『接待 白い死刀(哲学の階)』
Part17 - 144ビナー「久しく見なかった顔を見たな」
ゲンパク「ガリオン……随分と見るに堪えない姿になった。眠り続けながら頭の中に浮かべる夢は其れ程に見心地がいいか?」
ビナー「其れは最早私の為の名ではない。例え見てくれが同じであろうとも」
ゲンパク「責任を果たさず無駄死にした分際でぬけぬけと囀ずってくれる」
ビナー「見るに堪えない、という意味では其方も大差は無かろう、ラヴァン。たかが一人の観測者に爪が染まるとは、中々面白いことになっているじゃないか」
ゲンパク「爪としての務めが変わらないなら、その事実に然したる大意はない。脳髄をくり貫かれ、いいように使われている貴様と比べれば余程上等だ」
ビナー「ああ、とても筆舌に尽くし難い時間であった。永劫に近い時を成長と腐朽を繰り返す大樹の中で過ごし、私はその中でこの者らの行き着く終着点に大きな興味を抱いた」
ゲンパク「星として都市を覆い、いずれ消え行く……探せばどこにでもある陳腐な定めをか?」
ビナー「その様な終わりもあるだろう。だが違う終着点もまた見える」
ゲンパク「どちらにせよ図書館は都市から消える。いずれ消え行く星の光となるか、都市の歯車から外れて外へと放られるかの違いでしかない」
ビナー「此度に置いては結末に大した意味はない。目を向けるべきは過程で何を得たのかだ。あの男が残した物が芽吹こうが、種の内に潰れようが、どちらの結末を迎えたとしても私は許容する。見定める、とな」
ゲンパク「……相も変わらず理解できん悪趣味だ、ガリオン。そして話が冗長に過ぎる。お前の悪い癖だ」
ビナー「其の恩恵で私は此処に立っている」
ゲンパク「間抜けが……」
(E.G.O.を形成する白い死刀)
ビナー「成程、貴様もまた内側と向き合ったのか。爪ではなく、一介も便利屋として足を運ぶ理由を今理解したよ」
ゲンパク「俺は爪だ。不純物を刈り棄てる、それが俺の役割だ。───頭や、目が無くなろうとも、爪(俺)は俺(爪)の為に役目果たす。他ならない利己(俺/爪)の意志でな」
ビナー「好かろう。では、疾く始めようか」