🔔×撫子

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願いを叶える鈴

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湘南撫子




ある日の夕方。

一緒に行きたいところがある、だなんていきなり連絡が来たから行ってみれば、そこはどこか見覚えのある建物の前だった。

「ね、ねえ、もしかして、ここって」

「ん?ステイゴールドさんがやってるラブホだけど?」

「そうよね!?ここで何するの!?」

「何って……泊まる以外にある?」

……やっぱり。嫌な予感は的中した。

祖父がホテル経営をしていることは知っていたけれど、まさか自分が宿泊客になる時が来るなんて。私は、誘いに乗ったことを後悔し始めていた。

「ほ、本当にここに泊まるの……?」

「うん。嫌?」

「嫌に決まってるじゃない!!」

フロントで受付をやっているであろう祖父に見られるのなんて絶対に嫌だし、私の天敵である彼女と2人で泊まりだなんて私のメンタルに悪影響しかない。

しかし、彼女は1度決めたら絶対に考えを曲げない性格だって、私は身をもって知っている。

そこでなんとか彼女の考えを変えさせるべく、私は頭を巡らす。

「お金はどうするの?そんなに持ってきてないけど」

「もちろん私の奢りだよ」

「ほ、ほら、いきなり泊まりだなんて言われても、着替えもメイク用品も何も無いし……」

「化粧落としも化粧品も、ナデシコに合いそうな物を私が持ってきてるから安心して。着替えなら私チョイスの可愛い服があるから」

「……ここじゃなくてもいいんじゃない?」

「泊まりたい部屋はもう決まってるから、どうしてもここじゃなきゃいけないの。予約も済んでるし」

絶句した。どうして彼女はここまで用意周到なのだろう。

私が熟知している彼女の性格も相まって、私は彼女と目の前のラブホテルに泊まるしかないという事実に絶望した。

「じゃ、入るよ」

「待って、心の準備をさせて」

「えー、先入ってるからね」

「えっ!?ちょっと!」

ドアが開き、彼女が遠ざかっていく。

私は心の準備ができないまま、慌てて彼女に続いて足を踏み入れる。


「予約をしていたテリオスベルです」

「おう、あのドギツいピンク色の部屋を予約してたヤツじゃねえか。やっと来たか」

「はぁ!?」

どうしてそんな部屋にしたのか聞きたかったが、今はそれどころじゃない。

祖父であるステイゴールドに自分であることがバレないよう顔を隠すように下を向く。

しかし、生まれた時からの付き合いである祖父の目は簡単には誤魔化せなかった。

「あぁ?お前、ナデシコか?」

秒でバレた。最悪だ。そりゃあ、変装も何もしていないんだから当たり前ではあるが。

「はぁ……ねえ、父さんやウシュバには絶対に言わないで、絶対!」

ウシュバ達にバレたらどんないじり方をされるのか、たまったもんじゃない。最悪、祖父にはバレてもあいつらにバレなければいい。そう思い、私は祖父に念を押した。

「わかってるって。アイツらに言わなきゃいいんだろ?お前もまだまだお子ちゃまだな」

「はぁ!?もうとっくに古馬なんだけど!?」

「ナデシコ、静かにして?ここホテルの中だよ」

「ぐっ……」

テリオスベルに咎められて仕方なく黙る。人のことを子供扱いするのは本当にやめてほしい。祖父に小言を言われるのは構わないが、彼女に舐められるのは本当に癪だった。

「ほらよ」

彼女が祖父から部屋のキーを受け取る。

「ありがとうございます」

「はぁ……」

彼女が祖父に軽く頭を下げてお礼を言うが、私はそんな気分にはなれなかった。

そして、私たちはエレベーターに向かって足を進めた。

「ナデシコ、大丈夫?」

「これが大丈夫に見える?」

エレベーターのボタンを操作しながらこちらを見上げる彼女にそう返す。もう最悪だ。私が何をしたって言うんだろう。

「うーん、とりあえず部屋に行こ」

エレベーターに乗り込み、彼女がボタンを押し、ゆっくりエレベーターが閉まる。

彼女と2人きりになった途端私は文句を言った。

「どうしてこんな部屋選んだわけ?悪趣味にも程があるでしょう」

彼女は私の嫌味を無視し、平然としている。そして何も言い返さず5階のボタンを押した。本当に最悪な人。

「着いたよ」

エレベーターから降り、彼女についていく。そして彼女に着いて行きながら、私は彼女と話を続けていた。

「ラブホなんて初めてなんだけど」

「私も。だからちょっと楽しみなんだよね」

……本当に悪趣味だ。私はそう心の中で呟いた。



「着いたよ」

彼女がドアを開ける。

私の目に飛び込むのは、ひたすら眩しいピンク色。私は少し息を吸ってから、わざとらしく大きめにため息をつく。ある程度予想していたものと完全に一致していたその部屋を見て、私の気分は下がりに下がっていた。

「……はぁぁぁぁ」

「そんなにため息つかないでよ、ナデシコにピッタリだと思って選んだんだから」

「はぁ??」

こんな蛍光ピンクのどこが私にピッタリなの!?私はそう言いたいのを必死に堪えた。もうまともに相手をするだけ無駄だと思ったからだ。

「ここで何するの?ラブホ女子会ってやつ?」

もうこの際部屋の趣味は良いとして、彼女の目的に話を進める。

最近よく聞くのだ、ラブホ女子会とやらを。何かあったらすぐ私に声をかけてくる彼女のことだから、何となく気になっていたラブホ女子会の相手に私を選んだというだけの話だろう。

しかし、彼女の口から聞かされた言葉は、私の想像を絶するものだった。

「ううん?普通にセックスだけど」

「セッ!?何言ってるの!?」

「……もしかして、ナデシコって処女?」

私の反応を面白がるように彼女が聞いてくる。私はその態度に余計苛立ちを募らせた。

「そ、そういうことじゃなくて!私たちは女同士よ?セッ……だなんて、やりようがないじゃない!」

「セックスが男女だけでしか成立しないものだと思ってる?ウブだね、ナデシコは。やり方なら調べてきたから大丈夫」

「そう言う問題じゃ……!」

「別にいいじゃん、ラブホ女子会だと思っててよ。せっかくお金も払ったんだし」

これはラブホ女子会なんかじゃない、ただの性行為だ。しかし、ここまできたらもう逃げられない。

彼女が私に近づく。私はじりじりと後ずさるが、すぐに壁に背中がついてしまった。そして私の顔の横でドンと手をつき、彼女は私に顔を近づけた。彼女の長い睫毛に縁取られた綺麗な瞳が私の視界いっぱいに広がる。

「……ナデシコ、黙って言うこと聞いて」

「なっ……」

その声と言葉には有無を言わせぬ迫力があった。今までに彼女が私に一度も出したことのない声色。私は怯んだ。そして彼女は私から離れ、自分の服に手をかけた。

「シャワー浴びておいでよ」

「……分かったわよ」

結局こうだ。いつも彼女にかき乱されペースを崩される。

うるさい心臓の鼓動を感じながら、私は大人しくバスルームに向かった。

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