揺籃

揺籃


モブがずっとしゃべってる

🦩全然出てこない







 『繭』の話を聞きたい? 見ねえ顔だとは思ったが、アンタ、余所から来た人かい? まあいいさ。そうだな、どこから話したもんか。この村が織物で栄えてるのはアンタも知ってるだろ? それはあの『繭』のおかげなんだ。あの『繭』から取れる糸は本当に質が良くてな。あの糸から作った布は絹よりも滑らかで天鵞絨よりも美しい、なんて言われるくらいだ。この村にしか材料がねえもんだから希少価値も大したもんだぜ。しかもどれだけ糸を取っても尽きることがないと来たもんだ。どうした? 煙草? ああ、好きに吸ったらいい。さてどこまで話したか。正直なところ、あの『繭』について分かってることはほとんど無いんだ。こうして村おこしに使っちゃいるが、いつからあるのかも分からねえ。もしかしたらあの大海賊時代からあるんじゃないかって噂もある。眉唾もんだがな。少なくとも、俺の曾祖父さんが生きてた頃からあるのは確かだぜ。何であんなもんがあるのかはもっと分からねえ。怪物やら神の使いやらが中で目覚めのときを待ってるって信じてる奴もいるし、大昔の罪人が閉じ込められてて、そいつが贖罪のために糸を紡いでるんだって言う奴もいる。『繭』の中に本当は何がいるのか誰も知らねえんだ。何でかって? 中を見た奴は死ぬからさ。体中をズタズタに引き裂かれて死んじまうんだ。恐ろしい話だろ──っておい! アンタ肩! 肩燃えてんぞ!? 何? よくあること? アンタ随分ドジなんだな……。まあ『繭』を見に行くつもりなら気をつけろよ。あの『繭』は火を嫌うからな。ドジで腕やら脚やら失いたくはねえだろ。……実はここだけの話、俺は『繭』の中にいる奴を見たことがあるんだ。見たっつってもほとんど覚えてないんだがな。五年くらい前のことだ。この村に盗賊が来た。どっからか『繭』の噂を聞きつけて盗もうとしたんだろうな。奴らが来たのは真夜中で、村の住民は皆寝入っちまってた。俺は偶然そいつらが来たのに気がついて後をつけたんだ。他の誰かを起こすべきだったと今なら思うが、あのときは冷静じゃなかったんだ。盗賊は複数人いたし、全員武器を持ってた。俺みたいな小心者はそれだけで気が動転しちまったんだよ。それでも何かしなきゃなんねえと思ってそいつらを追いかけたのさ。盗賊たちは『繭』のある森に向かっていって、俺はおっかなびっくりついていった。『繭』のもとにつくとそいつらは道具を取り出して、『繭』から糸を取り始めた。俺たち村の住民はさっきの話──「『繭』の中を見た奴は死ぬ」ってのをガキの頃から教えられるから、一度にあんまりたくさんの糸を取らねえようにしてるんだ。だが奴らはそうしなかった。俺たちが取る量の倍は取って、それでもまだ飽き足りねえみたいだった。俺は木陰に隠れながらどうしたもんかと焦ってたよ。結局何もできなかったがな。そうして奴らが糸をとってる内に、『繭』に掌くらいの隙間ができたんだ。その瞬間、一番前に立ってた盗賊が死んだ。本当に一瞬だった。風船が割れるみてえな音がしたかと思うと、そいつはぶっ倒れて動かなくなってた。俺には何が起こったのか全く分からなかったし、盗賊たちもそれは同じだった。奴らはそこでパニックを起こしたんだ。そしてナイフを持ってた奴が、叫びながらナイフを突き立てて『繭』を引き裂いた。残った糸も手に入れようとしてそうしたのかもしれねえ。そのとき俺は見たんだ。目の覚めるような金色の髪と、真夜中の暗がりでも分かるくらいぎらぎら輝く目を持った何かが、『繭』の奥にいたのを。夜叉っていうのはああいう目を持ってるんじゃないかって、俺は心底思ったよ。その後、俺はいつのまにか気を失ってて、気づいたら朝だった。その時にはもう『繭』は元通りで、盗賊はみんな潰れたトマトみてえになってて……今でも思い出す度ゾッとする。俺が『繭』について知ってることはこれが全てさ。大した話じゃないが、アンタの役に立ったなら何よりだ。……ところで、俺からも一つ質問していいか? さっき言った通り、俺は『繭』の中にいる奴を見た。五年も前のことだし、夢か現実かも分かんねえような胡散臭い体験だったが、俺はあのときのことを忘れたことは一度もねえ。全部はっきりと覚えてる。どういう道を使って『繭』のとこまで行ったか、空がどんな色してたかまで、はっきりとな。だから聞くんだ。俺にはアンタの髪が、あのとき見た金色の髪そっくりに見える。なあアンタ、どうしてこの村に来たんだい?




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