

「一緒に、                助けてくれって言わせに行こう?」

昴さんの目に涙が浮かぶ。       縛りが成立した。

「ほんとにいいの?」

「私がみーくんを助けたいと思っても」

「私が、助かりたいなんて思っても」

「ダメな理由なんか僕が全部消してやる」

「だから、ちゃんと言ってよ。       辛いなら、苦しいなら、

"助けて"って、言ってくれ

手が白くなるまで頑なに握られていた鎌が床に落ちる。

乾いた落下音が、勝利の福音だった。


「ありがとう」













饐えた匂いと、どこかで聞いた明るい鼻歌がきこえた。なんだったか、確か変身ヒーロー同士で殺し合いをしていたやつ。

元旦の渋谷スクランブルで撮影したとか、しなかっとか、そんなやつ。

視界が狭い。

頭が痛い。特にデコ。

瞼を上げることすら重い。

おまけに全身の感覚もなかった。


「あ、おはようございます! 

 アキトくん!」


見慣れた顔が視界に飛び込んできた。

────昴さん。笑ってる。生きてる。

よかった。救けられたんだ。

「・・・っぅ"、ぁ"ぅ、さ・・・ッ・・・?」

彼女の名前を呼ぼうとして、声が出なかった。

「無茶しないで下さい、今のアキトくんは呪具で無理矢理生きてるくらいに重体なんですから。あと2日は絶対安静ですよ」


「口を開けてください。まず水飲んで」

ガラスの小さな水差しを充てがわれる。 流し込まれた生理食塩水が甘い。    

水分補給と、傍から香るグリーンノートで朦朧としていた思考がようやくやっと真面に巡るようになった。

「あと、コレも食べて?」

赤い何かを口にねじ込まれる。

甘ったるさで頭が割れそうだ。     味蕾が爛れていくような気さえする。  割れて弾けて溶け出して、そのたびに視界が明滅した。

思わず嘔吐きかけてしまったが、良薬はなんとやらと言うもの。         根性で嚥下してみせる。喉元すぎればそこまで辛くはない。むしろ、家入さんの反転術式に似た温もりすらある。 ガンガンと響いていた頭痛が、少しだけ軽くなった。

・・・・こんなもの、どこにあったんだ。

というか、ここに来る前の記憶が曖昧だ。僕はあのオレンジ色の白熱球を知らない。今は何日で、どれくらい寝ていたのか、 誰と戦ってこうなったのか、負けたのか、勝てたのか。

わかるのは、僕が今動けないこと、昴さんに目立った外傷がないこと。      でもそれだけだ。伏黒君や真希さん、虎杖君の安否はどうなった。

「・・・ごめん、なんか、記憶が飛んでる  みたいで、今、どう言う状況・・・?」

「まず、アキトくん大怪我をしています。  ですがまだ戦ってもらわないといけない  ので今、私の極ノ番で強化しています。   儀式の形をとらせたそれが終わるまで、  あと2日かかります」

「ユージくんとみーくんが東京第一コロニーにて活動中。あと、マキさんは回遊の最南、桜島コロニーへ、乙骨憂太特級術師が仙台、パンダくんと秤金次一級術師が東京第二の方へ出向しています」

「─────、容態は一括で見せますね。   その方がわかりやすいと思うので」

覗き込んでいた昴さんがいなくなる。  すぐにフラッシュと撮影音がした。   恐らく昴さんのスマホから。

視界に画面が差し出された。

映っていた僕は、四肢を欠いた肉だった。腕が捥げた傷口に点滴が刺さっている。

じゃあこの頭痛は欠損からの失血かよ。 せめて後者だけであれ。

それだけじゃない。首に巻かれた固定具の上から、恐らく僕の首を貫通している棒が見える。腹回りの血の滲んだ包帯を見るに最悪、内臓もどこかしら欠損している。 

───── 何? この猟奇死体。

ちょっと気が遠くなってきた。

「わぁ、あ、待って下さい!!      気絶しないで!?」

「意識がある間に生命維持に使ってる呪具の術式効果の説明だけでもさせて下さい」

ぺちぺちと頬に触れる手が温い。    大真面目に血が足りてない。      霧散しかけた気力をかき集める。

「・・・・・・ウン、」

慌てる彼女に焦点を当て、画面の方から目を逸らす。僕の返事に安堵の息を溢していた。おそらく制服だろうシャツが眩しい。記憶の中の白い背景と打って変わって、交流戦前後の頃の溌剌さを取り戻しているように見えた。

「ここの、アキトくんの首を貫通している一級呪具ですが」

待ってアップにしないで。本当にグロい。いや、ちゃんと見るけども。      

「人に貫通させると、そこより先の感覚を喪失させると同時に、被呪者を死ににくくする術式が刻まれています。要は拷問用の呪具ですね。痛みで狂ったり、吐かせる前に死なせたりしないための」

わぁこわい。とんでもねぇ呪いの道具だ。拷問用とか、贅沢な使用用途である。  さっきのお菓子しかり、どこに転がってたんだこんなもの。 禪院家か。

「理解のほどはどうでしょう?」

グロ画像が視界から消える。大変わかりやすかったです。伏ペディアみたいだった。

「お加減、どうですか?」

「・・・・・・いちおう、まだへいきかな 」

「よかった」

「じゃあ、禪院家で何があったか思い出せました?」

「ぃや、さっぱり・・・」

「そうですか、、、ざっくり言うと、真希さんが家の人を鏖殺してしまって、私に命令できる人がいなくなったんです」

「かなり大規模な戦闘になりまして、それで、ちょっとした流れ弾が偶然アキトくんに当たってしまって、それで」    

「崩れた瓦礫に巻き込まれて、大怪我したのをなんとか手当して、今ここなんです」

「その流れ弾というのがですね、被呪者が自身にかけている制約、つまり自己強化のための縛りを強制解除させる、という術式効果を持つ二級呪具でして、」     「ヤバいというか、逸脱してるのはアキトくんの方なんですが」         「白糸は明治頃には量産の目処が立ってますし、普通はアレが掠っただけで昏倒なんかしませんから」

ピンポイントメタの一言が思考を掠った。嘘だろう?            「僕、あんなカッコつけたセリフの後でそんなしょうもない倒れ方したの・・・・?」

羞恥で頭痛が酷くなってきた。     動け体。墓穴を掘りに行かせてくれ。  「(真面目に死にたい・・・・・・ッ!!)」

「私は、うれしかったですよ」

「あんな熱心に口説かれたの、初めてです」

「・・・・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・・・・あのさ、昴さん」

「さっき言ってた極ノ番って、なに?」


「え? ああ、そっちはいいんです。時間経過で終わりますから」       「強いて言うなら、少しだけ術式の仕様が変わる、というか大幅に拡張される可能性があるってくらいですかね?」     「大丈夫ですよ」           「ただ、成りたい貴方へ果てるだけです」

「さ、今はとにかく安静にしてて下さい」


「おやすみなさい、アキくん」














もちもちの暖かいものに座っていた。  ぷにぷにとした感触に寄りかかっていた。絶え間ない甘やかな愛撫と、合成甘味料のような赦しが、ぐちゃぐちゃの頭に冷たく染み入っていく。きぶんがいい。    花とチーズとおつゆの馨りがする。   口の中までぱちぱちとしてしあわせで。

なんだか、睡魔がひどかった。 きがする。











「あはは、本来的な向上心の死んでる人で助かりました」


「術式対象を、被呪者と術者がお互いに望む形へと羽化させる、それが私の極ノ番」

「貴方の言う、"呪力の最適化"とやらを、個人規模で試行した結果です」

少女が仔犬を抱いている。       死臭のなかで、花のように笑んでいた。

「敵意が私に向くこともあるんですよ」

「だから、好きに使って下さいな」

差し出された黒い毛玉が眠りこけている。ぷうぷうと揺れる提灯をつつききながら男が答える。

「そりゃどうも」

足の千切れた大型犬の仔犬の造形。   かけられた鎖は自身で首にかけたものらしい、なんとも惨めな精神構造だ。    これが、禪院晴を殺した男の末路とは。

「しかし、六足なんだね」

「えぇ、もうある種の収束点なのかもしれません」

「対価は?」

少女の笑みが輝きを増す。

「あは」

「屋敷の掃除、手伝って下さいな」

死体の撤去と、不必要な建造物を更地にするだけでいいらしい。         その程度で、こんなにおもしれー女の機嫌がとれるなら安いものだ。

「いいよ」

「ありがとうございます、傑さん!!」

男は惰眠を貪る仔犬をその手で呪い、  喰われるものへと丸め、嚥下した。

「片付け終わったらさ、一緒にクラッシュ  アイスゲームしない?」

「ふふ、どんなナンパですか。

 ジャンボヨーグル賭けてやりますよ 」

「乗り気だね、ならばこちらは───── 」


五条悟がいない今、友人夫婦の復活は、    男──────羂索の目前にあった。


























◤◢◤◢ネクストまじかるヒント◤◢◤◢

呪霊あっきーを核にして数多の口岡明人を超重複同化させるとどんな邪神が生まれるでしょーか????

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